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【東京】

「真相究明、終わっていない」 津波で児童ら84人犠牲 石巻・大川小

津波で多くの児童や教員を失った宮城県石巻市の旧市立大川小学校について語るライターの加藤順子さん=千代田区で

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 東日本大震災から来月十一日で九年-。震災による津波で在籍児童七十人が死亡、今も四人が見つからない宮城県石巻市立大川小学校を取材してきたライターの加藤順子(よりこ)さんが千代田区内で講演した。遺族が起こした訴訟では市や県の過失を認めた判決が最高裁で確定したが「あの日、何が起きたのか、今も解明されていない。終わっていない」と言葉に力を込めた。 (柏崎智子)

 大川小(二〇一八年に閉校)は、海まで三・八キロの位置にあった。そばを北上川が流れ、海抜一・一メートル。震災が発生すると、子どもたちは校庭へ避難し、家族が迎えに来た人を除き、約五十分待機させられた。

 津波の到達直前に避難を始めたが、裏の山ではなく川を目指して移動し、津波に流された。児童と教員合わせて八十四人が犠牲となった。

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 加藤さんは、発生直後から取材。見えてきたのは、遺族らに向き合わない市教委の姿勢だった。経緯を明らかにせず「自然災害だから仕方なかった」で、決着させようとしていると映った。

 説明会での学校や市教委の話は二転三転。唯一助かった教員は一度だけ説明に立ったが、内容は矛盾だらけ。「山さ逃げよう」と訴えた子どもがいたという児童の証言があったことも分かったが、市教委は否定。聞き取りメモはすべて廃棄されていた。

 加藤さんはなぜ市教委がそのような対応をするのか理解できず、どう報じていこうか迷った時期もあった。しかし、ある出来事によって事の本質に気付く。大津市の中学生がいじめを受けて自殺した事件。真相究明を求める遺族と隠そうとする市教委という構図が同じに見えた。「震災による悲劇ではない。学校事件だ」と腑(ふ)に落ちたという。

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 真相究明を求めて一部の遺族は市や県に損害賠償を求める訴訟を起こした。市や県の上告で最高裁までもつれたが、昨年十月、防災の不備など市や県の組織的な過失を認め、十四億三千万円の支払いを命じた二審判決が確定した。

 加藤さんは「市や県の上告は理由が弱く、メンツを守るためとしか思えない。裁判に時間もお金もかけているうちに、学校防災や教師の意識改革への着手が遅れてしまった」と批判した。

 「大川小の先生たちは一生懸命だったと、私も思う。しかし防災は教育とは異なる専門性が要求される」と強調。亡くなった子どもたちや今後の教訓とするためにも「真相究明を中途半端にしてはいけない。助かった先生には、いつか真相を話してほしい。祈るような気持ちだ」と語った。

 

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