このジャンルの火は消さない!孤軍奮闘する孤高の存在に
<コンセプト&アウトライン>
戦闘力を増強しつつ各種規制に対応
2010年代に入ると、走破性や積載性、快適性などを追求して総合的なツーリング性能を高めたアドベンチャーモデルや、往年の名車の雰囲気を現代的にアレンジしたネオクラシックバイクなどの需要が一気に増え始め、国内外を問わず各2輪メーカーはそれらのジャンルに注力するようになる。
その一方で、純粋に公道での走りを楽しむスーパースポーツのニーズは徐々に落ち始め、1000cc、600ccともに各社のモデルチェンジのスパンが少しずつ広がっていった。
ヤマハも例に漏れず、前回のモデルチェンジから9年後の2017年、YZF-R6を大胆に刷新する。
ちなみに欧州の排ガス規制ユーロ4が2016年1月1日から適用されており、その内容には燃料蒸発ガス規制の導入も含まれている。
ホンダはユーロ4規制に準拠していないアメリカを除いてCBR600RRの販売を終了。日本でもレースベース車のみが受注生産されるという状況に。
また、スズキも同様であり、一部の国でGSX-R600の販売を継続しているものの、日本では2017年シーズンを最後に入荷していない。
そんな下火になりつつある600ccスーパースポーツの現状を打破すべく登場したYZF-R6の2017年モデルは、2015年にフルモデルチェンジしたYZF-R1の流れを汲む前衛的なスタイリングをまとっているのが最大のポイントだ。
ヘッドライトとポジションランプのレイアウトをR1と共通とし、フロントカウル中央にあるラムエアダクトの造型をモトGPレーサーYZR-M1に限りなく近づけている。
燃料タンクは材質がスチールからアルミとなり、マグネシウム製のシートレール(リヤフレーム)は幅を20mm狭めるなどして足着き性を向上させている。
なお、フロントウインカーをバックミラーのボディに組み込むなど、さらなるエアロダイナミクスを追求。空気抵抗は前作比で8%もダウンしているという。
エンジンおよびメインフレームについては2008年モデルをベースとしながら、電子制御を強化したり、フロントフォークやブレーキ系統を刷新するなど、基本性能のベースアップを図っている。
クイックシフターを純正オプションで用意するなど、さらにクローズドコースでの走りを楽しめる仕様となったのだ。
<エンジン>
モード切り替えとトラコンを新規導入
2006年モデルで2世代目となったYZF-R6のエンジン。初代よりもビッグボア&ショートストローク化された上に、吸排気バルブの素材をチタン化。最高出力は120ps/13000rpmから127ps/14500rpmへと引き上げられた。
注目すべきは電子制御スロットルのYCC-T(ヤマハ・チップ・コントロールド・スロットル)で、2輪の量産市販車が採用するのはこれが初となる。そのほか、セミ油圧式のカムチェーンテンショナーやスリッパークラッチ、ヤマハの4気筒600ccでは初採用となる排気デバイスのEXUPなど、2世代目のエンジンには数多くの新機軸が盛り込まれていたのだ。
2008年モデルは、これをベースにエンジン回転数やスロットル開度に応じてエアファンネル(吸気管)の長さをロングまたはショートに切り替えるシステム、YCC-I(ヤマハ・チップ・コントロールド・インテーク)を追加。
さらに、新作ピストンの採用によって圧縮比を12.8:1から13.1:1へと高めたり、吸排気バルブスプリングを疲労強度に優れる素材に置き換えるなど、全面的に細部を見直している。
さて、2017年モデルは、エンジン内部にはほぼ手を加えず、電子制御系を強化してきたのが特徴だ。最大のポイントはトラクションコントロールシステムの導入で、介入レベルを6段階から任意に選ぶことができ、さらにカットすることも可能。
また、出力特性を切り替えるD-MODEも導入しており、個々のライディングテクニックに応じて走りを楽しめるようになった。
なお、スーパースポーツ世界選手権では、2017年と翌2018年の2年連続でライダースとマニュファクチャラーの両方で年間タイトルを獲得。
エンジンの基本設計が2006年モデルということを考えると、いかにヤマハが時代を先取りしていたかが分かるだろう。
<シャシー>
R1譲りの足回りを採用し、ABSも標準に
2世代目でオールキャスト製フレーム(シートレール、スイングアームを含む)となり話題を集めたYZF-R6。
3世代目の2006年モデルでは一部にプレス材を使用し、4世代目の2008年モデルでは見た目こそ変わらないもののゼロベースで作り直すなど、R6のシャシーはエンジン以上に進化が著しいのだ。
さて、2017年モデルはというと、メインフレームはABSを取り付けるための対応を行ったのみで、基本的には2008年モデルを踏襲している。
倒立式フロントフォークのインナーチューブ径をφ41mmからφ43mmに拡大しているので、本来であれば剛性バランスを整えるために何らかの手を加えるが、それが必要なかったのは前作のフレームの素性が良かったからだ。
なお、2008年モデルから採用されたマグネシウム製のシートレール(リヤフレーム)は、幅を20mm狭めた新作に置き換えられている。シート高は850mmと相変わらず高いままだが、このナロー化によって足着き性はだいぶ改善されている。
スイングアームはチェーンスライダーを変更した新作で、圧側減衰力調整を2ウェイとしたKYB製のリヤショックもフロントフォークの変更に合わせて新作となっている。
ラジアルピストンのニッシン製マスターシリンダーや、ラジアルマウントの対向4ピストンキャリパー、φ310mmからφ320mmに拡大されたフローティングディスクなど、フロントブレーキのセットはYZF-R1譲りに。
標準装備となったABSはサーキット走行を念頭に置いた仕様で、不自然な介入をしないようにセッティングされている。
R6初となるアルミタンクは、スチールでは不可能な形状と軽量化を両立しており、容量は17Lを確保。標準装着タイヤはブリヂストン製、ダンロップ製とも新しい世代のものがチョイスされている。
2019年7月、YZF-R1の2020年モデルが発表された。新しいフロントマスクはどことなくR6に似ており、そういう意味でもこのミドルスーパースポーツは時代を先取りしていたと言えるだろう。
主要諸元 ヤマハYZF-R6(2017年式) | |
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全長(mm) | 2040 |
全幅(mm) | 695 |
全高(mm) | 1150 |
軸間距離(mm) | 1375 |
キャスター角 | 24° |
トレール(mm) | 97 |
シート高(mm) | 850 |
車両重量(kg) | 190(乾燥) |
燃料タンク容量(ℓ) | 17 |
エンジン種類 | 水冷並列4気筒 |
弁形式 | DOHC4バルブ |
排気量(cc) | 599cc |
内径×行程(mm) | 67.0×42.5 |
圧縮費 | 13.1 |
最高出力 | 118.4ps/14500rpm |
最大トルク | 6.3kg-m/10500rpm |
変速機形式 | 6段リターン |
変速比・1速 | 2.583 |
変速比・2速 | 2.000 |
変速比・3速 | 1.667 |
変速比・4速 | 1.444 |
変速比・5速 | 1.286 |
変速比・6速 | 1.150 |
1次減速比 | 2.073 |
2次減速比 | 2.813 |
前ホイールトラベル | 120 |
後ホイールトラベル | 120 |
タイヤサイズ前 | 120/70ZR17 |
タイヤサイズ後 | 180/55ZR17 |
〈文責〉
ヤングマシン編集部
大屋雄一(おおや・ゆういち)
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