中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎で、国内の感染者が増えるなか、政府は対策の重点を水際の封じ込めから医療体制の整備に移す。感染の疑いのある人を診察する専門外来を2009年の新型インフルエンザ並みの800カ所に拡充し、重症者向けの病床の確保も急ぐ。
クルーズ船の乗客乗員を除く国内の感染者は16日午前の時点で53人で、中国以外ではシンガポール(72人)、香港(56人)に続く数となっている。観光や経済活動で中国との間で人の往来が多いことが背景にあるとみられる。感染者と中国とのつながりが見えず感染経路を類推できないケースも各地で出ており、水際対策をすり抜け、未確認の感染が国内で拡大している可能性は高い。
政府は16日、有識者を集めた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の初会合を開き、現在の国内の感染状況について評価を求めた。安倍晋三首相は冒頭で「事態は時々刻々と変化している。医学的、科学的な見地からの助言を踏まえ、先手先手でさらなる対策を進めている」と述べた。
厚生労働省は感染を疑った場合、いきなり医療機関で受診するのではなく、全国536カ所(14日時点)の「帰国者・接触者相談センター」に電話するよう求めている。相談センターで感染の疑いがあると判断されれば「帰国者・接触者外来」を紹介される。この専門外来は全国に約660カ所(同)あるが、医療機関名は原則非公表となっている。
今後、相談センターの電話回線を増やし、24時間対応とする方針。専門外来は早い段階で09年の新型インフルエンザ流行時と同水準の約800カ所に拡充する。
感染症法の指定医療機関に整備された「感染症病床」は全国に約1800しかなく、クルーズ船の患者受け入れなどで、数百人分が使用中だ。今後、院内感染を防止できる病院では一般個室などでの受け入れも想定しており、感染症病床に準じた設備を持つ「新型インフルエンザ病床」(全国約1600床)を優先的に使う方針だ。
ウイルス検査の能力拡充も急ピッチで進めている。国立感染症研究所では現在、1回200人分の検査能力があるが、13日に発表した政府の緊急対応策で4倍の1回800人分に拡大するとされた。さらに地方衛生研究所の検査機器を増強し、民間検査機関や大学医学部の協力も求めていく。
武漢市では医療機関がパンク状態になり、重症者に適切な医療が提供できなくなった結果、死者が多発する事態を招いたとされる。感染拡大のペースを落とし、流行のピークを遅らせるため、これまで重点的に取り組んでいた空港などでの水際対策や、感染経路を追跡して濃厚接触者を経過観察する作業も継続する。
検疫の強化など水際対策は、03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)では結果として国内の患者発生を防いだが、09年の新型インフルエンザではウイルスの侵入を防ぐことはできなかった。こうした教訓を生かし、政府は今回は過度に水際対策を強化せず、国内の感染拡大の可能性を踏まえて、速やかに早期発見・治療の体制を強化する方針に切り替えた。
今後、国内での感染拡大が避けられない状況となるなか、企業は、事業継続計画(BCP)を策定し、社員に感染者が出た場合などに速やかに対応できるよう備えを急ぐ必要がある。