中国では新型コロナウイルスに対抗すべく、臨床試験が次々に始まった

感染が拡大している新型コロナウイルスに対抗すべく、さまざまな治療薬による治験が中国で次々に始まっている。なかでも鍵を握りそうなのは、エボラ出血熱患者に対する効果がみられた抗ウイルス薬だ。

temporary hospital

FEATURE CHINA/BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

外部との交通が遮断された中国・武漢市では、新型コロナウイルスの爆発的なアウトブレイク(集団感染)と戦う医療従事者が数週間にわたり、「COVID-19」の患者に対して可能な限りのケアを提供しようと知恵を絞っている。

患者の症状は、せきや発熱、重度の肺炎、敗血症性ショック、臓器不全にまでおよぶ。これらの症状を、酸素療法や人工呼吸器、抗生物質で治療するほか、現地の医師らは臨床試験にも着手している。

ただし、新型コロナウイルスによって引き起こされる疾患に対し、現時点で承認された治療薬はない。このため医療従事者は、ステロイドや抗体、通常ならHIVやインフルエンザの治療に用いられる医薬品まですべてを試している。だが、これらの治療は一元化して厳密に結果を追跡することなく臨機応変に行われていることから、新しい疾患に対してどの治療が効果的なのか知るのは困難な状況である。

中国の医療現場からの要請

こうしたなか、中国の研究者たちは「COVID-19」以外の感染症の治療薬を用いて、体系的な臨床試験を開始しようと先を争っている。中国では1月28日以降に科学者による臨床試験が19件登録され、少なくとも数件では患者への治療薬の投与がすでに始まっている。

早ければ4月にも初期の結果が公表される見込みといい、最もよく効く治療法に関する明確な証拠を求めている最前線の医療従事者にとって、臨床試験がスピーディーに実施されることが重要になる。確実に証拠を積み重ねることが鍵となるのだ。

「治療の効果を調査する際、患者に関するさまざまな測定値が利用できます」と、世界保健機構(WHO)で保健システム・イノヴェイション分野の事務局長補佐のマリー=ポール・キニーは、2月12日(米国時間)の記者会見で語っている。「異なる治療法を比較したい場合には、あらゆる人が同じ測定法を用いることが重要になります」

これはWHOが開催した2日間の研究フォーラムの終了時の発言である。このフォーラムは、現在のアウトブレイクにおいて最も緊急性が高い研究を見極め、優先順位をつけるため、主な資金提供者や300人以上の科学者が参加して開かれた。

このフォーラムの共同議長を務めたキニーによると、実際に参加またはヴァーチャルで参加した中国人の科学者たちからは、ふたつの緊急かつ短期的な要請があったという。ひとつは、「COVID-19」の診断に用いるより簡単な検査を作成し、医師が患者のベッドサイドで検査したり、地域のスクリーニング調査の一環として現場で実施したりできるようにすることである。

いま利用できる唯一の検査は研究室で処理する必要があるため、時間がかかる。適格とされる病院に生体試料を送らなければならないので、未処理分がすぐに蓄積される可能性があるのだ。

ふたつ目は、世界の医療界が標準化された治療計画を作成することで、これは強力なデータ収集の枠組みを備えている必要がある。つまり、最も重症な患者に対して何が効くのかを知りたいのだ。

混乱のなか一貫性のある試験を実施できるか

WHO事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイェススは2月12日(米国時間)、同機関が臨床試験を調整するためのマスタープランを作成中であると説明している。この枠組みは異なる治療法の研究に一貫性をもたせ、入手したデータを直接比較できるようにすることを目的としている。

ランダム化比較試験は、臨床研究における究極の判断基準である。しかし、大規模なアウトブレイクに圧倒されている医療システムでの作業の実現可能性を考慮すると、「COVID-19」を対象として協力してこれを実施するのは困難である。

「最大の問題のひとつは、臨床試験が実施されるすべての場所で同じ基準のケアを確保することです」と、ボストン大学国立新興感染症研究所で特殊病原体部門の医療ディレクターを務めるナヒド・バデリアは言う。「薬が効いているかどうかは、患者が受けるほかの治療も同じでない限り判断できません」

