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解説アーカイブス これまでの解説記事

「新型コロナウイルス肺炎 ~SARS 新型インフルエンザなどから学ぶ~」(視点・論点) 

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川崎市健康安全研究所 所長 岡部 信彦

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昨年末に、中国の武漢で原因不明の肺炎が発生しました。現在(1月27日午前)、分かってきたこと、そしてまだ分からないことについてまとめました。

原因のウイルスは新しいコロナウイルスで、それは、野生動物からきたと考えられますが、その野生動物がどれかということは、まだ特定されていないようです。

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ヒトからヒトへの感染も、最初は非常に限定されていると報告がされていますが、ヒトからヒトへの感染はあることが明らかになってきました。感染は濃厚接触であることは確実で、近接した距離に一定時間いた方についてはリスクが高いわけですが、空気感染のような広い空間全体に広がるものではなさそうです。
飛まつ感染。距離として1mから2mの間隔でインフルエンザのようにうつるかということについては、まだ確定がされておりません。
また感染力。人から人への感染が容易に生ずるかどうかについては、ウイルスの変異が関係することもあるわけですが、それも、まだ研究調査中であると考えられます。
重症者については、高齢者であったり、基礎疾患、つまりもともと何か持病のある方がリスクが高いということも分かってきております。日常は健康者である方の感染については、重症になりやすいのか、多くは軽く終わるのかどうか。これについては非常に関心を持って、今注目をしているところです。
現在のところ致死率は2~3%ですから、これは、SARS、エボラあるいはMERSに比べるとはるかに低いわけですが、はしか並みあるいは、過去に発生したスペインインフルエンザ型と同程度ではないかというのが現状のところになります。
 
さて、こういった地球規模で問題になるような新たな感染症の発生というのは数年おきに発生しています。

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代表的なものとして、2003年のSARS。そして、2009年の新型インフルエンザのパンデミック。その後もMERS、2012年。エボラ出血熱、2014年。ジカウイルス感染症、2015年などがあります。
この中で、日本で多くの患者さんが出たのは、新型インフルエンザパンデミックだけでした。

2003年のSARSは、国内での患者の発生は結局、確認されておりません。
ウイルスは世界のどこからも見つからなくなり、患者数は、世界で約8000人。致死率は、およそ10%でした。
2012年に発生したMERSも、今のところ、国内での患者さんの発生はありません。
しかし、現在でも中東では患者の発生が続いています。世界での患者数は、中東を中心にして、2500名。致死率は、30%です。
こういったSARS、MERSといったような、急性肺炎、重症の肺炎はヒトのコロナウイルスの中では非常に例外的な、重症化するウイルスであろうということが分かったわけです。いずれも、動物由来で、SARSはハクビシン、MERSはヒトコブラクダ、そして、そのもとはコウモリであろうと考えられています。
今、問題になっている急性肺炎。これも、コロナウイルスであるということが分かりました。ハナカゼの原因となるコロナウイルスではなく、SARS、MERSといったようなものと同じ、重症化しやすい新しいウイルスとして見つかったもので、これは、非常に早い段階で決定がされました。そのために、病気の確定診断が早まり、ここから先の迅速診断キットといったようなもの、治療薬、ワクチンの開発に結び付いていくということは、SARSのころとは比較にならない科学の進歩、それから、情報交換が早くなったという、よい点です。
しかし、疫学的情報たとえば患者の重症度、あるいは、感染の強さといったような情報がまだまだ乏しいのはマイナスの点です。さらに、人の行き来が格段に多くなっているということは大きなリスクになりますので、一時的にある程度の動きを制限する。これは、人々には不便をおかけするわけですけれども、ある程度はやむをえない状況ではないのかと思っております。

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さてSARSという病気ですが、これは、一時は地方の肺炎の多発ということで終わりそうでしたが、広東省で流行し、それがきっかけとなって香港、ベトナムなどに感染が及び、そしてようやくウイルスが見つかった事例でした。また当時は、病院の中での感染対策、これも不十分なころで、医療機関で感染が広がり、やがて、町の中、市中に拡大しました。
WHOが初めて緊急事態宣言というものを出して、渡航制限の勧告などを行いましたが、これは、流行がある程度進んでからのことでした。しかしそれから、患者を隔離する、院内感染対策を十分にやる、あるいは、重症患者を早く見つけるといった対策で広がりは弱まり、ウイルスも、やがて消えていったということでした。
発生した患者の約6割は、中国本土からの発生でした。そのほかでは、台湾、香港、シンガポールでの発生が比較的多くありました。欧米諸国では、カナダの250例が例外でありますが、数例から数十例の発生にとどまっています。日本は、0で、韓国は、3でした。

