咳やくしゃみ、手などを介した感染にご用心
おもな感染経路は飛沫感染と接触感染
インフルエンザのおもな感染経路は、飛沫感染と接触感染であり、新型インフルエンザも同様だと考えられています。
空気感染は、重症患者のいる医療現場などのきわめて限定された条件で起こりうると考えられています。
・咳やくしゃみによる飛沫感染
飛沫とは、咳やくしゃみにより口や鼻から飛び出す水滴のことです。ウイルスを含む大きさ5ミクロン以上の飛沫を、他の人が鼻や口から吸い込み、粘膜から感染します。飛沫は、通常空気中で1メートル前後の範囲にしか到達しません。少し幅をとって考えると、1~2メートルの距離、といえます。
・手などを介して起こる接触感染
患者の咳、くしゃみ、鼻水などに含まれたウイルスが付着した手で机、ドアノブ、スイッチなどを触れたあと、同じ場所を別の人が触れ、その手で自分の目や口、あるいは鼻をさわることによって感染します。
通勤・通学電車の中での感染を防ぐには
乗客が密集したままだと、1週間で12万人が感染
飛沫感染の射程距離が1~2メートルということは、咳やくしゃみをする人が近くにいたら、その場から離れたほうがよいということです。
首都圏の鉄道に新型インフルエンザを発症した人が1人乗ったと仮定して、まったく対策を取らなかった場合、重症軽症を含めた感染者数は1週間で12万人に拡大するというシミュレーションがあります。
車両や駅構内で乗客と乗客の間が半径1メートル以上離れると、感染の拡大はかなり防げるといわれています。実際に国内で新型インフルエンザが発生した場合には、公共交通機関の利用を制限して、乗客同士の距離を1メートル以上確保できるようにし、感染拡大を防ぐことが検討されています。このようなとき電車などに乗る場合は、常に周囲に注意を払うことが必要です。また「人ごみ」の状態を作らないよう、各自が気をつける必要もあります。
首都圏の鉄道での感染拡大シミュレーション(国立感染症研究所感染症情報センター,2008)
■外国で新型インフルエンザに感染した人が感染3日目に帰国し、東京都郊外の自宅で感染性をもつ(勤務地は都心)。
■感染4日目に東京都郊外の自宅から都心の会社に出社。
他の人への感染が始まっており、首都圏での感染者は30人。
■感染5日目に国際医療センターを受診、感染6日目には国内第1例として公表。首都圏での感染者は700人を超えている。
■感染10日目には首都圏で12万人以上が感染。このころには地方の主要都市にも感染が広がっている。
家庭や職場で取り組む感染予防策
有効とされる感染予防策
新型インフルエンザの感染予防策は、普段の生活の中で実施できるものが多く、以下の策が有効と考えられます。
1.ヒトとの距離の保持
感染者の1~2メートル以内に近づかないようにします。不要不急な外出を避け、不特定多数の者が集まる場には極力行かないようにします。
2.手指衛生
石鹸を使い、流水で最低15秒以上手指を洗います。洗った後は水分を十分に拭き取ることが重要です。速乾性擦式消毒用アルコール製剤(アルコールが60~80%程度含まれている消毒薬)はすぐに乾くため、簡便に使用できます。
3.咳エチケット
咳・くしゃみの際は、ティッシュなどで口と鼻を被い、他の人から顔をそむけ、可能な限り1~2メートル以上離れます。
使ったティッシュはフタ付きのゴミ箱などに捨て、手を洗います。ティッシュなどがない場合は、口を前腕部(袖口)でおさえます。咳をしている人はマスクを着用することが大切です。
4.身のまわりの清掃・消毒
通常の清掃に加えて、水と洗剤を用いて、人がよく触れるところを最低1日1回拭き取り清掃します。特に机、ドアノブ、スイッチ、階段の手すり、テーブル、椅子、エレベーターの押しボタン、トイレの流水レバー、便座など。
5.通常からの対策として、インフルエンザワクチンの接種
通常からのインフルエンザ対策が、流行時の対策にもつながります。
体温計の清潔確保
体温計に付着したウイルスによる感染を防ぐため、ご家庭でも、体温計に防水機能が付いていれば、全体を洗ってください。洗えない場合は、消毒用アルコールをしみこませた脱脂綿などできれいに拭いてから使いましょう。(注)
本格的な消毒には、次亜塩素酸ナトリウム、イソプロパノール、消毒用エタノールなどの消毒薬に浸け込みます。テルモ電子体温計C202は、このような漬け込み消毒が可能です。
(注)必ずお手元の体温計に付属の取扱説明書をご確認ください
いざというとき、注意したいポイント
食料・日用品を備蓄しておく
新型インフルエンザが流行して、外出を避けるべき事態となり、物資の流通が停滞することを想定して、普段から食料品や日用品を備蓄しておくことが望ましいと考えられます。
マスクなどの防御用品を準備しておく
新型インフルエンザも、普通のインフルエンザと同様の防御方法が有効です。マスクや石鹸、速乾性擦式消毒用アルコール製剤、フタ付きのゴミ箱などは、すぐにでも準備できる防御用品です。
新型インフルエンザの症状を早く見つけるために---体温計を活用しましょう
- インフルエンザの症状で、最も早くみられると思われるのが発熱です。新型インフルエンザが流行し始めたら、毎日熱を測りましょう。
- 高齢者や乳幼児は症状をうまく伝えられないことがあるので、近くにいる人が健康状態に注意を払い、毎日体温を測らせて、発熱を早く見つけることが大切です。
- 家族が新型インフルエンザ、あるいはその他の感染症にかかったときのことを考えて、体温計は一家に2本以上準備しておくといいでしょう。
監修者紹介
岡部 信彦(前 国立感染症研究所感染症情報センター長)
1971年東京慈恵会医科大学卒業。同大学小児科で研修後、帝京大学小児科助手、その後慈恵医大小児科助手。国立小児病院感染科医員、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長。1991年~1994年、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ市)伝染病疾患予防対策課課長。1994-1997年慈恵医大小児科助教授。1997年国立感染症研究所感染症情報センター・室長。2000年、同研究所感染症情報センター長。2012年、川崎市衛生研究所所長。
岡部先生からのメッセージ
新型インフルエンザは、近い将来、かならず出現すると考えられています。人類が経験したことのないインフルエンザウイルスに会えば、だれも免疫による抵抗力を持っていないため、地球上の広い範囲で大流行し、大きな被害をもたらすおそれがあります。このような状態をインフルエンザ・パンデミックといいます。
インフルエンザ・パンデミックによる被害を最小限にするためには、国や自治体による対策を進めるほか、事業所や個人による感染予防対策、感染した人への適切な対応がとても大切になります。そのためにも、新型インフルエンザについての基本的な知識を身につけていただきたいと考えています。
体温は、ご家庭にある体温計で誰でも気軽に測れるもっとも身近な体調チェックの手段です。