実家を捨ててから。
テーマ：人間関係
![田中 美知子（ナナコ）のプロフィール](data:image/svg+xml,<svg xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" width="40" height="40"><rect fill-opacity="0"/></svg>)
強く、凛々しく、美しく
潔く、快く、朗らかに。
私を構成するものは
そんな類のモノであって欲しい。
それでも
捨てたモノへの罪悪感は
一生無くなりはしないと思う。
もちろん
その程度は軽くなるにしても。
0にはならない。
無理にそうする必要もない。
時間の流れに任せながら
静かにたゆたうのを待つ
そっと見守りながら。
実家を捨てて良かったことは
私が私に戻れたこと。
あそこに居ると
私の陰と陽はマーブルになった。
胃が、自分の真ん中が、魂が
ぐにゃりぐりゅりとエグられた。
父が他界してから数年後
私は一人暮らしを始めた。
家を出る前の晩
ファミレスで母と食事をした。
母は、悲しそうに泣いていた。
実家が耐え難かったのに
胸が張り裂けそうだったのを覚えている。
こんな感情を味わうことも
もう終わりにしたかった。
距離を取れば優しくなれる
上手くやれると期待したのだ。
しかし
年月をかけたが
何でも受容する出来た娘には
なり切れなかった。
たまに来る母からのメールは
陰湿で執拗なクレーマーの様で。
次はいつ帰ってくるの？
めんどくさいんでしょ？
せっかく買ってあげた高価な浄水器
いつになったら使うのよ？
お母さんがどんな気持ちで
プレゼントしたと思ってるの？
つまらない。
お父さんがいなくて
本当につまらない！
私の1日を台無しにするには
十分過ぎるくらいの重たさだった。
そのたびに優しい言葉を選んだり
平謝りしたり
慰めたりを繰り返していた。
そうすることが正解だと思ったからだ。
娘、として。
無論
そんなアンバランスが続く訳もなく。
母娘関係は次第にこじれてゆき
時期に兄も混ざり込み
私の陰と陽のマーブルは
ただのエグい黒緑になった。
それからというもの
音信不通を貫いていた。
後に
祖母の死が近いからと
お願いだから帰って来てと悲願された。
予期はしていたが
恐れていた事が現実になってしまった。
血縁者の死を目前に
大きくグラつく心。
それでも私は
結局無反応を貫いた。
死に際を見届けられなくとも
あの人たちとは関わりたくない。
喪服とともに
母や兄と参列する自分を想像すると
滑稽過ぎて吐き気がした。
私は人間じゃないのかも知れない。
残酷なことをしていると思った。
一人、深夜の駅ビルの前で泣いた。
生ぬるい風が吹き
素行の悪い青年が
スケボーを乗り回していた。
ケラケラと乾いた笑い声が
人気のない広場に虚しく響き渡る。
救いようのない
燻んだ真夜中の藍色。
もうこれが決定打だ
後戻りは決して出来ない
そう、何かから宣告された。
絶縁覚悟を決めた夜だった。
時期を置かずして、私は夫と結婚。
ケータイは解約し
番号もアドレスも変えた。
実家へは
一方的な結婚報告と
もう二度と帰るつもりがないこと
私は自分で幸せになるから
お母さんも自分の幸せを見つけて欲しい
そんな内容をしたため
投函した。
もちろん私の宛名は書かないままに。
それから数年間
開放感と、罪悪感の間を
行ったり来たり繰り返した。
激しい航海だった。
暮らしは乱れ、夫を責め
自分が分からなくなった。
穏やかな日々が欲しかった。
安心したかった。
ただ、それだけだった。
そうして私は
手放すコトを知ってゆく。
少しずつ、少しずつ。
失敗と成功を折り重ねながら。
執着しない意味を知ってゆく。
誰も恨んだりしていない。
一つも後悔していない。
捨てて身勝手と非難されても
私は罪悪感という代償を背負っている。
正直言って
母親を思い出さない日は
一日たりとも無いのだ。
この闇は
一生モノだと覚悟をしている。
でも
言っておきたい。
闇は悪いモノではない。
人は陰と陽のバランスを取って
初めて幸せになれる。
明るさだけでは輝けない
影があって幸せを知る。
光と影があるから
世界の優しさがわかる。
捨てた分だけ
辛さの分だけ
見える世界があるのだから。
いつか私の命が尽きた時
どんな人間でも抱きしめてあげられる
それくらいにでっかくなっていたい。
だから今日も
強く、凛々しく、美しく
潔く、快く、朗らかに。
それを
胸に刻んで生きるのだ。
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