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 SARSの場合ですが、患者の疫学調査をやることによって、ウイルスが明らかになる前に、ある程度のことが分かってきております。潜伏期、あるいは発病初期の感染は非常に低い。しかし、肺炎を発症すると症状は急激に悪化して感染力も非常に高くなる
ということが分かってきました。重症化率は肺炎患者の10~20%。致死率が10%です。現在の、この新しいコロナウイルスによる重症化率。これが、まだ不明ですが、中国では、最近新しく見つかってきている患者の多くは、軽症例であるという表現をしております。多くの患者が見つかってくるときは、軽症者も一緒に見つかってくるわけですが、この部分の詳細について早く知りたいところですが、多くの呼吸器感染症は、多くの軽症者の患者の中に重症者が含まれるといったパターンとなっています。

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最近スーパースプレッダーという言葉がよく聞かれますが、これは、SARSのときに初めて見つかった現象です。SARS患者の約80%は他の人への感染はしませんでした。
しかしたった一人の患者から10人、あるいは40人もの患者に感染したというごくごく少数の患者がいる、これがスーパースプレッダーです。新しいコロナウイルスでも、これには警戒する必要があります。誰がス-パースプレッダーかは見分けがつかず、肺炎患者の早期発見、そして早期に隔離をしてほかの人への広がりを食い止めるということが求められます。

最近、「ランセット」あるいは、「ニューイングランドジャーナル」、「ユーロサーベイランス」、こういった信頼のある一流の医学雑誌に、今回の事例と分析が論文として発表されてきています。これも、非常に早く、SARS、MERSの時よりも早く発表されているわけですが、これらの科学的事実に基づいた対応が必要となります。
しかし、それにはさらなる疫学情報、ウイルス学的情報が必要になります。

さて、新型インフルエンザのパンデミックは、世界中に、あっという間に広がったのですが、当初は、メキシコで重症例から見つかりました。次いで、米国でも死亡者が多く見つかったのですが、患者が急に増えるということが分かってきたとともに、軽症の回復例も非常に多く存在するということが分かってきました。

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人口10万当たりの死亡率は、米国では4と、このグラフに収まらないほど高かったのですが、欧米先進国で、1前後、日本は著しく低く人口10万あたり、0.16という数字でした。
何気ない基本的な感染症対策はいつの場合でも重要です。人混みを避ける、手洗い、マスク、うがい、そして清潔な生活。日本は、これは他国より優れています。
多くの人々の注意が、世界最低の死亡率に結び付いたのではといわれています。
また、重症化のリスクである慢性の疾患、いわゆる持病はできるだけ、よい状態にもっていっておくことが重要です。コントロールするといいますが、このためには、ふだんから持病のチェック、適切な治療が必要となります。
日ごと、情報は動いておりますが、ぜひ正しい情報を得て、対策にご協力をいただきたいと思います。

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「大気にも広がるマイクロプラスチック」(視点・論点)

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福岡工業大学 客員教授 永淵 修

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プラスチックゴミ問題は、今日の重要な環境問題です。
プラスチックの生産量の推移を見てみますと、1950年は200万トンでしたが2015年に3億2,000万トンになり、現在では4億トンを超えていると言われ、今後20年でその生産量はさらに増え、2倍になると予想されています。
これら製造され使用されたプラスチックは、どこにいくのでしょうか?

リサイクルされるのは6~26%であり、21~42 % は埋め立て処分されます。不適切な使用によって河川・湖沼・土壌に蓄積され、その後、海洋へと流出していると考えられています。
環境中に出たプラスチックはどうなるのでしょうか? 光、機械的摩耗、波、温度変動など、化学的・物理的な作用により破砕されていきます。そして5 mm未満になったものはマイクロプラスチック(MP)、さらに細かくなったものは、ナノプラスチック (NP) と呼ばれます。
近年、海洋でのMPについては重大な社会問題として取り上げられています。
しかし、プラスチック類の生産現場である陸域のMPに関する研究は限定的です。さらに、大気については、これまでほとんど研究されてきませんでした。
今日は、都市域の大気中MPとそのヒトへの健康影響、そして遠隔地での大気中のMPについて触れてみたいと思います。

さて、大気中MPに関する知見はどの程度あるのでしょうか。
論文を検索すると海洋では、 1103編であるのに対して、大気では17編しかありません。

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まず、都市部の大気中に浮遊するMPについてみてみます。2016年以降にはじめて報告がされるようになり、フランスのパリ、中国の大莞市、上海などで観測例があります。大きさは数µm~数mm と報告されています。私たちが容易には観察できない大きさです。
種類も日常的によく使用されるポリエチレン、ポリプロピレンなどが多く見られるようです。形状は、繊維状、フィルム、破片などです。

