DV家庭を生きのびた話

以前、DV家庭で育った私の経験、その後の生きづらさ、知って欲しいことなどをまとめた原稿をある企画に応募しました。

そして今回は、その原稿をSNSを通して色んな方に見てもらいたかったので載せることにしました。かなり長いですが(約7200字)、最後まで見ていただけると嬉しいです。

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2004年に児童虐待防止法が改正され、面前DV(子どもの目の前で家族に暴力をふるうこと)も心理的虐待のひとつになるとされました。それまでは親から子への直接的な体罰が虐待とされていたのです。そのためDVのある家庭に育っても、喧嘩を見ていただけで直接何もされていないからと軽く見られがちでした。本当は虐待を受けたのと同じなのにもかかわらず。
 私も絶えない暴言暴力とDVの家庭に育ちました。12年間、生まれて最初の記憶ですら暴力です。恐怖と緊張の毎日でも家の中で起きていることは誰も知らないので、気持ちを拾ってくれる人も慰めてくれる人もいませんでした。このままではどちらかが死んでしまうと思うことも何度もありました。怖くて泣きたくても寝れなくても、朝が来たら私はまた明るい子にならきゃいけなかった。心がえぐられるような、感覚が麻痺するような、そんな体験をずっとしてきました。
 まずは私が体験してきたことを話します。多分私が生まれる前から父から母へのDVはあったと思います。前述の通り、私の一番最初の記憶は暴力でした。この時はどちらか一方というより、お互いが首を締めたり殴ったりするという感じです。私はドアの隙間から見ていました。それに気づいた父は私に笑って大丈夫だからあっち行きなと言いました。覚えているのはそこまでです。
 それから通報されて警察が来たことも何度もあります。私はその頃幼稚園に通っていました。家にあがった警察官に、粘土しよう！折り紙しよう！私と遊んでよ！と必死に話しかけました。もちろん、｢ごめんね、お仕事中だから...｣と拒否されましたが、私はこの時ママが連れていかれると直感で分かっていたのです。
 そして私は確かにこの頃からもう一人の私が確実に存在していました。もう一人の私とは、とても明るくて元気で、よくふざけて怒られるけどずっと笑ってる子です。喧嘩やDVがあっても完全に知らないふりをしましたし、なにも気づかないふりをして生きてきました。離婚が成立するまでの間をずっとその私で生きてきたのです。その頃のもう一人の私の裏にいた本当の私に気づくことが出来たのは高校生になってからです。このもう一人の私と、その裏にいたその頃には気づけなかった本当の私については、また後で詳しく話したいと思います。
 母はヒステリックになりやすく(無理もありません)精神科にも通っていました。ある日父との散歩から帰ってきたらOD(過量服薬)をしていたのです。焦った父は119番通報しようとしていましたが、なぜか私は通報しようとしてる父を止めていました。いけないことだと分かっていたので、また警察が来て捕まると思ったからです。そのあと119番通報できたのか、病院に母が行けたのかは覚えていません。
 母の家出も週一程度でありました。夜中に荷物をまとめて玄関から出ていこうとするのです。私は玄関で｢ママいかないで｣と泣き叫びました。私がちゃんと言うことを聞かないから出ていくんだとずっと思っていました。母が出ていった後、私は見捨てられたんだと感じました。更に父は家事が全くと言っていいほどできませんでしたから、母がいない日はとても不安でした。
 新しい平屋の一軒家を建て、アパートから引越しました。父方の祖父母に土地を貰ったそうで、すぐ隣には父の実家がありました。そして私は小学生になり、妹が生まれました。妹ができた時はとても嬉しくてミルクもあげたし、オムツも替えたし、父は特に何もしなかったけれど、私は立派なお姉ちゃんになりました。朝は早く起きてまだベビーベッドで寝ている妹の隣に寄り添ったり、喧嘩がある日はリビングに二人残されましたが、いないいないばあとするだけで三時間も持ちました。ずっと笑ってくれるのです。私は妹がきっかけで子どもと関わる職業につくという夢を持ちました。それでも変わらず暴言暴力は続き、父が寝室へ入った後に母は毎日必ず私に｢パパとママどっちがいい？｣と聞くようになりました。母はこの頃から、いや、もうだいぶ前から離婚を意識していたのだと思います。母のことも好きでしたし、父も威圧的で逆らえない存在ではあったけれど、基本子どもには優しかったので好きでした。まだ低学年だったので選べるはずがありません。毎回｢どっちも好き｣と答えていました。
