コラム

「最後の講義 大林宣彦編」80才の映画作家の情熱、かく語りき。“映像の魔術師”が若者たちに向けた、人生のラストメッセージとは?

「去年8月に私の映画人生76年の集大成として映画を作ろうとした、その前日に肺がん第4ステージ余命3カ月という宣告を受けまして、本当は今ここにいないんですが、まだ生きております」

 2017年に開かれた「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017」アワードセレモニーの冒頭で、映画作家・大林宣彦さんはそう明かしました。余命宣告を越え、約1年半。集大成として取り掛かった映画「花筐/HANAGATAMI」は、先日ベストシネマ1位を受賞。まさに“命懸け”で映画と向き合う大林さんが「もし今日が最後だとしたら、何を語るか」という問いに対して、どんな講義を開くのか。3月11日にNHK BS1で大林さんの「最後の講義」が放送されます。語りは「花筐/HANAGATAMI」にも出演している、女優の門脇麦さん。

「最初に、戦争体験がありました。だから僕は、僕の映画をシネマゲルニカと呼んでいるんです」

 大林さんは広島県・尾道市出身。生まれ故郷を舞台にした「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」はファンたちの間で“尾道三部作”とも呼ばれ、熱狂的な支持を集めています。大林さんが映画と出会ったのは3才の時。ちょうど日本が太平洋戦争開戦に向け突き進んでいた頃の話です。医者である父が買ったカメラをおもちゃにして遊び、「見る」より前に「作る」ことで映画に親しみを覚え、7才の時、日本がアメリカに敗戦したのを目の当たりにします。このころから映画製作で身を立てようと決心したのだとか。

「映画なんかいらなくなる時代が来るまで、僕は人々に伝えるべきものを伝えているんだ、と」

 高校生の頃には映画だけでなくピアノや演劇、小説執筆と多彩な才能を発揮し、大学の映画科を中退してからというもの、ますます映画の世界にのめり込んでいきます。当時はまだ珍しかった自主制作映画のパイオニア的存在となり、CMディレクターとしても活動を始めます。さらに商業映画、アイドル映画、と活動の幅をどんどん広げていきました。

「未来のために、僕は生きなきゃならない。そして未来のためにこそ、僕だけが知っている過去のことを皆さんに伝えなければならない」

 敬愛する黒澤明監督から晩年に託された「映画には世界を必ず平和にする力がある」という言葉を胸に、今日まで走り続けたトップクリエーターの大林さん。フィロソフィー(哲学)の根底にある、戦争体験、忘れられていく記憶…。2025年には戦争体験世代が全体の人口に対して6.2%、50年には0.1%になる、という試算がある中で大林さんはその世代において“伝える力”がずば抜けた唯一無二の存在と言えます。70年前の「日常」だった戦争と、大林さんが愛してやまない映画にはどんな結び付きがあるのでしょうか。「映画とは“フィロソフィー”」「自分の中の平和孤児」「100年後に分かる映画」という三つのテーマを軸に、長年の映画制作で貫いてきたことや、映画の本質を語ります。

 大林さんが作り上げる映像の迫力や、経歴だけをたどると猛々(たけだけ)しささえも感じさせますが、大林さんが聞き手に語りかける時のその柔和な表情や優しい語り口は夕方の凪(な)いだ海のような穏やかさにあふれています。本当に同一人物なのだろうかと疑ってしまうほどのギャップ…! 映画好きの方にも、そうでない方にもぜひ見ていただきたい番組です。心揺さぶる魂のメッセージに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

NHK担当 K・S

【番組情報】
「最後の講義 大林宣彦編」 
NHK BS1 
3月11日 午後9:00~9:50
 
キーワード

関連記事
PAGE TOP