Junwoo-Cho
出生率「0.98」 韓国の女性に広がる新たな価値観
2/19(水) 9:00 配信
韓国の2018年の合計特殊出生率が「0.98」を記録した。1を割り込んだのは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも唯一。背景には若い世代が抱えるさまざまな不安があるといわれ、未婚率も急増している。韓国の若い世代に今何が起きているのか、話を聞いた。(ノンフィクションライター・菅野朋子/Yahoo!ニュース 特集編集部)
借金しての結婚生活はしたくない
「まず浮かぶのは経済的な問題。どれだけお金がかかるのか心配が先に立ちます」
最初に口を開いたのはミョン・ヒジンさん(32)だ。2019年秋、ソウルのオフィス街・光化門(クァンファムン)にあるカフェのミーティングルームで20~30代の女性3人に集まってもらい、「結婚、出産」について話を聞いた。
ミョン・ヒジンさん(撮影:Junwoo-Cho)
ミョンさんは韓国の新聞社に勤める新聞記者だ。韓国経済紙の調査では、ミョンさん世代が希望する年収平均は約300万円。一方、大手企業で働く30代の年収は平均830万円ほどで(韓国金融監督院調べ)、ミョンさんの年収はその間くらいだという。本人は「恵まれているほう」だと話す。
それでも、経済的な不安を肌で感じたことがある。ソウル近郊の実家を離れ、一人暮らしを始めたときだ。
ソウル市中心部から電車で20分ほどにある古びたマンション、25平方メートルほどのワンルームを賃貸で借りた。入居時に支払ったチョンセ(保証金)は約1300万円だった。
チョンセは韓国の独自の不動産賃貸制度だ。家主はこれを運用して利益を得て家賃収入とする。借り主は月々の家賃負担がなく、退去時には全額返金される。ただし、チョンセは不動産価格の最低50%からが相場とされ、相当高額だ。新婚夫婦が希望する60~70平方メートルほどのソウル市内の賃貸マンションであれば、チョンセは3000万円以上が相場となる。購入する場合はその2倍以上の資金が必要だ。最近では金利の低下によりチョンセ額を下げ、月の家賃を設定する家主もいるが、不動産価格が高騰している韓国ではいずれにしてもかなりの負担となる。
ミョンさんはチョンセの支払いは、自身の貯蓄と銀行からの融資に加え、それでも足りない分は両親に借金したという。
「これだけ不動産が高いと、結婚したときはどうなるのだろう、とため息がでました。借金しての結婚生活は始めたくありませんから。結婚しないのも選択肢のひとつかなと、30歳を過ぎた頃から思い始めました」
(撮影:Junwoo-Cho)
中堅クラスの広告会社に勤めるイ・ヘリさん(32)は韓国社会の男女をめぐる儒教的な価値観やジェンダーギャップについて触れた。
「他の先進国に比べると、韓国は女性の地位が低いと思います。結婚すれば家事など負担が増えて、女性ばかりが犠牲になる。それならあえて結婚する必要はない。そう思っていました」
イさんは学生時代をニュージーランドとタイで過ごした。自身を典型的な韓国人ではないかもしれないと前置きしたうえで、長い間、結婚への希望はもっていなかったと言う。
これまで韓国では、賃金などの雇用条件で女性が不利になるケースが珍しくなかった。1999年までは公務員試験制度などで軍に服務した男性に加算点を与える制度もあった。
イさんが当初勤めた会社にも、不平等な条件や女性の意見を蔑ろにするような雰囲気があった。それに反発を覚え、今の会社に転職した。
結婚に希望を持っていなかったというイさんだが、来年(2020年)、結婚はすると、少しはにかみながら打ち明けた。互いのマインドがよく合い、一緒にいると精神的に安らぐことが大きいという。
「ただ、子どもは持たないと話しています。韓国では育児において、女性が身も心も犠牲にしなければならない。子どものために結婚するわけではありませんから」
イ・ヘリさん(撮影:Junwoo-Cho)
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