新基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票から1年がたった。反対が有効投票の72・15%に達したが、安倍政権は何事もなかったかのように名護市辺野古で工事を強行している。沖縄には民主制を適用しないと言わんばかりの振る舞いだ。だがこの1年で、建設計画の破綻はより明確になった。
防衛省は埋め立て予定海域約160ヘクタールのうち、キャンプ・シュワブ南西側の護岸で囲んだ2区域(計約40ヘクタール)から土砂投入を始めたが、県によると投入量は昨年10月末時点で全体の1%にとどまる。
東側に位置する大浦湾の埋め立て予定区域には、マヨネーズ並みの軟らかさとされる軟弱地盤が広がる。防衛省は砂ぐい約7万7千本を打ち込む地盤改良を検討しているが、その海域は73ヘクタールに及び、最大深度は90メートルに達する。
前例のない難工事で、実現性が疑われている。今月には、水面下70メートルより深い地盤が軟弱であることを示す新たなデータの存在も分かった。専門家チームは最悪の場合、護岸が崩壊すると指摘する。
データは防衛省が「ない」としてきたものだ。軟弱地盤は2014~16年のボーリング調査で判明していたが、政府は18年3月に市民の情報開示請求で公になっても認めなかった。不都合な情報をひた隠しにし、米軍基地の建設を推し進める姿勢は主権国家を自ら否定するに等しい。
政府は昨年末、基地建設の総工費は当初計画の2・7倍の9300億円に膨らみ、22年以降としていた普天間飛行場の返還は30年代以降にずれ込むとの見通しを示した。さらに長期化する可能性がある。工費は18年度までに1471億円を支出しており、県試算では総工費は最大2兆6500億円に膨らむ。
知事選や国政選挙でも「新基地建設ノー」の民意が示されたが、国は無視し続けた。辺野古工事を巡る県との訴訟では、国民の権利・利益の救済を目的とした行政不服審査法を持ち出して正当性を訴え、裁判所がそれを追認した。
新基地建設は、民主主義や法治主義とおよそ懸け離れた異常な手続きで進んでいる。地方自治、財政規律、環境保全などの面でも問題だらけだ。
米軍再編計画によれば沖縄の海兵隊は20年代前半から主力実戦部隊など約9千人がグアムやハワイなどに移る。中国や北朝鮮のミサイル射程内にある沖縄への基地集中については米専門家も懸念しており、殴り込み部隊である海兵隊の新基地建設は軍事的合理性からも必然性に乏しい。
安倍晋三首相の施政方針演説からは辺野古や普天間返還の文言が消えた。軟弱地盤などの難題を表面化させたくないのだろうが、完成が見通せない基地建設に拘泥し、政府自ら「世界一危険」と言う普天間飛行場の返還を放置することが許されるはずがない。新基地建設を断念し、無条件返還にかじを切るべき時だ。