14年前に夫と結婚した時、結婚式も親族の顔合わせも写真撮影も指輪の交換も何もしなかった。
夫婦共に「そういうのは面倒くさい」と意見が一致したため、「婚姻届を出すだけ」というシンプルスタイルを選んだ。これだと5分で済むしタダである。
無論、我々は自分たちのしたいようにしただけで、他人のスタイルを否定しているわけじゃない。
義母は「本当に結婚式しなくていいの?」と確認してきたが、夫の「ゾロアスター教のように焚き火して、参加者がアダモちゃんの格好で踊り狂う儀式ならやってみたい」という発言を聞いて以来、何も言わなくなった。
かくいう義母も浮気夫と別れて苦労したので「まあ結婚式しようが何しようが、別れる夫婦は別れるのよ」とクールな姿勢だった。
昔、飲み会で初対面の男に「うちは結婚式も何もしなかった」と話したら「それって本当に旦那さんのこと好きなの?」と聞かれて「何言ってんだこいつ?」とプーチン顔になった。
その流れで「子どもは?」と聞かれて「子どもは作らない方針なんで」と話すと「えっ、じゃあ何のために結婚したの?」と返されて「あまり私を怒らせない方がいい」と箸をへし折りそうになった。
そこで「セックス! ドラッグ! ロックンロール!!」と叫び、グレッチで相手の首をへし切ればよかったと思う。
我々が結婚式も何もせず、子どももおらず、結婚を続けているのは「お互いに好きだから」というシンプルな理由だ。一緒にいたいから一緒に暮らす、それに難癖をつけてきた彼は「人数が多い方が正しい」と思考停止しているアホなのだろう。
自分の頭でものを考えられない人が「結婚とは、夫婦とはこうあるべき」と押しつけてくる。そのせいで「結婚って面倒くさそう」と感じる人も多いだろうが、自分たちのやりたくないことはしなくていい。
昨今は結婚式をしないカップルが増えているという。「たかが半日の行事に大金をかけたくない」「だったら食洗器やルンバ購入の費用にあてたい」と考える気持ちはよくわかる。
毒親フレンズは「花嫁から両親への手紙とか、父親とバージンロードを歩くとか、絶対やりたくない」と声をそろえる。毒親フレンズじゃなくても「旧態依然なジェンダーロールに縛られた演出は絶対イヤ」という女子は多い。
父親とバージンロードを歩いて新郎に引き渡される演出だとか、「私が美味しいごはんを作るわ」「キミを一生食うのに困らせないよ」という意味の込められたファーストバイトだとか。
私もファーストバイトをやるぐらいなら、金魚を飲んで出す人間ポンプをやる方がマシである。金魚以外も出してしまいそうな気がするが。
ちなみに友人は兄の結婚式で、カバンからエスパー伊藤が出てきたらしい。そういうプロの余興はちょっと見てみたい気もする。
年下世代には「夫婦で話し合って、完全にジェンダーイコールな式を挙げた」というカップルも増えている。
アラサーの女友達は「招待状の宛名は夫婦でも女性の方が親密なら妻の名前を上に書く。◯◯家という表記はしない。式の入場は新郎新婦二人で、ヴェールもなし、誓いの言葉は人前式でオリジナル。披露宴のケーキカットもファーストバイトもなし。花嫁の手紙もなし。ウェルカムスピーチ、謝辞ともに新郎新婦二人でしました」と話していた。
出席した友人からも「今までの“普通の結婚式”にむしろ違和感があったと気づいた」「夫婦二人の尊重し合う関係、仲の良さが伝わってよかった」と感想が寄せられたという。
結婚式も結婚生活も自分たちの好きにカスタマイズすればいいし、それが幸せの鍵だと思う。
以前ウェディングサイトの取材を受けた時、最近はオリジナルの結婚式を挙げるカップルが増えていると聞いた。たとえば、夜の動物園で結婚式を行うとか。
私も動物好きなので素敵だと思うが、象がウンコとかしたらめっちゃクサいんじゃないか。逆に「めっちゃウンコの匂いする!」「ほんまや、ウンコ探しにいこか!」と盛り上がるかもしれない。