湖北省で48,000人以上もの感染者が発生した公衆衛生上の緊急事態では、これはさらに難しい。現地からの報告によると、患者の長い列や混雑した病棟、治療を受けられず自宅に戻される人々など、病院はギリギリの状態で運営されている。突貫工事で建設された“野戦病院”や一時的な都市封鎖によっても、依然として詰めかける患者の数は減っていない。

エボラで効果が見られた抗ウイルス薬の存在

しかし、現地の研究者にとって有利な点は、臨床試験における深い専門知識の積み重ねがあることだ。ロイター通信の報道によると、現時点で臨床試験全体の約20パーセントは中国で実施されており、5年前の10パーセントと比べて増加している。この数値には、COVID-19で最も打撃を受けた武漢市で実施中の500件近くの臨床試験が含まれる。

アウトブレイクによって、これまで治験に専門的に携わっていた医師や施設が伝染病の最前線に立たされているため、これらの研究の一部に混乱が生じている。しかし、COVID-19に効く可能性がある治療薬を試す意思のある患者にはこと欠かない。

このほど参加する患者を募集し始めたと『ニューヨーク・タイムズ』が報じたふたつの治験では、米国のバイオ製薬会社ギリアド・サイエンシズが製造する研究用の抗ウイルス薬「remdesivir(レムデシビル)」の有効性が試される。レムデシビルは、多くのウイルスがヒトの細胞内で増殖する際に使う酵素を抑制することで機能する。

この抗ウイルス薬はまだいかなる用途に対しても承認されていないが、18年のコンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱患者に対する治験結果によると、安全のようだ。これは新型コロナウイルスに感染した人に対する最初の臨床試験であるが、中国の科学者らは2月に入ってから、「SARS-nCoV-2」(「COVID-19」を引き起こすウイルス)の霊長類の細胞への感染を防ぐ上でレムデシビルの有効性が証明されたと報告している

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始まったレムデシビルによる治験

中日友好医院の医療チームが実施しているふたつの治験では、レムデシビルとプラセボ(偽薬)を比較する。ひとつの治験には、重度の症状がある患者を登録し、もうひとつの治験には軽度から中等度の症状の患者を登録する。ギリアドは最大500人の参加者を治療するために十分な量の薬を提供したと、同社の広報担当者は説明している。

最近のエボラ出血熱のアウトブレイク後、ギリアドはレムデシビルを備蓄している。今回のふたつの治験に利用しているほか、人道的使用の要請があれば薬を提供すると、広報担当者は述べている。現時点で同社が開示しているのは、米国で「COVID-19」の患者1名(ワシントン州在住の35歳男性)を治療したことだけである。

これまでに100人以上の患者が登録され、さらに660人以上が追加される(すべての参加者にレムデシビルが投与されるわけではなく、一部はプラセボを投与される)予定である。「このことは、中国の資源能力と現地の医療スタッフの献身的な働きをよく物語っています」と、米国立アレルギー・感染症研究所で特別臨床研究部門の医療ディレクターを務めるリチャード・T・デイヴィーは言う。

デイヴィーは2018年、エボラ出血熱患者にレムデシビルの治験を行う研究者チームの陣頭指揮をとった経験がある。このときの臨床試験は紛争地域で実施され、治験に慣れていない医療環境だった。それに比べると、中国はすみやかに行動する上ではるかにいい環境にあると彼は指摘する。「中国には感染症の専門家や、これまで臨床試験を実施したことがあるたくさんの人がいます。わたしたちは何を支援すればいいのか、人々の要請を待っている状態です」

供給体制の確立が課題に

このように素早く参加者が募集されたことで、中国での治験結果は早ければ4月に公表される見込みだ。とはいえ、レムデシビルの有効性が証明された際に、依然として薬を必要としているであろう数千人の患者を治療できる十分な量のレムデシビルをギリアドが保有しているかどうかは、定かでない。

