USB Type-CやUSB PDが普及し始めてしばらく経つにも関わらず、未だにApple純正品のコピーをやめていないサードパーティ製品を紹介します。
この記事の要点
- 要注意ワード: 2.4A / 14.5V / 14.8V / 20.3V / 29W / 61W
- これらの数字は全てUSB関連の仕様 (規格) には登場しないものであり、Apple純正品に特有である
- つまり、これらの数字に対応しているサードパーティ製品はApple純正品の仕様をコピーしている
- そして、そのようなサードパーティ製品は往々にしてUSBの仕様に準拠していない
- なので、そのような製品は買うべきではない
Apple純正品の仕様
まずはApple純正品の仕様を確認してみます、
最初に取り上げるのは、MacBook 12-inch 2015/2016に付属していた29W USB-C電源アダプタです。 (現在は廃盤)
外装の表記 | 5.2V-2.4A | 14.5V-2A |
---|---|---|
実際の出力 | 5.0V-2.4A | 14.8V-2.0A |
注目してほしいのが赤字にした部分です。2.4Aや14.5V、14.8VなどはUSB PDの仕様が由来ではなく、Apple純正品に特有のものです。
サードパーティ製品を確認してみる
次にサードパーティ製品の仕様を確認してみます。
今回は例としてRAVPower 30W RP-PC120を取り上げます。
このRAVPower 30Wの仕様は以下の通りとなっています。
外装の表記 | 5V-3A | 9V-3A | 12V-2.5A | 無 | 15V-2A | 20V-1.5A |
---|---|---|---|---|---|---|
実際の出力 | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 12.0V-2.5A | 14.5V-2.0A | 15.0V-2.0A | 20.0V-1.5A |
不思議なことに、なぜか2.4Aや14.5Vといった「Apple純正品に特有の出力」に対応しています。言い換えれば、RAVPower 30WがApple 29Wの仕様をコピーしているという証拠に他なりません。
実はコピーできていない
Apple 29Wの仕様をコピーしているように見えるRAVPower 30Wですが、よく確認すると実はコピーできていません。
Apple純正品の仕様と並べてみます。
Apple 29W | 5.0V-2.4A | 無 | 無 | 無 | 14.8V-2.0A | 無 | 無 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
RAVPower 30W | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 12.0V-2.5A | 14.5V-2.0A | 無 | 15.0V-2.0A | 20.0V-1.5A |
Apple純正品は外装の印刷こそ14.5Vとなっていますが、実際には14.8Vを通知するという仕様になっています。それに対してRAVPower 30Wは、14.8Vではなく14.5Vを通知します。
100000歩譲って、Apple 29Wの仕様をそのままコピーしているというのならまだ分かります。しかしながら、USB PDのパケットの確認もせずに外装に印刷されているスペックをコピペしているだけとはお粗末としか言いようがありません。
Appleコピー品は1つだけではない
もう1つ例を出してみましょう。今度はMacBook Pro 13-inch 2016/2017に付属していた61W USB-C電源アダプタ (A1718)です。 (現在は廃盤)
Apple 61Wの仕様は以下の通りであり、2.4Aや20.3Vが特有の数値となります。
外装の表記 | 5.2V-2.4A | 9V-3A | 20.3V-3A |
---|---|---|---|
実際の出力 | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 20.0V-3.0A |
そして、このApple 61Wの仕様をコピーしているのがRAVPower 61W RP-PC112です。
RAVPower 61Wの仕様は以下の通りです。Apple純正品に特有の2.4Aや20.3Vといった数値に対応しています。
外装の表記 | 5V-3A | 9V-3A | 12V-3A | 15V-3A | 20V-3A | 20.3V-3A |
---|---|---|---|---|---|---|
実際の出力 | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 12.0V-3.0A | 15.0V-3.0A | 20.0V-3.0A | 20.3V-3.0A |
そして、Apple 61Wと並べたものが以下の表です。
Apple 61W | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 無 | 無 | 20.0V-3.0A | 無 |
---|---|---|---|---|---|---|
RAVPower 61W | 5.0V-2.4A | 9.0V-3.0A | 12.0V-3.0A | 15.0V-3.0A | 20.0V-3.0A | 20.3V-3.0A |
20.3VはApple純正品が実際には対応していない電圧なわけですが、RAVPower 61Wはなぜか対応しています。RAVPower 30Wと同じく、外装の印刷されているスペックをそのままコピペしたものと思われます。
何が問題なのか
ということで、一部のサードパーティがApple純正品の仕様をコピーしており、オマケにコピーしそこねていることを説明しました。
「中国メーカーがAppleのコピー品を製造するのなんてよくある話だし、わざわざ問題にするようなことでもないのでは?」と思う方もいるでしょう。私もMagSafeなACアダプタであれば「いつものことだな」としか思いません。
