トランプ米大統領は米兵の脳損傷を「頭痛」と表現して批判を浴びた=ロイター
【ワシントン=中村亮】米議会上院は13日、イランに対する大統領の軍事行動権限を制限する決議案を可決した。1月上旬のイラン司令官殺害を正当化する根拠は乏しく、トランプ米大統領が今後も独断による軍事行動を起こしかねないと与党・共和党が懸念したからだ。トランプ氏は上院の弾劾裁判で無罪評決を受けた後、強権的な言動が目立ち、共和党内で警戒する声が出てきた。
決議案は賛成55票、反対45票で可決した。野党・民主党47人(無所属含む)に加えて共和党から8人が賛成に回った。民主党のペロシ下院議長は13日、同様の決議案を月内に採決すると明らかにした。ホワイトハウスは上下両院で可決した場合に拒否権を発動する考えをすでに示している。
決議案は議会承認を経ていないイランへの軍事行動に停止を求める内容だ。米軍は1月、トランプ氏の指示でイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官をイラクで殺害。イランと全面戦争を引き起こしかねないほど緊張が高まり、議会で大統領の戦争権限をめぐる論争が起きていた。
米エール大のオーナ・ハザウェイ教授は「司令官殺害は合衆国憲法にも議会決議にも抵触する」とみる。
合衆国憲法は戦争行為は議会承認が必要だと規定。ハザウェイ氏は議員を全米から緊急招集できなかった1800年代に定着した慣例として、「差し迫った脅威」がある場合に議会承認なしに軍事行動が認められるようになったと説明する。トランプ政権は「差し迫った脅威」を司令官殺害の理由にあげたが、機密情報を共有できる議会指導部にさえその具体的な内容を示していなかった。
オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は2002年に成立したイラクに対する軍事行動を認めた議会決議もあげて殺害を正当化してきた。だが、この決議は当時のブッシュ(子)政権が大量破壊兵器を保有すると主張していたイラクのフセイン政権の脅威を念頭に置いたものだ。ハザウェイ氏は「古い決議であり、イランの脅威に対処することも想定していない」と語る。
説得力を欠く政権の説明は、造反の引き金になった。米メディアによると共和党のスーザン・コリンズ上院議員は13日、記者団に対し「政権をどの政党が握ろうと戦争行為に関する立法府の権限を取り戻す必要がある」と強調した。マイク・リー上院議員は1月、司令官殺害に関する政権の説明について「議員人生で最悪のブリーフィングだった」と激高していた。
共和党内ではウクライナ疑惑をめぐる無罪評決後にトランプ氏の独善的な言動が目立つことを懸念する声が出ている。トランプ氏は11日、連邦検察の見解に反し、ツイッターで元側近の量刑軽減を主張。異例の司法介入ととられかねない事態にバー司法長官は13日、米メディアのインタビューで「ツイートを控えるべきだ」と苦言を呈した。
これについて上院共和党トップのマコネル院内総務は13日のFOXニュースのインタビューで「大統領は司法長官の助言に耳を傾ける必要がある」と語り、バー氏に同調した。弾劾裁判でトランプ氏を徹底擁護した時とは異なる対応だ。
トランプ氏は7日、ウクライナ疑惑について不利な証言をした米国家安全保障会議(NSC)のアレクサンダー・ビンドマン陸軍中佐を解任し、米軍が何らかの処分を下すべきだとの考えを示唆した。一方、下院軍事委員会で共和党トップを務めるマック・ソーンベリー議員は「彼(ビンドマン氏)のキャリアは能力に応じて決定すべきだ」と指摘し、トランプ氏の発言に異を唱えていた。