ファーウェイにとって「組織犯罪」としての追起訴は、これまで以上に深刻な打撃になる

通信機器大手のファーウェイが米国で企業秘密を盗む活動を続けてきたとして、米司法省は組織犯罪を規制するRICO法違反を含む16の罪で同社を追起訴した。一連の罪状が認められれば、ファーウェイは米国の金融システムから弾き出されかねず、さらに深刻な打撃を受けることになる。

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JAKUB PORZYCKI/NURPHOTO/GETTY IMAGES

中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)は組織ぐるみの“スパイ”であると、競合他社は長らく非難してきた。そしていま、ファーウェイは米国政府の摘発に直面している。過去数十年にわたって企業秘密を盗む活動を続けてきたとして、追起訴されたのだ。

米司法省は2月13日(米国時間)、組織犯罪を規制するRICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)違反を含む16の罪でファーウェイを起訴した。起訴状によると、ファーウェイは2000年という早い時期から、少なくとも6社の米国企業の企業秘密を盗んだという。それらの企業名は明示されていないものの、ファーウェイに対するシスコとモトローラによる以前の訴訟が起訴状に反映されている。

今回の新たな起訴は、イランに対する米国の制裁違反に関してファーウェイが取引相手の銀行をだましたほか、Tモバイルの企業秘密を盗んだとした昨年の起訴による罪状も組み込んでいる。ファーウェイの創業者・任正非(レン・ツェンフェイ)の娘で同社最高財務責任者(CFO)の孟晩舟(メン・ワンツォウ)は、これらの容疑で18年末にカナダで逮捕された。孟はいまもカナダで自宅軟禁の状態にあり、米国への引き渡しに抵抗している。新たな起訴状では、ファーウェイはイランに加えて北朝鮮にも機器を販売したとしている。

ファーウェイはコメントの要請に応えていない。だが、今回の起訴は「法の執行ではなく競争上の理由でファーウェイの評判と事業に決定的ダメージを与えようとする司法省の試みの一環だ」と『ウォール・ストリート・ジャーナル』に語っている。なお、RICO法違反の容疑に関しては、「政府による今回の“ラケッティア(組織犯罪)企業”という嫌疑は、ほぼ20年前のひと握りの民事訴訟を改めて狡猾にまとめ上げたものにすぎない」としている。

米司法省はRICO法を用いることにより、ファーウェイはひとつやふたつの犯罪を犯しただけでなく、基本的に犯罪活動を継続実行してきたという嫌疑をかけていると、シカゴに拠点を置く知的財産を専門とする法律事務所McDonnell Boehnen Hulbert & Berghoffのジョシュア・リッチは言う。

米国政府にとって強力な“武器”に

前回の起訴は、ファーウェイにとってすでに大きな脅威になっている。もし、イランとの取引を隠して銀行をだました罪で有罪になれば、ファーウェイは米国の金融システムから弾き出されかねない。そうなれば、世界中で事業を展開するのがより難しくなるだろう。

詐欺で有罪にならなかったとしても、RICO法の罪状は、ファーウェイを米国の銀行から閉め出すもうひとつの手段を検事に与えることになる。「ギアを上げただけでなく、圧力を2倍にしたのです」と、元連邦検事で現在はDickinson Wrightで政府調査と証券執行弁護士を務めるジェイコブ・S・フレンケルは言う。

ファーウェイは最悪の結果を避けるために、司法取引の交渉に乗り出そうとする可能性が高いとフレンケルは指摘する。今回の新たな罪状は、その交渉において米国政府にこれまで以上に強力な武器を与えることになるだろう。

今回の起訴に先立ち、米国は先月中国との間で「第1段階」の貿易協定に署名した。その前にトランプ大統領は、中国との貿易交渉の一環として孟の問題に介入する可能性があることを示唆していた。

競合の企業秘密を「盗んだ」との指摘は多数

ファーウェイが知的財産を盗んでいるという疑惑を巡る苦情は、決して新しいものではない。シスコは2003年、ファーウェイがシスコ製品のソースコードをコピーしたばかりか、ユーザーマニュアルの文章までもコピーしたとして訴えている。この結果、両社は法廷外で和解にいたった。モトローラも2010年、ファーウェイがモトローラの企業秘密を、それと知りながら受け取ったとして訴えている。

ファーウェイに対する過去の嫌疑は、かつて存在したカナダの通信機器メーカーであるノーテルネットワークスの元従業員からも寄せられている。ノーテルでシステムセキュリティの上級アドヴァイザーだったブライアン・シールズは、ファーウェイの息のかかったハッカーたちがノーテル幹部のパスワードを盗み、ファーウェイがノーテルの企業秘密にアクセスできるようにし、その工作は少なくとも2000年までさかのぼると12年にCBCに語っている(これらの嫌疑は起訴状には含まれていない)。

米司法省は声明で、企業秘密を盗む際にファーウェイが採ったさまざまな手法を説明している。すなわち、秘密保持契約を締結しておきながら契約を守らなかったり、かつての雇用主から知的財産を盗むために従業員を採用したり、研究機関の研究者を使ってファーウェイに技術を提供させたりといった手法だ。