では、日本での状況はどうなのでしょうか。
私達が2019年11月に福岡市の大気を調査したところ、やはりMPが浮遊していることが明らかになりました。

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写真は、この時、大気中に浮遊しているポリエチレンとポリプロピレンです。大きさは数十ミクロンです。サンプル数がひとつで結果の不確実性が大きいですが、大気中には1m3あたり60個のMPが検出されました。

これらの存在は、ヒトがMPを呼吸により吸入している可能性を示唆しています。これまでの研究からその量が推定されています。

上海での大気中MPの観測結果から屋外に1日中いた場合、21コのMPを吸い込んでいると試算されています。また、ヒトの呼吸を模した (BTM: breathing thermal manikin) 機械で室内の大気を1日呼吸させた場合、1日あたり272個のMPを吸い込んでいると報告されています。私達が観測した福岡での大気中MPで試算すると、1日に約200個のMPを吸い込んでいることになります。
この結果は、私達に不安を抱かせるものです。呼吸によって体内へ取り込まれる異物は体の除去機能によってある程度は取り除かれます。しかし、1998年の研究で、すでに、ヒトの肺の深い部分に250マイクロメートルまでの大きさの、鉱物由来でない繊維、つまりセルロースやプラスチック繊維が発見されています。

プラスチックそのもののヒトの健康影響も気になりますが、もう一つ懸念されていることがあります。

プラスチックは、その機能をより高めるために、難燃剤などの化学物質を添加剤として加えて製造されています。さらに、プラスチックは有害化学物質を吸着しやすいという特徴もあります。新しいプラスチックペレットを大気環境中に放置するという実験で難分解性の有機化合物 (POPs)を吸着したと報告されています。
しかし、化学物質が大気中のMPの表面に吸着するかどうかについては、これからの研究を待たねばなりません。

都市の大気中MPを避けるために人間活動の少ない地域で暮らすのはどうか?と聞かれることがあります。では、人間の活動の少ない遠隔地の大気からMPが見つかるのでしょうか?

2019年にピレネー山脈の降水と北極の積雪中でのMPの存在が明らかになりました。これにより、人間活動の少ない遠隔地でも都会と変わらない程度のMPが存在することがわかってきました。大気中MPも海洋と同様にどこにでも偏在しているようです。

しかし、どうして人間活動の少ない遠隔地にMPが?という疑問が湧いてきます。この二つの知見は、この疑問に答えています。つまりMPの長距離輸送の可能性を示唆しているのです。

それでは、東アジアではどうでしょうか。
私たちは、日本の山岳地帯の大気汚染物質が運ばれやすいとされる自由対流圏高度に着氷する樹氷中の物質を調べ、その発生源地域を探索しています。

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この写真は、九州山地で撮影した樹氷です。樹氷は、大気中の過冷却水滴が樹木や岩などの構造物に衝突した際に着氷するもので、風に向かって成長します。『えびのしっぽ』といわれます。左上の写真は、同じ地点の雪と樹氷を採取し、融かしたもので、黒いほうが樹氷です。気塊のやってくる方向にもよりますが樹氷には、微細な粒子が多くふくまれています。

この粒子を前処理して観察します。2018年2月5日に九州山地の1700m地点で採取した樹氷中のMPの数と種類をみてみると、都市域と同様のMPが樹氷1L中に数十万個見つかりました。一方、先ほどの雪には、1L中に約7,200個のMPが検出されました(未発表)。

では、樹氷の中のMPはどこから来たのでしょうか?

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この樹氷となる過冷却水滴を伴う気塊の起源をさぐるために九州山地を始点として気塊がどこから来たのかを120時間さかのぼってみます。中国のプラスチック排出量の多い地域を低標高で通過したことが分かります。樹氷中には、石炭燃焼の指標の一つになると考えられる水銀も高濃度で存在しました。これは、この時の樹氷中MPが大気の長距離輸送によって運ばれてきた可能性を示しています。

大気中のMPの研究は緒に就いたばかりです。数少ない観測データではあるものの、私たちが無意識に、大量に使っているプラスチックが海洋のみならず、都市や遠隔地の大気にも及んでいることが明らかになってきました。

改めて見回すと身の回りはプラスチックが溢れ、私たちは、「プラスチック中毒」に陥っていると言えるかもしれません。しかし、今のところ私たちがプラスチックの利用を減らすことしかこの問題を打開する方法はないと思われます。

生命は親から子、子から孫へとバトンを渡しながら今に至っています。彼らの生活する地球を守ることは、今を生きる我々に課せられた使命であり、義務と言えるでしょう。
私達は地球の声に耳を傾け、待ったなしの対策を実施する時期に来ているのではないでしょうか。

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【おことわり】
福岡市での観測結果をもとに、ヒトが屋外で一日に吸い込んでいるMPの個数を試算した数値について、一日に約1000個とお伝えしましたが、正しくは約200個でした。大変失礼いたしました。

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