その取材で「アルテイシアさんはどんな式をやりたいですか?」と聞かれたが、ゾロアスター式は消防法の点から難しそうである。
なのでもしやるとしたら、参加者全員がゾンビのコスプレで、新郎新婦が血まみれの装束で登場するのが楽しそうだ。
できれば夜の墓場で結婚式を挙げたいが、他人の墓でやったら怒られそうなので、ホラー風の装飾をした会場で、純白の鳩じゃなく漆黒のカラスを飛ばすなどの演出をしてみたい。
新郎新婦は棺桶から登場するのが雅だろう。本番の葬式でも使いまわせるのでコスパもいい。
これぐらい自由に好き放題やれるなら、結婚式をしてみたいカップルも増えるんじゃないか。
周りのアラサー女子からは「花嫁になりたい願望は薄いけど、花嫁のコスプレはしてみたい」との声が上がった。
「自分好みのウェディングドレスは着てみたいから、女友達とそれぞれ好きなドレスを選んで、美味しいものを食べて写真とか撮ったらすごく楽しそう」とのこと。
そりゃ楽しそうだわい、とJJ(熟女)仲間に提案したら「いや~ウェディングドレスは別にいいかな」と乗ってくれなかったので、京都の太秦映画村で甲冑を着て写真を撮った。
自分は結婚式をしなかったが、仲のいい女友達の式に出席して、綺麗なドレス姿を見るのは良いものだ。ちなみにJJが黒いドレスで出席すると喪主感が発動して、しめやかなムードが漂うため、明るい色を選ぶようにしている。
「結婚式よりも葬式に出る機会が増える」はJJあるあるだ。アパレル系の友人が「喪服は葬式の前に定価で買うより、セールの時を狙った方がいいよ」「そう買い替えるものでもないから、年をとっても着られるような、ゆったりめのシンプルなデザインがおすすめ」とJJライフハックを教えてくれた。
しかし日本の葬式は黒い喪服ばかりでつまらないので、私の葬式にはアダモちゃんとかゾンビとか、それぞれ好きな格好で来てほしい。
それでみんなで愉快に楽しんでほしいが、自分は死んでるし参加できなくてつまらない。だったら結婚50年目に夫婦存命であれば、金婚式をやってみるのはいいかもしれない。
夫に「金婚式するならどんなのがいい? エイリアンとプレデターのコスプレで相撲をとるとか?」と提案すると、「あのコスプレは難易度が高いから、野坂昭如と大島渚のコスプレでマイクで殴り合うのはどうだ」と返された。
おじいさんのコスプレは年齢的にしっくりくるが、元ネタがわかる人は少ないんじゃないか。
ちなみに我々の初めての共同作業は「深夜にプレデターを新居に運ぶ作業」であった。
昔、身長120センチのプレデターのフィギュアを映画会社の方からいただいたのだが、繊細で壊れやすいので、二人で歩いて運ぼうという話になった。
アル「白昼堂々と運ぶと目立つし、闇夜に紛れて運ぼうか」
夫「闇夜にこれが現われたら、通行人がショック死するぞ」
というわけで毛布にくるんで運んだのだが、かなりの死体遺棄感が漂っていた。お巡りさんに職質されてプレデターが出てきたら、エスパー伊藤並みのサプライズである。
過去に何度か書いたが、私はサプライズが好きじゃない。親が遺体で発見されたり、借金取りがやってきたりと、サプライズはお腹いっぱいなのもある。そんなサプライズを詰め合わせた新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』が発売中(宣伝)。
だがそれ以上にこっぱずかしくて、うまくリアクションできないのだ。
20代の頃に付き合っていた会社の先輩が、サプライズが好きな人だった。たとえば私の誕生日、夜景の見えるレストランで「ハッピバ~スデ~♪」とピアノの生演奏が始まり、ロウソクのついたケーキが運ばれてきて、周りのお客さんから拍手が上がる……
