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 サイバー犯罪者の低年齢化が進んでいる。警察庁の集計によると、不正アクセス禁止法違反の検挙者で最も多い世代が10代だ。最近は毎年、全体の3割程度を占めるまでになっている。

 子どもたちを検挙する“サイバー捜査官”たちの苦悩は深い。親に泣きつかれ、逮捕現場は修羅場となる。

 「正直言って、未成年をパクるのはこっちもつらい」

 記者が出会ったある警察OBはそう言った。彼は1992年に全国で最初にサイバー犯罪捜査に乗り出した先駆者だ。3年前に退官するまで、四半世紀にわたってサイバー犯罪者が低年齢化していく様子を肌で感じてきた。

長年にわたりサイバー犯罪捜査を手がけた警察OBは、多数の未成年ハッカーを検挙した(写真はイメージ、写真:PIXTA)

 そのキャリアは日本のサイバー犯罪史と重なる。捜査を始めた90年代前半は、まだインターネットの普及も進んでいなかったという。

 「当初はパソコン通信を使った犯罪を取り締まっていました。最初に扱ったのは裏ビデオの密売事件です。犯人はパソコン通信で注文を取り、商品を郵送していました。裏ビデオの密売事件が日本初となるサイバー犯罪の検挙事例かって? そう、間違いありません」

 2000年までは容疑者のほぼ全員が20代で、未成年を検挙した記憶は1度ぐらいしかない。状況が変わるのは01年以降だ。この時期、ネットを使った密売、著作権侵害、犯行予告など増え続けるサイバー犯罪に対処すべく、全国の各都道府県警でサイバー犯罪事件を専門に扱う組織が次々と立ち上がる。同時に容疑者の年齢層は従来の20代に加えて、下限は10代後半に拡大し、未成年の摘発が本格的に始まる。

 警察OBの脳裏には当時のある摘発現場での出来事が焼き付いている。

 「サイバー犯罪対策部門のトップを殺す」とネットで予告した未成年を検挙しに行ったときのことだ。

 「警察だ」

 そう言って警察手帳を突きつけても、目の前の子どもは無言。

 どうしたのかな?

 そう思っていると相手は突然、直立不動のまま後ろに卒倒した。

 「大丈夫か! どうしたんや!」

 間もなく意識を取り戻した子どもは意外なことを口にした。

 「もううれしくて。サインください」

 歓喜のあまり気を失ったようだった。よく聞くと、サイバー捜査官に会いたいがためにネットで殺人予告を書き込んだという。

 もう本当にバカじゃないか──。あきれて言葉が続かなかったという。

 子どもたちとの“苦闘”は11年以降さらにひどくなっていく。