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【社説】

船の感染拡大 対策の死角を洗い出せ

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客らの下船が始まった。新型コロナウイルスの検疫のための船内待機だったが、政府の対応には課題も見つかった。検証すべきだ。

 感染症の状況は日々変わる。その中で一度に多数者の感染防止が求められる船舶への対応の難しさがあらためて分かった。

 約三千七百人が乗るクルーズ船に感染者がいたことは二月一日に判明した。三日に横浜に到着、五日に感染者を確認した。

 この間、医療機関などの受け入れ態勢を整える間もなかった。政府は感染が分かった五日から十四日間の船内待機を決めた。

 世界保健機関(WHO)は、待機については感染を広げないためには適切だったと評価している。

 一方で、船内で感染を防ぐための政府対応は疑問視している。政府がまず検証すべきは、五百人超の感染をなぜ抑えられなかったのかである。配膳などで船内を動く上、相部屋で過ごしていた船員が感染拡大とどう関わっていたかも重要な点だ。対策の効果や、感染者の症状とその経過などの疫学情報を精査し、早急に国際社会に発信する責任もある。

 乗客には高齢者が多く、持病のある人もいて健康問題も徐々に表面化した。情報不足が不安を増幅させた。

 政府は高齢者の一部を先に下船させる方針に転換したが、もっと早くできなかったのか。感染防止と生活支援の両立を柔軟に行うため政府内の連携や民間との協力態勢を考えたい。

 国際社会との連携も重要である。クルーズ船の外国人乗客の保護に各国はチャーター機を運航したが、船舶の感染症対策は国際法上、どこの国が責任を負うのか取り決めがない。手探りでの対応を余儀なくされている。各国の役割分担など事前に決めておく必要があるのではないか。

 政府は別のクルーズ船「ウエステルダム」への対応でも苦慮した。日本も入港を拒否したことで、しばらく海上に待機せざるを得なかった。このケースも国際社会の対応に課題を残した。ルールづくりに日本の経験を生かすべきだ。

 日本へのクルーズ船の寄港は二〇一八年には二千九百三十回、旅客は約二百四十五万人になる。政府は二〇年に訪日客五百万人を目標に掲げる。観光立国を目指すというのなら、船舶の感染症対策に死角をつくってはならない。

 

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