バレンタインデーが近づくと毎年思い出して、いまだに恥ずかしい気持ちになることがあります。
アメリカ人パートナーのベンと付き合いだしてまだ間もない頃の話です。
それまで長い間、バレンタインデーは僕にとっては何の関係もない日でした。
クラスメイトや会社の同僚の女性からお情けで義理チョコをもらうことはありましたが、それを1ヶ月後に忘れずにお返ししないと悪く思われてしまうというのは、正直、男にとっては鬼システムです。バレンタインデーはモテない男には全く不要な日。僕の場合、万が一モテても(いやモテないけど)、女性とは恋愛できないし。
だからその日も、バレンタインなんて自分に関係ないものは、別に何の意識もしていませんでした。が。
「冬一郎ちゃん、待った?」
例のごとく時間にルーズなベンが1時間遅れで現れた時、僕がやれやれと思いながら本から顔を上げると、そこには一瞬誰?と戸惑うほど思いっきりドレスアップしたベンが花束持って立っていました。
「Happy Valentine's Day! 遅刻してごめんね!」
「遅刻はいいけど…」僕は面食らってどもりながら聞きました。「何。その格好。どしたの」
ベンはえへへ、と嬉しそうに笑いました。
「どう思う?似合うかな、いつもと全然違うだろう?マリちゃんに監修してもらったんだ!」
マリさんはベンの親友の1人で、イタリア出身です。普段のベンはいつも、だぶっとした大きめのトレーナーにジーンズという、アメリカ人らしい気楽な格好をしていますが、マリさんの方はいつ見ても襟のついたドレスシャツを着ているか、そうでなくても何となく仕立ての良いものを着ています。イタリアの人は食べ物にもこだわるけど、着るものにもちゃんと注意を払うんだなあと僕はいつも感心していました。ちなみに僕は着るものはぜーんぶユニクロです。考えるのも面倒くさいからいつもほぼ同じ格好だし、古くなっても買い替えないので、学生の時のコートを未だに着ています。ベンは僕を見て、
「冬一郎ちゃんは普段通りだね」とコメントしました。
「ごめん…」思わず謝りながら、あれ、なんで僕、謝らないといけないんだろう、と思いました。
「…あのさ、ベン。きみ、なんで今日、そんなに気合い入れてきたの?」
「なに言ってんだよー!バレンタインデーだよ?」ベンが答えました。「今日デートするって言ったら、気合入れるに決まってるじゃあないか!一年で1番ロマンチックな恋人たちの日なんだよ?!」
「ええっ。そう…なの?」
続きます。
デート時代の思い出話シリーズクリスマス編↓
ツイッターで更新通知してます。フォローしていただけると嬉しいです。