ギリアドの広報担当者によると、同社は可能な限りすみやかに利用可能な供給量を増やす措置を講じているという。それには、レムデシビルの製剤の種類を増やす、複数の地域で新しい生産パートナーと協議を開始する、内部生産能力を増強するといった手段が含まれる。

「将来の潜在的なニーズを見越して、可能な限りすみやかに利用可能な供給を増やすため、製造スケジュールを加速しています」と、ギリアドの広報担当者は説明する。「わたしたちは、レムデシビルがCOVID-19の患者にとって有効かつ安全な治療薬であるという結果が判明する前に、増産体制に入っています」

疑わしいアプローチもあとを経たない

研究者らはレムデシビルのほかにも、別の治験で抗ウイルス薬の「ロピナビル」や「リトナビル」を患者に投与している。これらはHIVの治療薬として承認されており、ジェネリック製剤が開発されている。これらの薬も、ウイルスがヒトの細胞内で増殖するために使う酵素を抑制することによって機能する。

まもなく中国では、すでに承認されている抗インフルエンザ薬「オセルタミビル」や「アルビドール」の有効性を調査する治験が開始される予定だ。これらの薬は、ウイルスが宿主の細胞表面から侵入して増殖する機能を阻害することにより、インフルエンザを治療する。

治験登録にはまた、ホルモンや幹細胞、ヴィタミンCの注入など一般的とは言えない、ことによると疑わしいアプローチも多数含まれている。そして残念なことにアウトブレイクにおいては、試せるものは何でも試してみたいと必死になる患者があとを絶たないのである。

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ファーウェイにとって「組織犯罪」としての追起訴は、これまで以上に深刻な打撃になる

通信機器大手のファーウェイが米国で企業秘密を盗む活動を続けてきたとして、米司法省は組織犯罪を規制するRICO法違反を含む16の罪で同社を追起訴した。一連の罪状が認められれば、ファーウェイは米国の金融システムから弾き出されかねず、さらに深刻な打撃を受けることになる。

TEXT BY KLINT FINLEY

WIRED(US)

Huawei

JAKUB PORZYCKI/NURPHOTO/GETTY IMAGES

中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)は組織ぐるみの“スパイ”であると、競合他社は長らく非難してきた。そしていま、ファーウェイは米国政府の摘発に直面している。過去数十年にわたって企業秘密を盗む活動を続けてきたとして、追起訴されたのだ。

米司法省は2月13日(米国時間)、組織犯罪を規制するRICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)違反を含む16の罪でファーウェイを起訴した。起訴状によると、ファーウェイは2000年という早い時期から、少なくとも6社の米国企業の企業秘密を盗んだという。それらの企業名は明示されていないものの、ファーウェイに対するシスコとモトローラによる以前の訴訟が起訴状に反映されている。

今回の新たな起訴は、イランに対する米国の制裁違反に関してファーウェイが取引相手の銀行をだましたほか、Tモバイルの企業秘密を盗んだとした昨年の起訴による罪状も組み込んでいる。ファーウェイの創業者・任正非(レン・ツェンフェイ)の娘で同社最高財務責任者(CFO)の孟晩舟(メン・ワンツォウ)は、これらの容疑で18年末にカナダで逮捕された。孟はいまもカナダで自宅軟禁の状態にあり、米国への引き渡しに抵抗している。新たな起訴状では、ファーウェイはイランに加えて北朝鮮にも機器を販売したとしている。

ファーウェイはコメントの要請に応えていない。だが、今回の起訴は「法の執行ではなく競争上の理由でファーウェイの評判と事業に決定的ダメージを与えようとする司法省の試みの一環だ」と『ウォール・ストリート・ジャーナル』に語っている。なお、RICO法違反の容疑に関しては、「政府による今回の“ラケッティア(組織犯罪)企業”という嫌疑は、ほぼ20年前のひと握りの民事訴訟を改めて狡猾にまとめ上げたものにすぎない」としている。

米司法省はRICO法を用いることにより、ファーウェイはひとつやふたつの犯罪を犯しただけでなく、基本的に犯罪活動を継続実行してきたという嫌疑をかけていると、シカゴに拠点を置く知的財産を専門とする法律事務所McDonnell Boehnen Hulbert & Berghoffのジョシュア・リッチは言う。