 父は子ども会の役員に選ばれてから地域で慕われるようになりました。外ではノリの良い面白いお父さんという感じです。それでも暴言暴力は止まりません。むしろ一軒家になったことからエスカレートしていきました。飛び交う暴言と大きな物音、叫び声。泣きながら笑う母。自分の部屋にこもっていても、視覚を遮断して耳を塞いでも聞こえてくるものは聞こえてきます。また、隣の父方の祖父母が住む家にいつも喧嘩の声は聞こえたらしく、祖父が喧嘩中に窓ガラスを割って家に土足で入ってきたこともあります。そして、私は祖父から隣の父の実家に習い事がある日以外は顔を出せと言われ、中に入って座ったと思ったら一時間ほど祖父から母の悪口を永遠に聞かされました。そのあとは意見を求められ、それなりのことを言わせられ、それをパパとママに伝えろと言うのです。私が勇気を出してどっちも悪いと思うと伝えても、祖父は余程自分の息子がかわいいのでしょう、ずっと庇ってばかりです。男尊女卑の考え方も強く、祖母も祖父には逆らえないようでした。
 4年生になり、初めて家族で遊園地に行くという日の前日にとても大きな喧嘩がありました。明日行けないかもと言われましたが、私は行きたいと伝えました。数時間後、二人は仲直りをしました。ほっとしていたら、冷蔵庫が納豆臭いというしょうもない話だけで父と母が笑いあっていたのです。それが可笑しくて、でも初めて二人が笑い合うところを見て涙が出てきました。二人は笑えるんだと驚きさえしました。自分の部屋に走って涙を流しましたが、永遠にあの幸せな空間にいたいと思いました。その後もなんども心を壊されましたが、その一瞬の出来事だけは暖かい思い出として今でも心に残っています。
 高学年になりました。母はリストカットで手首を深く切り病院に行きました。食事中は毎日｢怒ってますか？｣の母の質問から始まり、｢怒ってないっつってんだろ｣の父の答えに｢でも機嫌悪いじゃないですか｣という会話の繰り返しです。
 ある日、妹と私が喧嘩をしたのをきっかけに父の機嫌は悪くなり、父と母で喧嘩になりました。終わったあと私は母に首を絞められました。それに気づいた父は今度は母を壁に追いやり首を締めました。足が浮くほど上にあげられ、顔がとても悲惨で私はこのままじゃ本当に死ぬと思って泣き叫びました。今までなにも知らないふりをして明るい私を演じていたけど初めて泣き叫びました。
 私は家の中で起こっていることはどの家でも普通にあることだと思っていました。ドラマで笑い合っている家族は全部偽物だと思っていました。しかしそんな考えも覆ることになります。私はDVという言葉をネットで知ったのです。精神的、身体的、性的、経済的暴力の全てが当てはまり、DVにはサイクルがあり、家で起きていることと全くおなじでした。ああ私の家は普通じゃないんだ。そう思いました。
 6年生になり、私はいじめられるようになりました。元々人数が少なく、学年に一クラスで、完全なスクールカーストも出来上がっていたので、クラスの女子は一度は必ずいじめられたことがあり、その番が私に回ってきただけなのですが、ちょうどその時、母がママ友にDVの相談をしていて、相談を受けたママ友が周りにそれをバラしてしまった時期でもありました。私はクラスからも地域の人からもいじめられるようになったのです。クラスのいじめ＋あの家は危険だから行くな、毎日叫び声が聞こえる、私と話すな、そんな感じです。先生は助けてくれませんでした。むしろ、それを話してしまった方が悪いと。話したのは私じゃないのに。クラスからのいじめは四ヶ月程で終わりましたが、地域の人からの目はとても怖かったのを覚えています。
 ある日の放課後、学校に母が迎えに来て母方の実家に行くことになりました。車には沢山荷物があり、母は弁護士と電話をしていました。別居生活の始まりです。この頃から私もおかしくなり、学校で毎日死にたいというようになりました。リストカットも始めました。そんなこんなで小学校を卒業し、母方の実家に近い所にある中学校に転校をしました。父との面会は週一でありました。父は必死だったのだと思います。たくさん色んなものを買ってくれました。私はとても複雑でした。母にはあんな酷いことしてきたのに、子どもには優しいのです。親権争いで私が直接弁護士の方とお話した時も、とても迷いました。悩んだ末一ヶ月間私だけ父がいる家に戻り、そこから中学校まで登校してみるというのが決まりました。最初は順調でした。しかし最後の辺りで事件は起こります。電車の時間のことで喧嘩になった時、父の威圧感のある話し方と態度で私はフラッシュバックを起こし、泣き叫んでクローゼットにこもりました。私はこの一件で、この人はどれだけ申し訳ないと言ったってもう直らない、もう無理だと思いました。離婚が成立し、母子家庭になった後も父との面会は続けていましたが、私は途中で面会を拒否し、連絡も断ち切りました。妹はある程度自由で楽しいみたいなので、今も面会を続けています。暴言暴力DVが当たり前にある家からやっと逃げ出して離婚が成立した中学1年生の冬、ここで私の人生の第一章の幕が降ろされます。

