『心というものは、それ自身ひとつの独自の世界なのだ
――地獄を天国に変え、天国を地獄に変えうるものなのだ』
……ミルトン「失楽園」
平凡なパン屋の娘ながら、敬虔な心を見込まれて古代ギリシャの鍛冶神ヘパイストスの神託を受けた少女。かつて彼女は聖戦士としてソウルエッジと戦い、その片割れを打ち砕いた代償として、邪剣の破片を浴びることになった。その後、幸せのうちに結婚し、二児をもうけた彼女であったが、運命が彼女を解放することはなかった。ひとたびソウルエッジと関わりを持った者には、その不吉な影がついて回る……。
ソフィーティアは、自分の胸に鈍い痛みが走るのを感じた。彼女は知らなかった。そこにはソウルエッジの破片が食い込んでいるということを。彼女の身体に刺さった邪剣の欠片はすべて取り除いたはずだった。だが、ただひとつの例外があったのだ。心臓近くに達していたその破片は、下手に動かせばソフィーティアの生命を脅かす恐れがあった。そのためやむなく彼女の体内に残されることになったのだった。
ソウルエッジの欠片は、その後の彼女の人生に暗い影を落とした。夫との間に授かった姉弟。ソフィーティアの身を蝕んでいた邪剣の気は、産まれた子供達へと受け継がれてしまっていたのだ。そして、その体質はさらなる不幸を呼び寄せた。狡猾なる邪剣のしもべが愛娘をさらい、霧の中へと消える。子供たちの幸せを願ったソフィーティアが、ソウルエッジと戦うために家を留守にしていた間の出来事だった。
我が家で起きた悲劇も知らず、邪剣を追っていたソフィーティア。彼女はついにソウルエッジが支配するオストラインスブルクへと辿り着いた。そこで彼女は初めて知ったのだ。愛する娘が、その血に受け継ぐ邪気故にさらわれていたことを。ソウルエッジの力が、かつてないほどに絶大になっていることを。……そして、その影響で、幼い娘は邪剣から発せられる邪気がなくては生きていけぬ身体になってしまったことを……。
「――さあ、どうする? おうちをほったらかしにした悪いお母さん。
信じるも信じないもあなたの自由……よーく考えてから答えてね」
黒いさえずりが、念入りに編まれた呪詛のようにソフィーティアに絡みつく。彼女は哀れな我が子を救い出すため、邪剣を打ち砕こうと走り出した。だがソウルエッジを探す彼女の足は徐々にその速度を落とし、やがて完全に動かなくなった。もしも、今ソウルエッジが失われたら……その邪気が消えてしまったら、あの子の命は……?
どれぐらいの間、そうして立ちつくしていただろう。日は陰り、辺りは暗くなっている。どこからか集まってきた烏の群れが、耳障りな鳴き声をあげる。不安と混乱の中心で、ソウルエッジの呪縛はソフィーティアを捕らえて放さなかった。魔都オストラインスブルクを包む夜が、彼女の心を飲み込んでいく。
彼女がかつて正しいと信じてきた道。ソフィーティアは、みずからその道を踏み外そうとしていた。そう、後戻りはできないのだ。神託を受けた少女はもう、そこにはいなかった。
ソフィーティアは堕ちた聖戦士となり、我が子の命を守るため、魔都オストラインスブルクでソウルエッジの破壊をもくろむ者と戦う運命を選んだ。罪を重ねるたび、彼女の心臓は痛みにきしむ。だが、他に道はないのだ。
禍々しきソウルエッジに縛り付けられるソフィーティア。家族が陽の下で暮らせる日はもう二度と戻って来ないのだろうか……? |