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【社説】

トランプ氏暴走 権力分立が蝕まれる

 トランプ米大統領の暴走が止まらない。今度は露骨な司法介入を行った。ブレーキ役を果たさない議会の責任は重い。権力分立は米国憲法の基本原理の一つでもある。それが蝕(むしば)まれていく。

 司法介入の経緯はこうだ。

 ロシア疑惑をめぐって偽証罪など七つの罪に問われたロジャー・ストーン被告に、検察は禁錮七~九年を求刑した。

 被告はトランプ氏の長年の盟友である。トランプ氏はこの求刑を「不公正だ」とツイッター上で批判した。その直後、司法省は求刑が重すぎるとして撤回する方針を示し、これに抗議して検事四人が裁判の担当を外れた。

 この事態を憂慮した千百人を超える司法省の元職員が声を上げた。公正な司法行政に介入したとして、トランプ氏に従順なバー司法長官に辞任を要求する公開状に署名した。

 公開状は司法省の量刑軽減方針については「万人は法の下では平等であるべきで、大統領の盟友だからといって特別扱いされるべきではない」と非難する。

 法治国家では当たり前のことをわざわざ指摘したところに、今の異常ぶりがみてとれる。

 トランプ氏は「権力乱用」を厳しく問われた弾劾裁判を乗り切ったばかりだ。身を慎むどころか、無罪評決を勝ち取ったことで増長しているのではないか。

 トランプ氏の専横を許しているのが議会である。弾劾裁判は十一月の大統領選をにらんで党派色が前面に出た。それでも訴因の重大性を踏まえれば、真相解明に努めるべきだった。

 ところが共和党は新たな証人招致を拒否し、わずか三週間で幕引きに持ち込んだ。

 司法府と並んで立法府と行政府は互いにチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)を果たすことで権力の一極集中を防いでいる。

 それを共和党はトランプ人気に気兼ねして、チェック機能を放棄した。トランプ氏の行為は不適切だったが罷免するまでは至らないという声も党内で聞かれた。そうして目をつぶったことの代償は高くつきそうだ。

 元司法省職員らの公開状は「巨大な権力で敵を罰する一方で、味方には褒美を与える政府では、憲法に基づく共和国ではない。それは独裁である」と強い危機感を表明した。

 民主制と法治体制が損なわれていく現実に米社会は向き合う必要がある。

 

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