小若理恵
受験シーズン、孤独に耐えてきた全国の浪人生が雪辱を期して頑張っています。いまや少数派の浪人。「浪人は自分を見つめ直す貴重な時間」と誇りを持つ一方で、悩みもいろいろあるようです。各地の大学には何度も受験に挑んだ多浪生が肩を寄せ合うサークルも生まれています。みなさんは大学受験と浪人についてどう考えますか。
デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
拡大する多浪について聞いてみました
●合格するまで頑張れ
自分がやりたいことがある大学で、ここでなければならないというところがあるのであれば努力に努力を重ねて、何度でも挑戦して合格するまで頑張ればいい。多浪のデメリットも努力で克服すればよい。(東京都・50代男性)
●親は見守るしか……
息子は、多浪しました。どうしても自分の学びたいことを諦められなかったようです。後輩だった人が先輩になるなど、孤独や葛藤があったとは思いますが、その分彼なりに得た物もあるのでは……。就職においては先の読めないご時世ですが、学歴フィルターも変わりつつあるように思います。いずれも彼の人生なので、親としては本人の納得がいくよう、見守るしかないのではないでしょうか。(愛知県・50代女性)
●浪人認めてもらえなかった
私自身は浪人は認めてもらえず、最初から編入試験狙いで短大を選択し入学。その後も専攻をシフトしつつ大学院へ進みました。友人の場合ではとりあえず受かったところに進学し、仮面浪人して希望の大学の学科へ翌年入学した人もいます。専門性や業種も多様化している現代、大学で学んだ専門性が仕事に必ず直結するわけでもありません。大学の受験段階の入り口でこだわりを持つよりは、まずは一歩進み、失敗したり挫折したりしながらも、チャレンジし続けチャンスを生み出すほうが、受験生本人の気持ちとしても家計としても国としても機会損失なく、精神衛生上も健やかに人生を歩めると私は考えます。(神奈川県・40代女性)
●若い感性とやる気評価したい
本人の納得できるようにやるしかない。ただ、やはり高校時代に十分と思える学習をするべきだ。実際はあまり学力は伸びない。入試制度も浪人すれば受かるような制度ではないものがよい。詰め込みではなく、若々しい感性と入学してからのやる気を評価したいものだが、そのバランスは難しい。(神奈川県・30代女性)
●学歴重視の採用減るのでは
大学で何をやったかより、どこの大学を出たかがこれまでの企業の採用選考で重視されてきたのでしょうが、今後は明らかにそういった学歴重視の採用は減っていくでしょう。そうすると大学のブランドがほしいがためだけの浪人は意味をなさないのではないかと思います(この大学、学部でこの分野を学びたいという、明確な目的意識からの浪人には意味があると思います。)(東京都・40代男性)
●前向きな妥協も必要
大学の現状は、入ってみないとわからない。ある程度は理想を求めるモチベーションも大事だが、前向きな意味での妥協も必要だと思う。(兵庫県・20代女性)
●学歴のためならもったいない
その大学でやりたいことがあるならば問題ないが、学歴のための浪人なら時間がもったいないように感じる。学歴を重視する企業がはびこっているのも違和感を感じる。(長野県・20代男性)
●時間をかけ思い悩めばよい
私は、「30までにやりたいことを決めればよし」とよく若者に言う。高校卒業時に、これからの人生、どう生きていくか、という真面目な問いに、すぐさま答えられる若者は皆無だ。そんな時こそ、若者は大いに時間をかけて思い悩めばよい。そんなゆとりこそが人生に重要なのだ。なにも慌てることはない。(埼玉県・60代男性)
「強くてニューゲーム」。ロールプレイングゲームで、クリアしたときのキャラクターのレベルや所持アイテムを引き継ぎ、新たにゲームを始めることを指す言葉です。何度も受験に挑み、曲折を経て新しく大学生活を始めた自分たちをそう呼ぶ学生に出会いました。
拡大する入学までに多彩な経験を積む東北大学医学部「風雪会」のメンバー=仙台市青葉区
東北大学医学部「風雪会」。3浪以上の学生約15人が集うサークルです。長らく休眠状態にありましたが、2017年春、現メンバーによって40年ぶりに再興されました。
私立大の医学部入試で女子や多浪生への差別が明らかになり、医学生や受験生たちの間ではうわさが確信に変わったといいます。そんな中にあって「建学の理念の一つに『門戸開放』を掲げる東北大は極めてクリーン」。8浪相当で入学し、会の再興に尽力した医学部3年の小川耕平さん(29)が実感を込めて語ります。
小川さんは高校にほとんど通うことなく中退し、コールセンターやペットホテルなどで働きました。父と同じ医師を志したのは23歳の時。参考書を頼りに独学で受験勉強を始め、3度目の挑戦で合格をつかみました。「僕には学歴もなく、仕事を断られるなんて慣れたもの。お金がなくて苦しんだこともあった。いろんな経験をした分、患者の気持ちをわかってあげられるはず」。遠回りはしたけれど、今、がん治療に携わりたいと将来を描いています。
拡大する「浪人は、自分を見つめ直す貴重な時間」と語る「大阪大学多浪の会」の皆さん=2019年11月、滝沢美穂子撮影
同じ頃、大阪大にも「多浪の会」が発足しました。入会資格は2浪以上。わずかな年の差で同級生と話題が合わず肩身の狭い思いをしたことなど、多浪ならではの悩みを語り合います。「マイノリティーの居場所づくりをしたかった」と、会長で大学院修士2年の伊藤慧(けい)さん(27)。春から社会人になるのを前に「自分の働きぶりで、多浪生は就職に不利という世間のマイナスイメージを払拭(ふっしょく)したい」と燃えています。
東の名門、東京大にも「多浪交流会」なるサークルが。多浪を経て合格したメンバーたちの体験記を学園祭で販売すると、受験生やわが子を東京大に入れたい母親らに人気だそうです。「入試に向けてどう戦略を立てたらいいか」「多浪のわが子にどう接したらいいか」。そんな悩みも聞かれるといいます。
拡大する「東京大学多浪交流会」のメンバー。学園祭では自身の浪人経験をつづった体験記がよく売れる=東京都文京区
医学部をめざして浪人を重ね、最後は別の私立大で仮面浪人をして東京大に入学した理科Ⅰ類1年の大嶽匡俊(まさとし)さん(22)。現役時代も含め3度目の医学部受験では、面接担当者から「一度人生を省みた方が良い」と厳しい言葉をかけられました。体験記には当時の苦悩をこうつづります。「不合格を知ってからは、地獄にいるかのようでした。火であぶられているような感覚。悲しみに耐えるのに必死で、将来を考えることもできませんでした」
半ば投げやりな気持ちで進んだ私立大で「見る前に跳べ」(Leap before you look)という言葉に出会い、工学の面白さに目覚めます。体験記では、大学の授業やサークルと受験勉強を両立させた経験を「まったくわからない将来のために、人とは違うことを、自分の力を信じてやった」と振り返っています。
受験制度の一部のように毎年生まれる「浪人」。昨春、東京大の入学式で辛口エールが反響を呼んだ同大名誉教授、上野千鶴子さん(社会学)はどう見ているのでしょうか。
拡大する社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さん
私は浪人はやらなくてもよい経験だと思っています。若くて活力のある時期を、受験のためだけに押しつぶされそうになって過ごすことがポジティブな経験だと、どうしても思えません。
普通に学校教育を受けているだ…
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