米国政府にとって強力な“武器”に

前回の起訴は、ファーウェイにとってすでに大きな脅威になっている。もし、イランとの取引を隠して銀行をだました罪で有罪になれば、ファーウェイは米国の金融システムから弾き出されかねない。そうなれば、世界中で事業を展開するのがより難しくなるだろう。

詐欺で有罪にならなかったとしても、RICO法の罪状は、ファーウェイを米国の銀行から閉め出すもうひとつの手段を検事に与えることになる。「ギアを上げただけでなく、圧力を2倍にしたのです」と、元連邦検事で現在はDickinson Wrightで政府調査と証券執行弁護士を務めるジェイコブ・S・フレンケルは言う。

ファーウェイは最悪の結果を避けるために、司法取引の交渉に乗り出そうとする可能性が高いとフレンケルは指摘する。今回の新たな罪状は、その交渉において米国政府にこれまで以上に強力な武器を与えることになるだろう。

今回の起訴に先立ち、米国は先月中国との間で「第1段階」の貿易協定に署名した。その前にトランプ大統領は、中国との貿易交渉の一環として孟の問題に介入する可能性があることを示唆していた。

競合の企業秘密を「盗んだ」との指摘は多数

ファーウェイが知的財産を盗んでいるという疑惑を巡る苦情は、決して新しいものではない。シスコは2003年、ファーウェイがシスコ製品のソースコードをコピーしたばかりか、ユーザーマニュアルの文章までもコピーしたとして訴えている。この結果、両社は法廷外で和解にいたった。モトローラも2010年、ファーウェイがモトローラの企業秘密を、それと知りながら受け取ったとして訴えている。

ファーウェイに対する過去の嫌疑は、かつて存在したカナダの通信機器メーカーであるノーテルネットワークスの元従業員からも寄せられている。ノーテルでシステムセキュリティの上級アドヴァイザーだったブライアン・シールズは、ファーウェイの息のかかったハッカーたちがノーテル幹部のパスワードを盗み、ファーウェイがノーテルの企業秘密にアクセスできるようにし、その工作は少なくとも2000年までさかのぼると12年にCBCに語っている(これらの嫌疑は起訴状には含まれていない)。

米司法省は声明で、企業秘密を盗む際にファーウェイが採ったさまざまな手法を説明している。すなわち、秘密保持契約を締結しておきながら契約を守らなかったり、かつての雇用主から知的財産を盗むために従業員を採用したり、研究機関の研究者を使ってファーウェイに技術を提供させたりといった手法だ。

起訴状の罪状は、ファーウェイが中国政府のためにスパイ活動を展開するのではないかという恐れとは関連していないものの、新たなワイヤレスネットワークにファーウェイ機器を使用することを諸外国に禁止させようとする米政府の努力を加速させる可能性があると、リッチとフレンケルは言う。これまでのところ英国と欧州連合(EU)は、全面的な禁止措置には及び腰だ。なお、ファーウェイは現在も将来的にも政府のためにスパイ活動を行うことはないと否定している。

これまで以上に深刻な打撃に

米国商務省は昨年、ファーウェイを国家安全保障上の脅威となる企業のリストに加えた。このことは、マイクロチップやAndroidのようなOS など、米国で開発された技術をファーウェイが入手するには許可が必要になることを意味する。

別の中国通信企業は同様の制限により、2018年にほとんど事業ができなくなった。イランに機器を販売したとして、米政府がZTE(中興通訊)に制裁を科したのだ。米国は最終的にはこの制裁を解除している。

ファーウェイ創業者の任は、同社がこうした制限をZTEよりもうまく乗り越えられる立場にあったことや、ファーウェイが自社でチップを設計したり、独自のOSを構築したりすることで制限をやり過ごす準備が整っていると主張してきた。それでも米司法省が主張する罪状によって米国の金融システムへのアクセスを失うことは、これまで以上に深刻な打撃になることだろう。

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