ムレハタタテダイ
全長 13cm

 水納島にはムレハタタテダイが群れている根が一つあって、そこを「ムレハタタテダイの根」と呼んでいた。
 多いときには100~200匹くらいが美しい群れを作っていたものだ。

 ところが、ある年から急速に数を減らし、とうとう一匹も見られなくなってしまった。
 一匹もいないのにムレハタタテダイの根と呼ぶのがどうにもつらかった。

 その後、夏になるたびに幼魚が周辺の岩に集まり始め、うまく生き延びて成長したものがその根に戻ってくるようになった。
 年々数を増やしつつ、2001年にはとうとう50匹近い群れになった。

 ああ、良かった良かった、ムレハタタテダイの根の復活だ。

 と思ったのもつかの間。

 ある小さな、天気予報的にはまったく注視されなかった台風の一撃が、その根を痛打してしまった。

 台風後に潜って見たその光景は、なかなか衝撃的だった。

 根が崩壊していたのである。

 なぜその根にだけムレハタタテダイが集まっていたのかいまだに不明だが、とにかく住み心地が良かったのだろう。

 その後しばらくはムレハタタテダイの群れは望むべくもないシーンになっていたのだけれど、まったく別の場所で群れが観られるようになった。

 それまでどこにもいなかったのに、若魚の群れが突然出現し、その後何年かは盛衰を繰り返しつつも、オトナや若魚が常時数十匹は群れている状態が続いていた。

 そんなシアワセも今は昔。

 現れた時と同じく、ある時忽然と姿を消してしまった。

 以後、2017年の今に至るまで、「群れ」と呼べるほどのムレハタタテダイの集団に出会う機会は訪れていない。