ブータン王国-収奪されゆく国土-

投稿日:2011-10-14 - 投稿者(文責):mumeijin

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産経新聞朝刊(大阪本社版7面)平成23年10月14日(金)

チベット系民族が国民の8割を占めるブータン王国は人口約70万人(=岡山市とほぼ同じ)の農業国。国土は現在38,394平方km、これは台灣・スイスとほぼ同じ面積で、国内では九州と同じ大きさだそうです。チベット本土が中国共産党の支配下でその独自の文化が破壊されているいま、このヒマラヤの小王国は世界で唯一チベット仏教を国教としチベット文化を継承する稀少な国家である。ただしチベットのダライ・ラマ法王やパンチェン・ラマの属するゲルク派とは異なり、チベット仏教四大宗派のひとつカギュー派であるとのこと。

→『チベットの四大宗派について』ダライ・ラマ法王日本代表部事務所HP
http://www.tibethouse.jp/culture/buddhism_4categolies.html

なお西方に位置するネパール王国(現 ネパール連邦民主共和国)は人口3,000万人、ヒンドゥー教を国教とする唯一の国家として存続して歴代国王はビシュヌ神の化身とされるなど独自の文化をヒマラヤ山脈で維持していたが2008年5月、制憲議会による選挙により立憲君主制は廃止(この時の投票結果は「廃止に賛成560、廃止に反対が4」)され大統領を元首とする共和制国家へと移行された。240年間の歴史を持つ世界で唯ひとつのヒンドゥー王国はここに終焉する。


ネパールは11年にわたる内戦、2001年6月の衝撃的な皇太子による王族殺害事件が日本でも多く報道されてきた。一方隣国のブータン王国は小国家であるとともに長年の鎖国体制が影響し報道自体が非常に少なかった。プナカだと考えられていたブータン王国の首都が実はティンプーに遷都していた事実を日本人学者が発見したのは1960年頃の事である。70年代には先代国王が国民総生産(GNP)に代わる指標として提唱した「国民総幸福度(GNH:Gross National Happiness)」を国是としている事が近年ようやく知られてきた。かつてアジア最後の秘境としてその存在を知らしめていたブータン王国。今回第5代ブータン国王のチベット仏教に基づいたロイヤル・ウェディングの様子がインターネット等を通じて世界に大きく報道されたのは隔世の感が有る。

【動画】チベット仏教のロイヤル・ウエディング
http://www.youtube.com/watch?v=AWeZ2sPjkmo

このブータン王国は北の国境線を中国のチベット自治区に、南面をインドに接しておりこの二大国の緩衝地帯(国)の性格を持っているがブータン・中国間の国境は不明なところが多く国境線の確定交渉が進められているのだが、ブータン王国は1996年以前と以降で全国土の18%にあたる8,100平方kmを失っている。この領域(上の地図の斜線部分、Gasa(ガサ)県の一部)は現在事実上中国領となったのだ。その経緯は中国側のブータン領内への繰り返される侵入行為の結果であるが、ブータンがその事実に気付いた時には時すでに遅く中国領となってしまっていた。現在中国は14ヶ国(北朝鮮・ロシア・モンゴル・インド・パキスタン・アフガニスタン・ミャンマー・ラオス・ベトナム・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ネパール・ブータン)と国境を接しているが、この内の二国(インド・ブータン)とのみ国境線の確定が終わっていない事を認めている。

今年4月、現代中国(軍事・外交)の専門家である平松茂雄氏が上梓した『中国はいかに国境を書き換えてきたか-地図が語る領土拡張の真実-』は日本人のそれとは異質な中国の世界観、周辺国家観、領土観を多数の貴重な資料を駆使して指摘した労作である。
中国共産党の論理は「中華人民共和国の陸地領土を形成している国境線は、1840年に勃発したアヘン戦争を契機に帝国主義列強が中国を侵略してできたものであり、弱体化していた清朝政府に強力な帝国主義列強が押し付けた不平等条約」により規定されたものであるから、アヘン戦争以前の領土回復・国境線の再画定への意志を表明している。中国共産党は「帝政ロシアにより奪われたハバロフスクと沿海州」、「大英帝国によりインド側に有利に画定された中印国境」については再画定が必要だと主張していたのである。

下の地図は1954年(昭和29)に、中学生用歴史教科書『中国近代簡史』に所収されていた地図。この略図からはブータン、ネパール・台灣及び澎湖諸島・朝鮮・ベトナム等と同じく、沖縄(琉球)をも失地とみなし中華世界の一員とする露骨な中華思想が見て取れる。そして現在、中国が「核心的利益(=最重要の国益)」として自国の領土保全上の最重要地域と認定するチベット・ウイグル・台灣の中で唯一版図のなかに未併合の“領土”が台灣である。また昨年9月7日の尖閣諸島沖における中国漁船衝突事件後、中国は尖閣諸島を含む東シナ海と東南アジア諸国が実効支配を行う南シナ海を「核心的利益」に位置付けたという報道があった。この様に中国の核心的利益の範囲は拡張している。尖閣沖事件での一連の日本政府の不作為、弱腰で誤った判断を繰り返した様子を値踏みする中国は今後も日本に対する挑発行為を続ける事だろう。ブータン王国の悲劇は日本にも起こり得ることなのだ。

 
なお右の地図上(1)「西北大地」とは現在のカザフスタン・キルギス・タジキスタンの一部であり中国で外西北と呼称されている地域。

◇草思社HP
『中国はいかに国境を書き換えてきたか-地図が語る領土拡張の真実-』
http://soshisha.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-3e04.html


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