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まだ信じられないけど
三田格
人当たりがとても優しく、マッチョなところがまったくない方でした。いつ会ってもゆったり構えていて、乱暴なことはいっさい言わない。ZERO自体がアット・ホームな場所だったけれど、音楽の話だけでなく、娘が熱を出したとか家族のことを話す時も実に楽しそうだった。小学生の娘が夏休みに店を手伝うと聞いた時は「労基法違反じゃないの?」と思わず言ってしまったけれど、「学校の課題でそれはありなんだよ」と、なんか得意げだったな。そんな家族が死によって引き裂かれてしまうのはとてもいたたまれない気持ちです。「レコード屋の親父」である前に、飯島さんには家族があり、政治の話をしていても、考え方のベースにはいつも家族があるという感じがしていたので。
江古田に店があった頃は行ったことがなく、下北沢に移転してから毎週のように行くようになりました(家から歩いて30分だった)。よく話すようになったのはワールド・ミュージックのことを訊いてからで、飯島さん自身はピーター・バラカンさんの本を読んでワールド・ミュージックに興味を持ったと言っていた(ので、バラカンさんにもZEROの存在を伝えて)。バンクシーの作品が無造作に置いてあるのはいつも気になってしょうがなかったけれど、僕の都合で定休日を変えてくれたことは誠に痛み入りました。おかしかったのはレコードストア・デイになるとアナログ盤はほかの店でよく売れるので、ZEROの店内は飲み会になってしまうこと。ビールやスナック菓子が飛び交い、この日は落ち着いてレコードを探すことができない。いつもジェントルな飯島さんがこの日だけは「てやんでい」みたいになっちゃって。
めちゃくちゃな店内だったけれど、「Township Funk」がヒットしたDJムジャヴァのアルバム(南アフリカ盤)まで売っていたのは驚いたな。〈ナーヴァス・ホライズン〉というレーベルを教えてくれたのも飯島さんだったし、ZEROで買ったモデュール・エイト『Legacy LP』は近年の宝物になっている。教えてもらうだけでなく、DJニガ・フォックス「O Meu Estilo」がすごくいいよと教えてあげたらすぐに気に入っちゃって、あちこちのディストリビューターに連絡を取りまくったあげく「入荷できなかった」とかなり悔しがっていた。スクウィーのブームが去って、どこにもダニエル・サヴィオの新作が入荷しなくなってしまった時は飯島さんに頼んで探してもらったら、本人だったかレーベル・オーナーだったかが「在庫切れだけどベッドの下に1枚だけあった」といって送ってくれたことも。飯島さんはブリストルだけじゃなく北欧にも顔が利くんですよ。エレキング本誌でブリストルのミニ特集を組んだ時も楽しかったな。飯島さんの撮ってきた写真がわかりにくくて、どんどん小さな扱いになって(笑)。せっかくまたブリストルがざわつき始めた時に、なにもそんな時に逝かなくても……。
イギリスの音楽には様々な側面がある。とはいえ、戦後の労働力不足を補うためにジャマイカから来た移民たちが音楽を通じてイギリスに与えた影響はとても大きく、ビートルズやクラッシュがレゲエを取り入れ、デヴィッド・ボウイやビョークがドラムン・ベースに手を伸ばしたことにもそれは表れている。昨年、アイドル・グループのリトル・ミックスが全米でヒットさせた「Bounce Back」もソウル II ソウルの「Back To Life」を再構築したものだし、ブリストルの音楽に通じているということはそのすべてとは言わないけれど、そのようにして変化・生成してきたイギリスの音楽でもかなり重要な部分を理解させてくれ、飯島直樹が日本に接続した「文脈」はその流れをほぼ同時に追える楽しみだったといえる。2ヶ月も迷い続けてようやくイキノックス『Bird Sound Power』を買った時、飯島さんは「それ、1枚も売れなかったんだよ」とニンマリ笑った。R.I.P.(安らかにお眠りください)
なぜ下北ZEROが偉大なのか
野田努