みたいな場面で「ザ・ワールド! 時よ止まれ!」と叫んで逃げ出したい気分でいっぱいだった。
またある時はリゾートホテルのベランダのジャグジーに花びらが浮かべられ、シャンパンが用意されていた。
この時点であっぷあっぷしていたが、二人で湯船につかると背中から抱きしめられ「今日は付き合って1年の記念日だね」と耳元で囁かれ、溺死しそうになった。
私はそういうのは二次元でCV子安武人にやってほしいのだ。この時も湯船に浮いた虫の死骸をすくいつつ「素直に喜べない私ですみません」と申し訳ない気分になった。
そんなに尽くしてもらってるのにワガママだ、と言われるかもしれない。でも私は彼といると自分が自分であることがイヤになり、それは男塾の富樫の油風呂ぐらいキツかった。
今の私なら「これが俺だからしかたあるめえ」と開き直るし、単に私と彼は相性が悪かったのだとわかる。
数年後、彼は別の後輩女子と結婚したのだが、その彼女は「サプライズやお姫様扱いが大好きだから、欧米人と結婚したい」と常々言っていたらしい。
やはり夫婦はマッチングである。自分を削らなくてもピッタリ合う、おせんべいの片割れを見つけるのがベストなのだろう。
我が片割れである夫は「誕生日プレゼント、斧はどうかな?」「ギリースーツは?」と提案してくる人物である。
結婚1年目の私の誕生日に「べつに何もしなくていいよ」と伝えていたら、本当に何もなかったので「本当に何もないんだな?」と逆サプライズだった。
「とはいえ、ワインやケーキぐらい買って帰るかと思った」と言うと「キミは誕生日が好きなのか?」と質問されて、びっくりした。誕生日を好きとか嫌いとか考えたことがなかったので。
不老不死になりたい夫は、死に近づく誕生日が嫌いなので、祝うという発想がなかったらしい。そんな予想外の発言を聞くたび「この人と結婚してよかったな」と思う。
その後は一応、お互いの誕生日にケーキを食べたり、クリスマスや結婚記念日にプレゼントを交換したりしていたが、「毎年毎年、面倒くさくないか?」と意見が一致したので、我が家では記念日を撤廃することにした。
記念日を祝ったり、イベントを楽しむ夫婦も素敵だと思う。だが我々はとにかく面倒くさがりやだし、私は特別じゃないマンネリな日常を愛している。
うちは別行動派の夫婦で、二人でお出かけデートとかもしないが、毎晩ごはんを食べながらおしゃべりするのが日課だ。
昨日は映画『ET』の話になり、私が「ETってたしか植物学者で、めっちゃ賢いんだよね」と言うと「俺は小学二年の時に映画館でETを見たが、全然納得がいかなかった」と夫。
「あれだけ科学技術が発達した星から来た宇宙人なのに、なぜETは全裸なのかと」
その発想はなかったな、と感心した私。やっぱり私は自分の頭で考えられる人が好きで、そんなパートナーとは365日会話していても飽きない。
「結婚っていいものですか?」と聞かれるたび「結婚=幸せじゃないよ。結婚は単なる箱で、中身は50年の共同生活だから」とマンネリな回答をする私。
結婚という単なる箱を、二人に合った形にカスタマイズすればいい。世間や他人が作った形に合わせるんじゃなく、オリジナルの箱を作っていくことが、結婚生活の醍醐味なのだと思う。
それは人生も同じで、“普通”を押しつけてくる人の声なんか聞かなくていい。自分の人生は自分だけのもので、自由に好きに生きていいのだ。
マンネリを愛する私は、今後もずっと同じことを言い続けたいと思う。
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オタク格闘家と友情結婚した後も、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!
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