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 新型コロナウイルスの感染が広がるなか、様々なイベントなどを開く必要性について、厚生労働省が主催者側に検討を促す声明を発表した。一律の自粛要請ではないとしつつ、今後見直す可能性にも触れている。

 声明には「屋内などで、お互いの距離が十分にとれない状況で一定時間いることが、感染のリスクを高める」とある。

 だが、これだけではあまりに漠としていて、市民は戸惑うばかりだろう。開催する際の「工夫」として紹介されている、手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置などは、すでに多くのところが実施している。

 「十分」な距離とはどの程度か、会場の状況のどんな点に留意すればいいのかなど、より具体的な情報と根拠となるデータを積極的に伝え、判断を側面から支えるようにしてほしい。

 感染のリスクを少なくするのに越したことはないが、人が集まる機会を全て中止したり延期したりするのは現実的でない。自粛のゆき過ぎは社会の萎縮と経済活動の停滞を招く。

 事業継続計画(BCP)をつくっている企業・団体は、それを踏まえて冷静に判断することが大切だ。病気の流行阻止と同時に、社会の「平常心」を保つ力が試されている。

 たとえば、満員電車での感染の危険性については、こんなふうに考えるべきではないか。

 運行を止めてしまえばリスクはなくなる。だが移動の手段を奪われる人が続出し、社会に甚大な影響が及ぶ。公共性の高い事業やサービスは原則として維持し続けなければならない。

 ただし、鉄道を利用する側の企業や職場が、時差出勤や自宅での勤務、テレワークなどを進んで採り入れることはできる。個々の自主的な取り組みや働きかけによって満員状態を少しでも緩和できれば、そのぶんリスクは減る。結果として、どうしても電車に乗らねばならない人たちが恩恵を受け、社会総体のメリットは大きくなる。

 厚労省はきのう、経団連をはじめとする経済団体に対し、社員に発熱など風邪の症状がみられるときは自宅で休養させる▽休みやすい環境や休暇制度を整備する▽パートタイムや派遣労働など多様な働き方に配慮する――などの要請をした。

 多くの職場や学校では、インフルエンザにかかったとわかれば、発症の翌日から5日間、出勤・出席を停止する措置が定着してきている。周囲に一時的な影響はあるかもしれないが、全体に目を向ければ流行の規模を抑えることにつながる。

 正しい認識をもち、実践する社会をつくることで、感染症との闘いに臨みたい。

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