あれはたしか1998年のこと、なぜわざわざ江古田まで行ったのかはいまでもよく憶えている。当時、DJクラッシュがプレイするときの極めつけの1曲(北欧のトリップホップ)があって、それはどうやら江古田のZEROに売っているらしいと。その時代、渋谷は世界でもっともレコード店の密集している街であり、渋谷で手に入らないモノはなかった。だが、それだけは渋谷では手に入らず、情報筋によれば江古田にはあるとのこと。ZEROに行かねばならなかった。
当時のZEROは、下北時代のこの5年と違いじつに綺麗な店内で、まだブリストル臭もそれほどなく、ポストロックやトリップホップなんかが揃っていた。下北の店舗でいうと、入口を入って右側のすぐ奧が江古田時代の名残である。
90年代は、レコード店というのがひとつの事業として夢が見れた時代だ。当時は多くの店が誕生し、元からあった店は店舗を拡張し、とにかくレコード店は賑わっていた。ZEROもそんな時代に生まれたわけだが、当時の多くのレコード店が90年代初頭のハウスやテクノもしくはヒップホップを契機としていたのに対して、ZEROは後発組で、大衆音楽史で言えばポスト・レイヴ期に生まれている。細分化の時代であり、音楽がひとかたまりの力として成立しなくなった時代だ。ムーン・フラワーズという、UKではほとんど知られていないブリストルのバンドをきっかけにブリストルとの交流がはじまったZEROが、いわゆるマニアの集う専門店と化していったとしても当時の状況を思えば不自然ではない。
しかし何故かZEROは細分化された同好会のひとつに収束しなかった。飯島直樹にとってレコード店とは、客が入って好みのレコードをレジまで持っていって完結するという商業施設以上の意味を持っていたのだろう。そこは情報を発信してはシェアし、音楽シーンを面白くするのにどうしたらいいのか意見を交換し、そしてシーンに活気を取り戻すための拠点だった。店が下北沢に移ってから、ZEROはそれ自体がメディアであり、ムーヴメントを目論むための場だった。そして、それこそぼくが90年代初頭のレイヴの時代にロンドンで経験したレコード店文化の姿だった。
ぼくはよく飯島さんに冗談めかして「ここだけ日本じゃない」と言っていた。誰かに紹介するときも「ここは日本じゃないから」と説明した。その理由はもうひとつある。下北ZEROは、UKにはよくあるタイプのカウンター越しに会話しなければ良いレコードが買えないお店で、良いレコードをゲットするには飯島さんと対話しなければならない。これはコミュニケーションが下手な日本人相手には向いていない商売方法だろうし、アマゾンやコンビニがあれば良いと思っている人間には鬱陶しいだろう。いまや希少化しつつある商店街の八百屋みたいなもので、これが苦手でZEROから離れた人だっているはずである。まあ、綺麗ごとではないいろんな諸事情もあったのだろうが、結果としてZEROはそのやり方を通した。とくにブリストルのシーンとは固い絆で結ばれていた飯島さんだが、彼が輸入したのはレコードという商品を売るだけではなく、その国の音楽文化のあり方まで表現していた。通っていた人は知っての通り、そこに政治性が含まれることもあった。UKに近づいたほうが日本の音楽シーンは絶対に面白くなるというのが彼の信念だったし、ぼくはそれに共感していた。UKの音楽シーンには、それが音楽に生気を与える場として絶えずアンダーグラウンドへのリスペクトがあり、またその根底には批判精神を決して忘れないパンク的なパッションがある。
オルタナティヴな共同体が複数生まれることが真の意味での多様性なるものだろう。飯島さんが移民文化との衝突によって磨かれたUKのダンス・カルチャーと接続したことと下北ZEROのあり方は完璧に合致している。こうした彼の精神は、ZEROやBS0に集まったDJたちにも確実に受け継がれているので、ぼくは決して悲観していない。今朝の静岡新聞の文化欄に飯島さんを讃える記事が載っていたけれど、飯島さん、あなたはそのくらいのことをやっていた。ありがとうとしか言いようがない。
思い出はたくさんあるが、最後にひとつだけ。おそらく2004年だったと思う。いつものようにふらり寄ったら飯島さんがいきなり爆音で音楽をかけた。「これ、むちゃくちゃ格好いい! 買います、なんていうアーティストなんですか」と訊いたら、差し出してきたレコードがワイリーだった。あれがぼくにとってその後の10年がはじまる合図だった。
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