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日本政府による尖閣諸島国有化に反対する保釣運動(尖閣防衛運動)」が23日台北市内で行われた事は日本のテレビや新聞でも取り上げられている。今回の反日デモのニュースをみて「親日の台湾までが・・・」という声が聞こえてきそうだが、「過去最大規模」とされる今回の反日デモについて若干の情報を補足して紹介してみたい。
まずは参加者数であるが主催者発表によると三千人とされている。元より信をを置くことは出来ない。参考までに日台の主要各紙による参加者数は次の通り。
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デモ行進の全体の様子を撮影した動画を見みると、参加者の実数は500名に及ばないようにみえる。現地の台湾人からの報告では「300名程度ではないか」と語っており、実態を把握していたのは産経と日経であったというところだろうか。当初「参加者は少なくとも1,000人。だが3000~5000人に膨らむ可能性がある」と予測していた主催者の期待は大きく下回っているのは間違いない。
次に主催者であるが、今年65歳となる林孝信氏(世新大学客員教授)を代表とする「人人保釣大聯盟(台灣人保釣大聯盟)」という組織とのこと。林氏は台湾で保釣運動が開始された1971年から活動を牽引してきた最古参の保釣活動家、蔣介石政権下でブラックリスト入りを経験した林氏の来歴は興味深い。
1970年11月、プリンストン大学の台湾からの留学生を中心に結成された「保釣行動委員会」にシカゴ大で物理学を専攻していた若き日の林氏も参加している。しかし台湾民主化運動と連動した反政府活動家とみなされた林氏は中国国民党の黑名單(ブラックリスト)に登録されてしまう。そして旅券は抹消、中華民国国籍も剥奪されてしまった。学生証も失効した林氏は米国で不法移民として当地で社会運動に携わっていたという。
1987年、台湾の戒厳令が解除されようやく帰国が認められた林孝信氏の台湾定住がかなったのはそれから10年後の1997年。この年は中華民国史上初の総統直接選挙が実施され李登輝総統が勝利した時代である。同時期にハーバード大留学生とし米国を拠点に言論活動を始めた馬英九氏がその後中国国民党内で順調にエリート街道を駆け上がっていった姿とは対照的である。
林孝信氏によると与党・中国国民党と野党・民主進歩党や台灣團結聯盟など各政党にデモの目的を説明、協力を要請したが参加に積極的に応じたのは新党と親民党のみであったとのことで、今回のデモには立法委員(=国会議員)では劉文雄親民党副秘書長が参加。新党からは吳成典秘書長、王鴻薇台北市議員、中国国民党からは台北市議員の林奕華、李新、厲耿桂芳の三氏が参加している。
林孝信氏が主催する「人人保釣大聯盟」のもとに集った主要な参加団体は、台湾社会では圧倒的なマイノリティである中台統一を掲げる社会主義政党の労働党系民間団体「両岸和平発展論壇」、尖閣諸島海域での漁業権と領有権を主張する「中華保釣協会」。そのほかには先述の新党、親民党のほか「中華民族団結協会」、「中国統一連盟」、「新同盟会」などが参加しており、また写真や動画上には黄埔軍官学校出身者からなる退役軍人団体「中華黄埔四海同心会」の横断幕も見受けられる。いずれも台湾人社会において自らを「中国人」とみなす傾向が強い団体である。
デモの参加者のうち「新党」が動員したという100名の参加者は青天白日旗を模したポロシャツを着用し、その他の参加者の多くも赤い帽子、横断幕そして幟旗を掲げているためにデモ隊全体は遠目には赤色集団にみえる。特筆すべきことは中華民国の青天白日旗とともに五星紅旗が数か所で掲げられていることだろう。下の二番目の動画『保釣遊行喊「兩岸聯手」 』(1:15~)にはそれを咎め立てする台湾人の通行人の姿が写しだされており興味深い。林氏によると五星紅旗の持込は参加者個人によるものであるという。
なおこの抗議活動でキーワードとなる言葉のひとつが「兩岸聯手 保釣(中国と台湾が連携して釣魚台を護れ)」である。それ以外に「日本軍國主義 危害亞洲人民」や「美日條約廢棄(日米安保廃棄)」「U.S.GET OUT!!」「倭寇滾出釣魚台(日本人は尖閣諸島から出ていけ:倭寇=日本人への蔑称)」などのプラカードも登場している辺りは統一派主体の抗議活動ならでは。当然ながら台湾社会でも非常に特殊で、台湾社会の“noisy minority”である。
