ゴーンが逃亡した「レバノン」のヤバすぎる現状

焦点は3月に迫っている債務返済期限

「中東のパリ」と呼ばれるレバノンの首都ベイルート。高級ショッピングモールや通りは現在、閑散としている(写真:ロイター/アフロ)

カルロス・ゴーン元日産会長が、自らの「母国」に逃亡してから約2カ月。ゴーンは、2022年ごろ引退した後、コンサルタントとして世界中の裕福な顧客を相手に商売する未来を思い描いていたが、そううまくいきそうもない。それどころか、実際には四国の半分程度の大きさしかない国を出られないまま一生を終える可能性もある。

しかも、目下レバノンはまさに崖っぷち状態にある。レバノンに住むエコノミストで弁護士のカリム・ダーハーに言わせると、「デフォルトまで秒読み状態」だ。レバノンは3月9日までに返済期限を迎える債務12億ドルを抱えており、目下の焦点は求められている利息を無事に返済できるかどうか。大手格付機関は債務不履行の可能性も鑑みて、相次いでレバノンの国債格付けを引き下げている。

一部ではロシアによる救済も取り沙汰されているが、レバノンの有力シンクタンクの1つクルナ・イラダは、レバノンの財政はもはや壊滅的で一刻も早く債務不履行を経て、一大リストラを敢行しなければいけない状況にある、と訴えている。

「多くのエコノミストは口をそろえて、レバノンの現在の状況は過去に債務不履行に陥ったアルゼンチンやギリシャ、アイスランドなどと比べてもはるかにひどいと言っている」と、レバノンの有力シンクタンク、クルナ・イラダのポリシーディレクター、シビル・リスク氏は話す。「この国は今すぐにも債務不履行に陥るかもしれないうえ、ベネズエラのように貨幣価値が急落してハイパーインフレに襲われ、失業者があふれ、預金封鎖に至るかもしれない」。

「いずれにせよレバノンは、年内に債務の金利40億ドルを支払わなければならないのに、ドル建ての外貨準備高は100億ドルしかない。この外貨準備はレバノンの生命線だ。レバノンは製造業も輸出も盛んでない一方、輸入額は大きい。ドルが底をつけば、即座に食料や衣料品が不足することになる」(リスク氏)

かつては「中東のパリ」と呼ばれたが…

「中東のパリ」と呼ばれるレバノンはかつて活気にあふれていた。が、いまでは人々が夜な夜な集まったクラブやレストランには誰もいない。昼間にもかかわらず、通りにも人はまばらだ。国立競技場を当初デザインしたザハ・ハディット氏がデザインした高級ショッピングモールにいたっては恐ろしいほどガラガラである。

長年の失策と縁故主義による癒着もあり、公的債務額はGDPの152%に上るなど、レバノン経済は厳しい状況にある。カーネギー研究所の最近の調査によると、レバノンの人口の40%以上が間もなく貧困ラインを下回り、多くの人が中流階級から転落する可能性があるという。ダーハーによると、「法学生の40%が今年授業料を支払うことができない状態」だ。

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  • sunrise6bedc39d35b3
    日本は逃亡後のゴーンに対してICPOを通じた要請以外に有効な手立てがないでいる。

    しかし、ゴーン自らが出頭する可能性のある極めて有効な手段がある。

    それは、没収した15億円を使って世界に向かってゴーン捕縛に懸賞金をかけることだ。

    日産からは損害賠償金100億円の訴訟が提起されているし、日本が捕縛懸賞金15億円を発表すればゴーンは極めて追い込まれた生活を送ることになるだろう。
    up41
    down2
    2020/2/17 07:40
  • 白い猫2c50db10c0c6
    >それは、没収した15億円を使って世界に向かってゴーン捕縛に懸賞金をかけることだ。

    珍しく具体的なアイディアが出てきた。歓迎したい。
    日本人に一番欠けているところ。突飛なアイディアを誰かが出してそれをみんなで議論し練り上げるということがない。
    江戸期以降の米作文化のせいかな。それとも敗戦後の米国の日本統治策が功を奏したということか。

    残念ながら平和ボケ日本では否定されるだろう。
    日本人は”えぐい”事ができない。それで外交では常に後塵を拝している。米中ソ、どこにも勝てない。
    "Wanted. Dead or Alive." と国家が言えるようにならなければだめだね。
    up16
    down6
    2020/2/17 10:18
  • おいちゃん613382cbbdb2
    「腐敗指数」は日本人にとってはあまり馴染みがない。
    それ故、当時、日産がゴーンを受け入れるかどうかの判断要素として、彼の出身国レバノンの腐敗指数のことは全く念頭になかったのであろう。
    今となっては後の祭りだが、ゴーンの貧しい生い立ちにはじまり、その反動である金権主義、非情主義などの悪評判、それに加えて、出身国レバノンの腐敗指数について十分調査しておけば、自ずと日産のトップにゴーンを受け入れることもなかったであろう。
    また、ルノー社の戦略的狙いは何かも十分検討されたのか怪しい。
    ルノー社はゴーンのすべてを承知しており、非情で強欲なゴーンをを送り込んできたのだろう。
    当時の日産経営陣がルノー社の狙い、それにゴーンやレバノンのことなどをあまり深く考えずに問題視せずルノー社の言いなりに受け入れてしまったことは大失態であったと言えよう。
    up14
    down4
    2020/2/17 09:40
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