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日経FinTech編集長 岡部一詩
日経FinTech編集長 岡部一詩
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 サービスが乱立し百花繚乱の体をなしていたスマートフォン決済が、気付けば通信キャリアを中心に回りつつある。

 ソフトバンク傘下のPayPayは、100億円キャンペーンなどのキャッチーな還元策と営業力を生かした大規模な加盟店開拓で一気に台風の目となった。サービス開始から1年余りでユーザー数は2000万人を突破。頭一つ抜け出したように思われたタイミングでPayPayに出資するヤフーを傘下に抱えるZホールディングスは、有力な対抗馬とみられたLINEとの経営統合に踏み込んだ。

 当時、業界関係者に話を聞いたところ、「これに動じないのはNTTドコモくらいではないか」と漏らした。1億人規模のユーザー基盤を抱えることになるヤフー・LINE連合に対抗できるのは、7345万人のdポイントクラブ会員を持つNTTドコモにしかないのでは、という見立てだ。

経営統合について会見するZホールディングスの川邊健太郎代表取締役社長CEO (左)とLINEの出澤剛代表取締役社長CEO
経営統合について会見するZホールディングスの川邊健太郎代表取締役社長CEO (左)とLINEの出澤剛代表取締役社長CEO
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 この関係者の読み通り、NTTドコモはスマホ決済のアクセルを緩めていない。一つは、2019年11月28日に提供を開始した「d払い ミニアプリ」だ。外部事業者のアプリをd払いアプリから利用できるようにしたもので、第1弾としてタクシー配車の「JapanTaxi」を組み込んだ。12月には第2弾として「ドコモ・バイクシェア」を使えるようにし、吉野家での事前注文なども実装していく。

 スマホ決済内に様々な周辺アプリを追加する“ミニアプリ戦略”は、PayPayも採用している。くしくもNTTドコモと同じ11月28日、PayPayアプリ内で「DiDiタクシー」を利用できるようにした。決済を中心に、多岐にわたる生活サービスをワンストップで提供するスーパーアプリ化につなげるための一手だ。

 NTTドコモとメルカリとの業務提携も注目される。両者は本提携で、d払いとメルペイの残高を今夏にも一元化することを明らかにした。ある意味、PayPayとLINE Payよりも先に、サービス統合に近い形を実現することになる。

 KDDIも手をこまぬいているわけではない。2020年1月には、「au PAY アプリ」のスーパーアプリ化を目指すと宣言。資産運用やローンなど金融サービスを中心に、タクシー配車や飲食店での事前注文といった機能を追加していき、au PAYを活性化させていく考えだ。同社は決済、通信分野で楽天と協業関係にある。両者がいかなる具体策を取るかは不透明だが、足並みがそろうことがあれば、ヤフー・LINE連合、NTTドコモ・メルカリ連合との三国志状態になるのは必至だ。

 なぜ、スマホ決済の分野で通信キャリアが強さをみせているのか。巨大な顧客基盤や資本力が一因であるのは間違いないが、それだけならメガバンクも見劣りしない。個人的には、「土管化」というのが一つのキーワードではないかとみている。

 通信キャリアがOTT(Over The Top)に収益を奪われ、ネットワークを提供するだけの“土管屋”に陥るという懸念は随分前から取り沙汰されてきた。そのため通信各社は、通信事業以外の新サービス開拓を進めてきた。そんななか格好のビジネスの種として浮上してきたのが、政府も後押しするキャッシュレス決済の波である。

 決済は、消費者が毎日何度も繰り返す行為。この分野を抑え、顧客とのタッチポイントが最も多いプレーヤーになることができれば、多角化してきたサービス群での収益機会につなげられる。スマホ決済だけでもうける必要がないため大規模な先行投資が可能というわけだ。つまり土管化にあらがうために推進してきたサービス拡充が、キャッシュレス分野で奏功していると言える。逆にメガバンクなどは規制面の縛りもあり、多岐にわたるサービス群を抱えるのは容易ではない。

 さらに言えば、土管とされてきた通信事業も強さの一因だ。ほとんどの消費者は毎月、相当な額の携帯料金を支払っている。これに対して、通信各社はポイントを付与してきた。ポイントとスマホ決済は明らかに相性が良い。土管である通信事業と土管からの脱却を目指して力を注いできた新サービス群が、知らず知らずのうちにスマホ決済事業の土壌を肥やしていたのかもしれない。