起訴状の罪状は、ファーウェイが中国政府のためにスパイ活動を展開するのではないかという恐れとは関連していないものの、新たなワイヤレスネットワークにファーウェイ機器を使用することを諸外国に禁止させようとする米政府の努力を加速させる可能性があると、リッチとフレンケルは言う。これまでのところ英国と欧州連合(EU)は、全面的な禁止措置には及び腰だ。なお、ファーウェイは現在も将来的にも政府のためにスパイ活動を行うことはないと否定している。

これまで以上に深刻な打撃に

米国商務省は昨年、ファーウェイを国家安全保障上の脅威となる企業のリストに加えた。このことは、マイクロチップやAndroidのようなOS など、米国で開発された技術をファーウェイが入手するには許可が必要になることを意味する。

別の中国通信企業は同様の制限により、2018年にほとんど事業ができなくなった。イランに機器を販売したとして、米政府がZTE(中興通訊)に制裁を科したのだ。米国は最終的にはこの制裁を解除している。

ファーウェイ創業者の任は、同社がこうした制限をZTEよりもうまく乗り越えられる立場にあったことや、ファーウェイが自社でチップを設計したり、独自のOSを構築したりすることで制限をやり過ごす準備が整っていると主張してきた。それでも米司法省が主張する罪状によって米国の金融システムへのアクセスを失うことは、これまで以上に深刻な打撃になることだろう。

※『WIRED』によるファーウェイの関連記事はこちら

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新型コロナウイルスを止めるべく、米国が「抗体」の開発を急いでいる

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)の支援を受けた研究者たちが抗体の開発を急いでいる。機械学習とパターン認識の進歩によって開発を高速化する準備は整っているが、抗体の開発にはいくつかの大きな障壁が立ちはだかっている。

TEXT BY ERIC NIILER

WIRED(US)

PHOTOGRAPH BY NIAID-RML

カナダのヴァンクーヴァーに本社があるバイオテクノロジー企業AbCelleraのオフィスに、医療宅配業者によって一両日中に発泡スチロールのクーラーボックスが届けられる。その箱には、米国立衛生研究所(NIH)の研究者が新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の患者から採取した血液サンプルが、ドライアイスとともに詰められているはずだ。

この血液サンプルは、AbCelleraの研究室に運ばれることになる。そして、クレジットカードの大きさのマイクロ流体チップにセットされ、数百万個の白血球が1個ずつマイクロチャンバーに分離される。その後、それぞれの白血球は1時間ごとに撮影され、白血球が新型コロナウイルスを撃退するために生成する抗体を探し出すのだ。

「患者の血液サンプルの全細胞を数時間でチェックできます」と、AbCelleraの最高経営責任者(CEO)であるカール・ハンセンは言う。「患者1人のサンプルから、1日のスクリーニングで400の抗体をつくれるようになりました」

抗体とは、ウイルスやその他の異物を生体内から除去するために、免疫系がつくり出すたんぱく質のことだ。ワクチンは体内の免疫系を刺激して、侵入してくるウイルスに対する抗体の産生を促す。同じウイルスにまた攻撃されることがあった場合にも、この免疫力は有効になる。

ワクチンの効果は何年も続くが、その開発には長い時間がかかる。現在、COVID-19の原因ウイルスに対して使用できるワクチンはないが、ジョンソン・エンド・ジョンソンやマサチューセッツ州ケンブリッジのModernaといった製薬会社は、COVID-19のワクチンの開発に取り組んでいる。

これに対して研究者は、医師や病院職員、そして感染患者の家族など緊急に対策が必要な人がすぐに使える一時的な対策として、抗体自体の注入が役立つかどうかを研究している。

まだ症状の出ていない人に抗体を

米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は、致死率が高い新型ウイルスに対する抗体を60日以内に特定・生成することを目標に、2年前に「パンデミック防止プラットフォーム(P3)」プログラムを立ち上げている。デューク大学とヴァンダービルト大学のメディカルスクールから研究者を募り、AbCelleraと製薬大手のアストラゼネカにも協力を求めた。

いま中国で猛威を振るっている新型コロナウイルスのようなアウトブレイクに備えて、P3プログラムの科学者は、SARS(重症急性呼吸器症候群)およびMERS(中東呼吸器症候群)の原因となるウイルスを使用して試験を実施した。どちらもコロナウイルス科のウイルスで、COVID-19と密接に関連している。

研究者はこの2種類のコロナウイルスの抗体を分離したあと、遺伝子コードを特定し、それを基に抗体を大量生産する。患者に直接注射することで、感染したコロナウイルスに対して即座に抵抗力を与える抗体薬を開発することが目標だ。

「わたしたちは患者の血液を採取し、抗体を特定します。これを素早く実施するのです」と、DARPAのバイオロジカルテクノロジー研究室プログラムマネージャーのエイミー・ジェンキンスは説明する。同研究室はAbCelleraの研究に4年間で3,500万ドル(約38億4,000万円)の資金を支援している。

