【ニューヨーク=後藤達也】学生ローンが米国の中高年の重荷になっている。2019年末の残高は1兆5080億ドル(約165兆円)と過去最高を更新し、残高全体に占める40歳以上の比率は42%と過半に迫る。1人あたりの借金は平均約3万ドルで、就職しても返しきれないまま年を重ね、破産や離婚が相次ぐ。医療保険制度と並んで米国の大きな社会問題となっており、11月の大統領選で野党・民主党の左派候補は債務免除を訴える。
「学生ローンを帳消しにする」。左派のバーニー・サンダース上院議員は5日、民主党の指名争いの初戦アイオワ州党員集会で強調した。
民主候補は目玉政策として、学生ローンへの支援策を打ち出す。左派のエリザベス・ウォーレン上院議員は債務減免を主張し、中道派の前インディアナ州サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ氏もローン残高に上限を設ける考えを示す。
ニューヨーク連邦準備銀行によると、米学生ローンの残高は19年に前年比3.5%増えた。10年前の2倍強と右肩上がりだ。多くは連邦政府からの借り入れで、自動車ローン(1.33兆ドル)やクレジットカードローン(0.93兆ドル)を上回る。
ローンを抱える層は30~50代の比率が増えている。5年前と比べ、30代が28%増の4891億ドル、40代が54%増の3202億ドル、50代は55%増の2108億ドル。1981~96年生まれのミレニアル世代の一部は大学卒業と金融危機が重なり、高い給与を得られる職に就けず返済が円滑に進んでいない。一方、10~20代は2%増の3762億ドルと横ばいだった。
1人あたりのローン残高は3万ドル程度で、連邦政府の学生ローンは卒業後の金利が7%程度。90日以上延滞した比率は11%と、カードローンや自動車ローンを大きく上回る。利子が積もり、年数をかけても借金残高がなかなか減らない構図だ。
米カレッジボードがまとめた19年度の私大学費(授業料と諸費用の合計)は年3万6880ドルと20年前より55%上昇した。著名大学では年5万ドルを上回ることもざらだ。生活費も含めると卒業までに20万ドル以上、大学院に進みさらに膨らむことも多い。
米国では大卒の学位がないと就職の門が狭まるため、低所得家庭はローンに頼らざるを得ない。だが、膨大なローンを抱え大学を中退する例も相次ぐ。一方で教育費を惜しまない高所得層は、子供が進学しやすく所得も高くなる傾向にある。格差の固定化につながっているとの指摘もある。
学生ローンが大統領選の争点になっているのは、有権者の世代交代も背景にある。ミレニアル世代が最大の人口層だったベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)を今年逆転し、選挙への影響力を強めている。
一方、トランプ米大統領は学生ローンの免除とは距離を置く。「大きな政府」を嫌う保守派支持層に配慮し、教育への歳出も抑える考えだ。教育や医療政策では保守とリベラルで距離が大きい。