また「中華両岸婚姻協調促進会」という中国出身の女性配偶者が主体の団体もこのデモに多く参加しており、「新住民 保釣」と書かれた鉢巻きをした若い女性は「台湾は中国と比べると日本に対する態度が生易しい」と語っている。台湾の保釣運動は資金不足と高齢化が進んでいるといわれて久しいが、「中華両岸婚姻協調促進会」がfacebookに投稿した写真を見ると若い女性(中国人妻)と子供連れでの愉し気な雰囲気、笑顔も多い。パフォーマンスで破り棄てた旭日旗を丁寧に掃除している姿もあるが、一方で五星紅旗を堂々と掲げてもいる。
同日午後2時半、国府記念館を出発したデモ隊は「兩岸聯手 保衛釣魚台(中国と台湾が協力して釣魚台(尖閣諸島の台湾側呼称)を守ろう」という標語の横断幕やプラカードを手にして台北市中心部(仁愛露~光復南路~忠孝東路~復興南路~長春路)をデモ行進。途中のUNIQLOや太平洋SOGO前では「抵制日貨(日本製品ボイコット)」や「打倒日本軍国主義」といった呼号がなされて、道行くひと達の耳目を集めた。午後4時に交流協会台北事務所(日本大使館に相当)に到着。デモ隊参加者により「保釣行動劇」が披露されたのち、杉田雅彦交流協会総務室兼経済室主任に対して抗議文が手渡され抗議活動は終了。
中国のそれとは大きく異なり台湾では日系商店に対する営業妨害や不買運動といった目立った動きは皆無といってよく、過去最大規模とされた今回のデモにおいても破壊行為や暴力行為などは無く粛々と抗議活動が行われたのである。
抗日購釣魚台「人人保釣」遊行起跑抵抗
保釣遊行喊「兩岸聯手」 爆拉扯衝突-民視新聞
交流協会周辺には警備の警官300名とデモ隊が取り囲み、近隣住民の男性からは「出入りが不便になる」という苦情も。
【御参考】 蘋果日報「沒主權就沒漁權」千人保釣遊行驚見五星旗 http://www.appledaily.com.tw/realtimenews/article/life/20120923/143808/
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日本政府による尖閣諸島国有化に反対する保釣運動(尖閣防衛運動)」が23日台北市内で行われた事は日本のテレビや新聞でも取り上げられている。今回の反日デモのニュースをみて「親日の台湾までが・・・」という声が聞こえてきそうだが、「過去最大規模」とされる今回の反日デモについて若干の情報を補足して紹介してみたい。
まずは参加者数であるが主催者発表によると三千人とされている。元より信をを置くことは出来ない。参考までに日台の主要各紙による参加者数は次の通り。
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デモ行進の全体の様子を撮影した動画を見みると、参加者の実数は500名に及ばないようにみえる。現地の台湾人からの報告では「300名程度ではないか」と語っており、実態を把握していたのは産経と日経であったというところだろうか。当初「参加者は少なくとも1,000人。だが3000~5000人に膨らむ可能性がある」と予測していた主催者の期待は大きく下回っているのは間違いない。
次に主催者であるが、今年65歳となる林孝信氏(世新大学客員教授)を代表とする「人人保釣大聯盟(台灣人保釣大聯盟)」という組織とのこと。林氏は台湾で保釣運動が開始された1971年から活動を牽引してきた最古参の保釣活動家、蔣介石政権下でブラックリスト入りを経験した林氏の来歴は興味深い。
1970年11月、プリンストン大学の台湾からの留学生を中心に結成された「保釣行動委員会」にシカゴ大で物理学を専攻していた若き日の林氏も参加している。しかし台湾民主化運動と連動した反政府活動家とみなされた林氏は中国国民党の黑名單(ブラックリスト)に登録されてしまう。そして旅券は抹消、中華民国国籍も剥奪されてしまった。学生証も失効した林氏は米国で不法移民として当地で社会運動に携わっていたという。
