国内では23年ぶりの大型地熱となった山葵沢地熱発電所(2019年5月、秋田県湯沢市)
世界でも有数の潜在力がある日本の地熱発電の開発が進まない。一部で新設発電所が動き出したが、環境規制などが障害になり過去10年で発電能力は1%しか伸びていない。政府が掲げる2030年の目標の達成は不可能な情勢だ。エネルギーの中東依存のリスクが改めて意識されるなか、自国の資源を有効活用できない現状が浮かび上がる。
19年は国内で23年ぶりに最大出力が1万キロワット以上の大型発電所が稼働した節目の年だった。秋田県湯沢市の山葵沢(わさびざわ)地熱発電所だ。出力は4万6199キロワットで、約9万世帯分の電力を賄える能力がある。地熱発電所としては国内で4番目の規模を持つ。
「稼働できたのは地元の理解のおかげ。安定的に電気を供給して地域に貢献したい」。Jパワーや三菱マテリアルなどが出資する運営会社、湯沢地熱(秋田県湯沢市)の幹部は感慨深げに話した。
地中からの蒸気でタービンを回して発電する地熱発電は火山周辺に適地が多い。日本の潜在的な地熱の資源量は約2347万キロワットで、米国(3000万キロワット)とインドネシア(2779万キロワット)に次ぐ世界3位だ。だが実際に利用されている資源は約2%にとどまる。
地熱は実際に採掘しないと資源量が分からず、成功率は3割程度とされる。環境影響評価(アセスメント)に3~4年かかるケースも多く、事業見通しも立てにくい。既存の発電所は調査開始から稼働まで平均で約14年かかる。山葵沢は26年を費やした。
環境省は15年、開発を後押ししようと有望地が多いとされる国立・国定公園の「第1種特別地域」の地下で、域外から斜め掘りして開発できるよう規制を緩和した。ただ「近くに温泉地があると地元に反対されるケースが多く、効果は小さい」(関係者)とされる。
掘削などを手掛ける技術者の不足も一因だ。日本の地熱発電は1970年代の石油危機を契機に、東北や九州などで建設が相次いだ。その後、原子力発電に国の予算が振り向けられ、地熱は停滞。90年代以降は空白の時代となり技術伝承が難しくなった。
地熱は気象条件に左右されずに発電でき、再生可能エネルギーのなかでも発電コストが低い。発電能力に対する実際の発電量を示す設備利用率は83%と、陸上の風力発電や大規模太陽光発電所よりも高い。昼夜問わず発電するベースロード電源として期待されてきた。
政府は30年に総発電量の22~24%を再生エネで賄う目標を掲げる。地熱は総発電量の1%を占める目標だが、18年度末で約52万キロワットの発電容量を140万~155万キロワットに高める必要がある。
19年5月に稼働した山葵沢発電所の後、開発が有望視される大型案件は、24年に稼働予定の湯沢市と岩手県八幡平市の1万5千キロワット級の2カ所の発電所だけだ。国が支援する調査段階のプロジェクトは35カ所ほどあるが、30年までに稼働できる案件は限られ、目標到達へのハードルは高い。
世界と比べ日本の遅れは鮮明だ。英BPによると08~18年で世界の地熱発電容量は41%伸びたが、日本は1%増どまり。国別ランキングは08年の8位から18年は10位に後退した。9位のケニアは国を挙げて力を入れ、5位のニュージーランドは行政が初期調査を担う。
日本の再生エネでは太陽光に偏重し、バイオマス発電は燃料となるペレットの調達がネックだ。風力も環境アセスに時間がかかっている。地熱も太陽光に次ぐ柱にはなれていない。
地熱発電プラントでは東芝や富士電機が世界で高いシェアを持ち、17年に米国の地熱発電会社を買収したオリックスが国内でも調査を進めるなど新しい動きもある。地熱の潜在力を引き出す動きがどこまで広がるかが課題だ。(落合修平)
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