「抗体を分離できたら、まだ症状の出ていない人にその抗体を与えることができます。抗体はワクチンと同じように感染を防ぎます。違いは、ワクチンの効果は長く持続する点です。わたしたちはワクチンほど効果が長く続かなくても、いますぐ免疫力をつけられる治療法を目指しています」

米国では入手困難な血液サンプル

すべてうまく進めば、数年は効果が続くワクチンに対して、この抗体治療による効果の持続期間は数カ月になるとジェンキンスは言う。とはいえ、研究者は動物およびヒトの臨床試験で、この抗体の安全性と有効性をテストする必要がまだある。

もちろん、抗体を使った治療法の開発は簡単ではない。そもそも、COVID-19を発症した15人の米国人患者のうち、献血に同意した人はこれまで1人しかいない(中国には数千人の感染患者がいるが、米国の研究者はいまのところ米国での研究のためにその血液サンプルを入手できていない)。

したがってAbCelleraは、DARPAおよび米疾病管理予防センター(CDC)と提携して治療法を開発しているほかの企業や学術機関とともに、貴重な米国人患者の血液サンプルほんの数滴を得るために順番待ちの状態だ。「わたしたちは血液サンプルが到着したら、すぐその場に行けるようにチームを配備しています」と、AbCelleraの研究開発責任者であるエスター・ファルコナーは言う。「サンプル入手が待ち遠しいです」

中国の科学者チームは1月31日に、コロナウイルスの表面に結合し、中和作用を発揮すると思われる抗体を発見したと発表している。この研究論文はプレプリントサーヴァー「bioRxiv(バイオアーカイヴ)」に投稿されたもので、まだほかの科学者による査読を受けていない。また大量生産され、動物またはヒトで試験された場合のこの抗体の有効性は明らかではない。

この抗体治療が有効な場合、誰が最初に治療を受けるのかという問題もある。COVID-19患者の治療を実施している特定の病院で働く医療従事者か、それとも感染が確認された人と同じ屋根の下に暮らす家族なのか(抗体は米国では、政府の公衆衛生当局によって配布されることになる可能性が高い)。

ボトルネックは抗体の生産体制

もうひとつ考えられる問題は、抗体の生産規模拡大におけるボトルネックだ。必要とするすべての人に配布できる量の抗体を製薬会社が生産できるとは考えにくいと、医療専門家は指摘する。

ネブラスカ大学医療センターの新興疾患専門家であるジェームス・ローラーは、「生産能力に限界があります」と言う。ローラーはDARPAのプログラムには関与していない。「適切な抗体の精製能力はかなり進歩しました。しかし、どのようにすれば世界的な感染症の流行に効果をもたらせるほど素早く抗体を生産できるのかという問題は、まだ残っています」

ローラーによると、米国の5,500以上の病院および医療センターの医師や看護師、医療従事者を保護するには、100万回分以上の投与量が必要になる。「数百万回分の投与量の抗体医薬品を生産するように数カ月で生産規模を拡大するのは、かなり難しいです」と、ローラーは言う。「わたしたちにはそのような短期間に治療薬や予防薬の生産を拡大する能力はありません。2年後にはそのレヴェルに到達できるかもしれません」

機械学習とパターン認識が効果を発揮する

このような障害があるなか、DARPAのプログラムに携わる医学研究者は、最先端のツールを使って細胞のスクリーニングとイメージングを進める準備は整っていると語る。この最先端のツールは近年、機械学習とパターン認識の進歩で進化している。AbCelleraのマシンは、何百万枚もの画像から新型コロナウイルスの表面に結合する完璧な抗体を発見するように訓練されている。

ヴァンダービルト大学メディカルセンターのロバート・カーナハンも、同大学独自の抗体スクリーニング技術を活用するため、米国人患者から初めて採取された血液サンプルを待っている。ヴァンダービルト大学ワクチンセンターのカーナハン研究チームは昨年、この独自抗体スクリーニング手法を使ってジカウイルスに対する新しい抗体を発見した。最初のスクリーニングテストで800の抗体を発見したあと、動物実験で20の抗体に絞り込み、最終的にそのうち1つがウイルスの感染を阻止した。カーナハンによると、このプロセスにかかった日数はわずか78日だ。

「最も効果のある抗体が必要です」と、カーナハンは言う。「それを見つけるには多くの作業が必要になります。ジカを対象にした際に、わたしたちは小さなサブセットを取り出して、それを詳しく研究することを繰り返しました。パンデミックの最中には、そんなことをしている余裕はありません」

事態は急速に進展する?

ヴァンダービルト大学のカーナハンは、新型コロナウイルスの米国人患者の血液サンプルがもうすぐ手に入ると考えている。米国人の患者が少ないため、カーナハンの同僚は中国以外の国に居住する感染患者からサンプルを入手しようとしている。ただし、共同研究プログラムを調整する国際機関がまだ存在しないため、サンプルを入手するには各国の病院管理者および公衆衛生当局に直接働きかける必要がある。

「わたしたちの誰もがサンプルを待ち望んでいます」と、カーナハンは言う。「感染患者のサンプルが手に入るようになれば、事態は急速に進展するでしょう。また安全面から考えると、サンプルが米国中を飛び回っていないのは悪いことではないと思います」

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