ただ、今回は話が違います。MagSafeではなくUSBなので、Apple専用というわけではありません。WindowsマシンやAndroidスマホ、その他の様々なデバイスに使用されます。
それを踏まえると、Apple純正品コピー品には以下のような問題があります。
意味のない出力をコピーしている
まず第一に、14.5Vや20.3Vといった中途半端な電圧に対応したところで意味がありません。
なぜかと言うと、
- Apple純正品特有の14.5Vや20.3Vという数字をコピーした理由 → MacBookシリーズに対応するため (または対応していると宣伝するため)
- しかし、実際のApple純正品は14.5Vや20.3Vには対応していない
- なので、MacBookシリーズが14.5Vや20.3Vを電圧を選択することはない
からです。使われることのない電圧に対応しても意味がありません。
USB PDは5V・9V・15V・20Vが標準の電圧であるため、Mac以外でも14.5Vや20.3Vといった電圧が選択・使用される可能性は低いです。 (他に使える電圧がなければ使用されるかもしれないが)
コピーをしているという行為自体が問題
14.5Vや20.3Vといった電圧が使われる・使われない以前に、そういった電圧に対応していること自体が問題であるというのが私の認識です。
なぜかというと、そのようなApple純正品コピー製品は「Apple純正品のコピー」である以前に「USB PD対応製品」だからです。ならば、USB PD対応製品がリファレンスとするべきなのは「Apple純正品」ではなく「USB PDの仕様書」です。
何か仕様に準拠したものを作りたいのであれば、その仕様書を読み、そこに記載されている通りの仕様になるように設計・実装していく、というのが通常の開発プロセスなはずです。そして、USBの仕様書はインターネットで誰でもアクセスすることができます。そのため、普通であればApple純正品が登場する余地はありません。
それにも関わらず、一部のサードパーティ製品は未だにApple純正品をコピーした仕様 (正確にはコピーしそこねた仕様) になっています。12インチMacBook (2015) が発売された直後ならともかく、上で例に出したRAVPower 30W/61Wのように2019年に新発売された製品がそのような仕様になっているというのは、率直に言って理解に苦しみます。意味が分かりません。
そもそもUSB PDの仕様に準拠していない
Apple純正品コピー品を買うべきではない最大の理由がこれです。多くがUSB PDの仕様に準拠していません。
例えば、上で例に出したRAVPower 30W RP-PC120であれば
- 5V PDOが2.4A Max
- 14.5V PDOが2.0A Max
といった部分がUSB PDの仕様に違反しています。
このような製品は「マトモですよ〜」みたいな顔をして実際はUSB PDの仕様に違反しているため、一般消費者が区別できないという意味で露骨なApple純正品コピー品よりもタチが悪いです。存在するべきではありません。
5V/2.4Aについて
USB PDの仕様にある程度詳しい方や、ここまでじっくり読まれた方はお気づきかもしれませんが、5Vの最大電流が3Aではなく2.4Aになっている点については、ここまで敢えてスルーしていました。というのも、2.4Aは14.5Vや20.3Vとはちょっと事情が異なると考えているからです。
2.4Aという出力もApple純正品が由来なので、コピーか否かで言ったらコピーです。ただ、本来であればそのような仕様違反をしなさそうなメーカーの製品でさえも5V/2.4Aとなっているのです。
例えばAnkerのPowerIQ 3.0対応PowerPort IIIシリーズ。これらは全て5Vが2.4Aとなっています。 (2020年2月時点)
- PowerPort III Nano [A2616121]
- PowerPort III mini [A2615121]
- PowerPort III Duo [A2628121]
- PowerPort Atom III Slim [A2614111]
- PowerPort Atom III Slim [A2614121]
- PowerPort Atom III 60W [A2613121]
- PowerPort Atom III (2 Ports) [A2322111]
- PowerPort Atom III (2 Ports) [A2322121]
- PowerPort Atom III (4 Ports) [A2045511]
Ankerは今まで複数の製品をUSB PDのコンプライアンステストに通しているのでパワールール程度の基礎的な事項は理解しているはずなのですが、なぜかPowerIQ 3.0対応品は5V Fixed Supply PDOが2.4Aとなっています。
そして、PowerIQ 3.0な製品では以下のような問題が発生しているようです。
PowerIQマジで分からん。
取り敢えず以下のAnker製品からはVAIO A12の充電はできない様子。
・PowerPort Atom III
・PowerPort Atom III Slim
・PowerCore+ 19000 PD
挙動見てると保護回路に給電ブロックされてるように見える。
USB-PD対応と謳いながら5V/3A出ないUSB-PD規格違反品だからか。
ネット上の報告を見ると、どうもVAIO A12は5V PDOが3A未満だと充電ができないようです。
これはあくまで一例ですが、USB PDの仕様に準拠していない製品は問題が発生する場合があるということをご理解いただけるのではないかと思います。また、充電できたとしても充電スピードが遅いという場合もあります。
このようなトラブルを避けるためにも、仕様に準拠した製品を購入・使用するようにしましょう。