 転校をし、離婚も成立し、面会もしなくなった私はDVも見なくなったし、怯えることもなくなりました。しかし私の人生はここからが本番だったのです。私は｢生きづらさ｣と戦わなければなりませんでした。もう一人の私とその裏にいた本当の私。まずはこれについてお話したいと思います。
 私は暴言暴力やDVなどの恐怖の毎日から生き抜くためにもう一人の私が生まれました。それは明るくて、よくふざけて怒られるくらい元気な子として、誰にも家の中で起きていることを全く感じさせないように振舞ったのです。私は具合が悪くても母に伝えることはできませんでした。お腹が痛い、頭が痛いも言えず、熱が出てもケロッとしてみたり。そんなもう一人の私も十二歳という年齢になると自分自身でごまかせなくなるのです。ひとりの時間になると完全に本当の私が姿を表すようになったのです。だから死にたいとか言い出すようになったのだと思います。もし暴言暴力があった毎日に存在していたのが本当の私だったなら、私は今ここにいないでしょう。抱えきれずきっと自殺していました。だから生き抜くためにもう一人の私がちゃんと存在してくれていたのです。整理すると、もう一人の私とは、子どものように明るく振る舞う大人の私。本当の私とは、本来ならあの十二年間を過ごすはずだった子どもの私です。
 高校生になってあの時の本当の私と向き合うようになりました。私は親に抱きしめられたことも微笑んでもらったことも撫でられたことも褒められたことも大好きと言われたこともありません。読んでいて気づいた方もいるかもしれませんが、母はDVを受けていたので、子どもを愛する余裕(スキンシップをとる時間の余裕や精神的な余裕)などなく、実際は放置気味だったからです。一般的にDV被害を見てきた子どもに対してみなさんは、大好きなお父さんお母さんがケンカしてて(いじめられてて)悲しかったねというイメージだと思います。だけど実際は、放置されてることが多かったことや、怖くて緊張しててもその時誰も助けてくれなかったことの方が大きいのです。これはもっと知られるべき事実です。
 本当の私(子どもの私)に、なぜ気づくことができ、向き合うようになったのか、それは私にとって恐ろしい感情となって今でも現れるからです。例えば今の私が誰かに慰められたり助けて貰えた時、子どもの私が｢どうして私は慰めてもらえないの｣というように必死に訴えてきます。また、誰かが優しくしてもらっているのをみてとても羨ましく思ってしまうのです。だから今の私が優しくしてもらいたい時に、同時にそれを利用して子どもの私も愛情を受け取ろうとするので、普通の人より何倍も求めてしまうのです。コップの底がないと感じることもあります。どう頑張っても満たされない。満たされないから、既に沢山もらってるはずなのにもっともっと欲しいと求めてしまいます。すると今度は見捨てられ不安に陥るのです。見捨てられるのがとても怖くて必死にしがみついたり、試すような行動をとったり、結局みんな私を見捨てるんだと絶望したり。私は今もずっとこれに悩まされています。そして勝手に傷つくだけではなく、分かっているのに迷惑をかけてしまう自分が大嫌いで消えたいとさえ思います。辛いから死にたいというより、迷惑をかけるだけで存在価値もない、生きてちゃいけないのに生きているという罪悪感と苦しさから消えたいと思ってしまいます。
 なぜそれでも私はまだ生きているのか。単純に自分で死ぬのは怖いというのはあります。だけど絶望や暗闇の中だからこそひとつだけ希望を抱いているからです。それは、これだけの体験をしてきた私には、私にしか伝えられないこと、できないことがあるはずだという、たったこれだけの希望です。だけどこの小さな希望が私を支えているのです。SNS等を通して多くの人に伝えることもできます。こうして私にしか書けない文章を書くこともできます。そして将来、子どもと関わる仕事に就いた時にそれは子どもとの関わりの中で実現されることもあれば、保護者との関わりの中で実現されることもあるでしょう。私は私の人生を無駄にしたくない。不安や絶望に襲われる日や死にたいと思う日もあるし、自分が大嫌いだけど、その時に考えた自分の気持ちさえも大事にしたいと思えるのです。きっと過去の私も今の私も、未来の私のためにひとつも無駄になることはないと思うから。