1987年、台湾の戒厳令が解除されようやく帰国が認められた林孝信氏の台湾定住がかなったのはそれから10年後の1997年。この年は中華民国史上初の総統直接選挙が実施され李登輝総統が勝利した時代である。同時期にハーバード大留学生とし米国を拠点に言論活動を始めた馬英九氏がその後中国国民党内で順調にエリート街道を駆け上がっていった姿とは対照的である。
林孝信氏によると与党・中国国民党と野党・民主進歩党や台灣團結聯盟など各政党にデモの目的を説明、協力を要請したが参加に積極的に応じたのは新党と親民党のみであったとのことで、今回のデモには立法委員(=国会議員)では劉文雄親民党副秘書長が参加。新党からは吳成典秘書長、王鴻薇台北市議員、中国国民党からは台北市議員の林奕華、李新、厲耿桂芳の三氏が参加している。
林孝信氏が主催する「人人保釣大聯盟」のもとに集った主要な参加団体は、台湾社会では圧倒的なマイノリティである中台統一を掲げる社会主義政党の労働党系民間団体「両岸和平発展論壇」、尖閣諸島海域での漁業権と領有権を主張する「中華保釣協会」。そのほかには先述の新党、親民党のほか「中華民族団結協会」、「中国統一連盟」、「新同盟会」などが参加しており、また写真や動画上には黄埔軍官学校出身者からなる退役軍人団体「中華黄埔四海同心会」の横断幕も見受けられる。いずれも台湾人社会において自らを「中国人」とみなす傾向が強い団体である。
デモの参加者のうち「新党」が動員したという100名の参加者は青天白日旗を模したポロシャツを着用し、その他の参加者の多くも赤い帽子、横断幕そして幟旗を掲げているためにデモ隊全体は遠目には赤色集団にみえる。特筆すべきことは中華民国の青天白日旗とともに五星紅旗が数か所で掲げられていることだろう。下の二番目の動画『保釣遊行喊「兩岸聯手」 』(1:15~)にはそれを咎め立てする台湾人の通行人の姿が写しだされており興味深い。林氏によると五星紅旗の持込は参加者個人によるものであるという。
なおこの抗議活動でキーワードとなる言葉のひとつが「兩岸聯手 保釣(中国と台湾が連携して釣魚台を護れ)」である。それ以外に「日本軍國主義 危害亞洲人民」や「美日條約廢棄(日米安保廃棄)」「U.S.GET OUT!!」「倭寇滾出釣魚台(日本人は尖閣諸島から出ていけ:倭寇=日本人への蔑称)」などのプラカードも登場している辺りは統一派主体の抗議活動ならでは。当然ながら台湾社会でも非常に特殊で、台湾社会の“noisy minority”である。
また「中華両岸婚姻協調促進会」という中国出身の女性配偶者が主体の団体もこのデモに多く参加しており、「新住民 保釣」と書かれた鉢巻きをした若い女性は「台湾は中国と比べると日本に対する態度が生易しい」と語っている。台湾の保釣運動は資金不足と高齢化が進んでいるといわれて久しいが、「中華両岸婚姻協調促進会」がfacebookに投稿した写真を見ると若い女性(中国人妻)と子供連れでの愉し気な雰囲気、笑顔も多い。パフォーマンスで破り棄てた旭日旗を丁寧に掃除している姿もあるが、一方で五星紅旗を堂々と掲げてもいる。
同日午後2時半、国府記念館を出発したデモ隊は「兩岸聯手 保衛釣魚台(中国と台湾が協力して釣魚台(尖閣諸島の台湾側呼称)を守ろう」という標語の横断幕やプラカードを手にして台北市中心部(仁愛露~光復南路~忠孝東路~復興南路~長春路)をデモ行進。途中のUNIQLOや太平洋SOGO前では「抵制日貨(日本製品ボイコット)」や「打倒日本軍国主義」といった呼号がなされて、道行くひと達の耳目を集めた。午後4時に交流協会台北事務所(日本大使館に相当)に到着。デモ隊参加者により「保釣行動劇」が披露されたのち、杉田雅彦交流協会総務室兼経済室主任に対して抗議文が手渡され抗議活動は終了。
中国のそれとは大きく異なり台湾では日系商店に対する営業妨害や不買運動といった目立った動きは皆無といってよく、過去最大規模とされた今回のデモにおいても破壊行為や暴力行為などは無く粛々と抗議活動が行われたのである。
抗日購釣魚台「人人保釣」遊行起跑抵抗
保釣遊行喊「兩岸聯手」 爆拉扯衝突-民視新聞
交流協会周辺には警備の警官300名とデモ隊が取り囲み、近隣住民の男性からは「出入りが不便になる」という苦情も。
【御参考】
蘋果日報「沒主權就沒漁權」千人保釣遊行驚見五星旗
http://www.appledaily.com.tw/realtimenews/article/life/20120923/143808/