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【社会】

乗客感染 隔離前に集中 クルーズ船、感染研分析

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で起きた新型コロナウイルスによる肺炎(COVID(コビッド)19)の集団感染で、国立感染症研究所は十九日、乗客の感染の多くは客室待機が始まる五日より前に起き、待機後も続いていたとの分析結果を発表した。感染は船内で行われたイベントなどを通じて広がったとみられる。一方、十日以降は乗員の発症が増加。一部の乗員が船の維持に必要な業務を続け、隔離が不十分だったとの見方を示した。

 十九日の政府の専門家会議後に記者会見した脇田隆字座長は「(船内での)隔離が有効に行われたと確認した」と述べた。また「乗員から乗客に感染したという証拠はない」と指摘した。

 感染制御の助言のため船に入った日本環境感染学会の桜井滋・岩手医大教授は「感染には二回の波があった」と指摘。「最初はパーティーやビュッフェなどの乗客同士の交流だったがその後、乗員のサービスの提供で広がったと推定される」と話した。

 クルーズ船では十九日、高齢者を中心に乗客四百四十三人が下船。また同日、七十九人が陽性と判明、クルーズ船を巡る感染者は六百二十一人に達した。北海道、東京都と神奈川、沖縄両県でも新たに九人の感染が確認され国内で報告された感染者数は計七百五人となった。

 感染研の報告書によると、分析対象は十八日までにウイルス検査で陽性となった五百三十一人で、うち四百六十六人が乗客、六十五人が乗員だった。二百五十五人(48%)は症状がなかった。

 発症日が分かった百八十四人のうち三十三人は、客室待機が始まる五日以前に発症。六~九日には乗客七十九人、乗員十人の計八十九人が発症した。潜伏期間を考えると五日の客室待機開始前に一定程度、感染が広がっていたのは明らか。その後発症者は減少傾向にあるため、客室待機は乗客の感染拡大防止に有効だったとした。

 十日以降は乗員の発症が増加。十五日までに乗客三十二人が発症した。乗員は三十人だった。隔離が不十分で乗員に感染が広がったとみられる。

◆船内入った神戸大教授、批判

 「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として十八日に入った感染症専門医の岩田健太郎神戸大教授が十九日、本紙の取材に応じた。「感染の危険がない安全なゾーンと危険なゾーンが区分けされていない」「船内に常駐する感染症の専門家がいない」と問題点を指摘した。

 岩田教授は十八日夜、政府の対応を告発する動画をネット上に公開した。

 感染を防ぐためには本来、危険なゾーンと安全なゾーンを分けていなければならない。しかし、岩田教授は「船内は区分けの基準があいまいで、どこにウイルスがあるのか、ないのかが全くわからない状態。DMATを含めて、医療従事者に感染者がいつ出てもおかしくない状況で、がくぜんとした」と語った。

 岩田教授はこれまで、アフリカのエボラ出血熱や中国の重症急性呼吸器症候群(SARS)などさまざまな感染症の現場に立ち会ったが、「今回ほど自分が感染するリスクを感じたことはなかった」と憤る。

 「ダイヤモンド・プリンセス」を巡ってはこれまでに、乗客・乗員以外に検疫官や厚生労働省職員、救急隊員、看護師の四人の感染が判明。岩田教授によると、DMATなど支援に関わる人々の手袋やマスク、ゴーグルといった防護具の装着状況はバラバラだったという。検疫官や看護師の感染について「あの状況ではそうなるだろう」と話す。

 米疾病対策センター(CDC)の場合、感染症の専門家が現場で陣頭指揮をとるが、船内では専門家ではない厚労省の職員が指示を出していた。

 岩田教授が現場で聞いた報告では、医療を受ける患者には、微熱を訴えて直接医務室に行く人と、電話をして医療関係者が部屋に来るのを待つ人がいた。岩田教授は「発熱しているのに、直接医務室に行くということ自体が信じられなかった」と話した。

 岩田教授は「十八日夕、厚労省側に『検疫の許可を与えない』と下船を強いられた。船内隔離は『適切だった』という政府の説明はおかしい」と述べた。 (望月衣塑子)

 ◇ 

 一方、岩手医大の桜井滋教授は十九日、「乗客の隔離ゾーンと、職員らの待機、議論するゾーン分けは当初からされていた。(岩田氏は)船内に一時間しかいなかった。臆測に基づく発言が多い。乗員や医師らの中に二つのゾーンを行き来するときのルールを守らない人がいた」と話す。

(東京新聞)

「ダイヤモンド・プリンセス」から下船した人たちを乗せたバス=19日午後、横浜港で(嶋邦夫撮影)

「ダイヤモンド・プリンセス」から下船した人たちを乗せたバス=19日午後、横浜港で(嶋邦夫撮影)
 

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