 DV家庭や虐待家庭に育った子どもは、その家庭から抜け出せた日が来ても決して楽になれるわけではありません。むしろ、たった数年間の出来事だとしてもその後の長い人生に影響を及ぼすのに、今現在虐待を受けている子ども達だけが注目されやすく、大人になって自分の生きづらさを説明しても分かってもらえないことも多いのです。もちろんそんな家庭にいる子どもを救い出すことが最優先ですが、もっと社会全体の理解が深まらなければなりません。虐待やDVが起きていることが分かると多くの人の怒りの矛先は加害者へと向けられます。何よりも加害者が一番悪いのは確かです。しかし加害者だけを責め立て非難をし騒ぎ立てたら終わりの人が多すぎます。その怒りはこの社会にも向けられるべきです。あまりにも無知すぎるこの社会全体がこのような家庭や子ども達のことも苦しめます。ひどい、かわいそう、ありえないそんなことは誰でも言えるのです。ではそのような家庭や子ども達を探せというのか、そうではありません。もし孤独の中にいる人がいたらすぐに手を差し伸べることができ、その手を離さないこと。それが私たちに出来ることです。これができるのは虐待やDVについて正しい知識をもつ人間のみです。その手を離さないというのは一緒に抱え込むことではありません。否定せず話を聴き、必要があれば専門機関に繋げることが大切です。話を聴くだけで孤独さを解消できる場合もありますが、例えばDVに遭っている場合は情報が遮断されている場合も多いので専門の相談機関があることも知らない場合があります。私たち社会全体にできることは、正しい知識を持つこと、そして小さなSOSに気づき手を差し伸べることです。
 そして被害を受けた子どもは感情を言語化することがとても難しいです。それは慰めてもらえた経験が乏しく、自分の感情を正しく言語化されてこなかったことが多いからです。これは問題行動と呼ばれるものに繋がったり、不適応を起こすことに繋がることもあります。子ども自身が過去のことについて話し始めたら話を中断させずに聴いてください。最初は焦る人もいるかもしれませんし、思い出さなくていいよとやめさせたくなる人もいるかもしれませんが、ただ聴くことに意味があります。そして聴いている人が〜があったから〜だと感じたんだね、などと言語化してあげると、その子のものになります。過去と向き合うことはパズルのピースを一つ一つ埋めていくことと同じなのです。一つ一つ丁寧に最初は手伝ってあげてください。最後は一人でも完成出来るように。

 最後にDV家庭に育った人、今も苦しんでいる人、DVだけじゃなく虐待にあった人などに伝えます。
周りの人に頼ることや迷惑をかけることに罪悪感を抱かないでください。自分には何も出来ないことの無力感や、誰かを信じて裏切られた時の深い悲しみ、誰かを信じたい頼りたい、だけど信じられない、声にできないことのもどかしさ、苦しさ。いっぱいいっぱい頑張ってきて、報われなくてもそれでも今も生きることを頑張り続けてると思います。心を何度も壊されて、ぐちゃぐちゃにされてボロボロになって、それでもここまで生き抜いてくれたあなたにありがとうと伝えます。知ったかぶった綺麗事は私が嫌いだったので言いません。心に余裕ができたら好きなことをして、あなたが体験してきたことに向き合える日が来たら向き合ってください。誰かと一緒に。過去も今も未来も全てあなたのものです。親を、加害者を、大人を、この社会を許してもいいし、許さなくたって幸せになれる。あなたはあなたのままで、もしいつか、あなたにしか分からないこと、伝えられないこと、できないことがあるように思えたら、ぜひそれをしてください。

私と一緒に、生きませんか？

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最後に、過去や自分と向き合うことは簡単じゃなく、これを書いたから終わりでもなく、どうにもならないことすらあるし、そして課題は永遠に尽きません。言語化して自分を理解していけたら少しは生きづらさもマシになるだろうと思っていたけど、書き終えた今、向き合う覚悟を決めたからには一生苦しくても向き合わなければならないんだなと感じています。

それでも私が自分と過去と向き合う決心ができたのは、絶望をみてもそれと向き合って苦しみもがきながらも考えて考えて、社会に訴える人の姿を見たからです。(Watcha!JKの登壇者に胸を打たれました...本当に出会えてよかった...)

いつもツイートする度、言語化の手伝いをしてくれるTwitterにいる皆さんにも感謝しています。

それから、私が安心して(壊れる覚悟で)向き合えたのは環境がよかったからなのだと思います。こんな情緒不安定で迷惑ばっかりかける私を突き放さないで見守ってくれた学校の先生に本気で感謝してます。

この原稿を書く機会を与えてくださった企画、丁寧に添削してくださった校長先生にも感謝します。

本当に長くなりましたが、これが私の、2019年3月～2020年2月までの1年間で頑張ったことです！

高３になったら｢自分｣から一歩踏み出して社会にもっと目を向けて考えていこうと思っています。

これからもよろしくお願いします🙇‍♀️✨