今回はターリ・シャーロット【著】『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響の科学』について紹介させてもらいます。
著者:ターリ・シャーロットとは?
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授(認知神経科学)、同大学「アフェクティブ・ブレイン・ラボ」所長
意思決定、感情、影響の研究に関する論文を、ネイチャー、サイエンス、ネイチャー・ニューロサイエンス、サイコロジカル・サイエンスなど多数の学術誌に発表。
神経科学者になる前は金融業界で数年間働き、イスラエル空軍で兵役も務めた人物。
現在は、夫と子どもたちとともにロンドンとボストンを行き来する生活を送っている。主な著作に『脳は楽観的に考える』などがある。
目次
はじめにー馬用の巨大注射針
1事実で人を説得できるか?(事前の信念)
データでは力不足/賛成意見しか見えない/グーグルはいつもあなたの味方/賢い人ほど情報を歪める?/なぜこうなってしまったのか/投資と信念/新しい種をまこう
2ルナティックな計画を承認させるには?(感情)
同期する脳/感情という名の指揮者/カップリング/気持ちを一つに/インターネットの扁桃体/あなたの心は唯一無二?
3快楽で動かし、恐怖で凍りつかせる(インセンティブ)
手洗いと電光掲示板/二人の主権者/接近の法則と回避の法則/進むべきか、止まるべきか/期待が行動を導く/「死んだふり」/いますぐちょうだい!/未来はあてにならない/脳の自動早送り機能
4権限を与えて人を動かす(主体性)
恐怖vs.事実/コントロールを奪われて/納税はなぜ苦痛なのか?/「選ぶこと」を選ぶ/選択の代価/健康で幸福な老人/自分で刈った芝生は青い
5相手が本当に知りたがっていること(好奇心)
ギャップを埋める/情報は気持ちいい!/良い知らせ、悪い知らせ/知らぬが仏/頭の中の巨大計算機/知らずにいることの代償/エゴサーチが怖い
6ストレスは判断にどんな影響を与えるか?(心の状態)
プレッシャーが招く悲観主義/弱小チームはなぜ安全策を選ぶのか/リスクの冒し方/扁桃体を手なづける/晴れの日とギャンブル
7赤ちゃんはスマホがお好き(他人 その1)
生まれた日から始まる社会的学習/シンク・ディファレント?/メルローを注文する奴がいたら俺は帰る!/アマゾンレビューを操作する/他人の意見と記憶の改変/最初に飛び込むのは誰?/心の理論
8「みんなの意見」は本当に正しい?(他人 その2)
多ければ正しくなる?/人間体温計/わが道を行くことの難しさ/個人の中の賢い群衆/雪だるま式に膨らむバイアス/平等バイアスにご用心/びっくりするほど人気の票
9影響力の未来
二つの脳をつなぐワイヤ/私の思いがあなたを動かす/私は私の脳である
謝辞
訳者あとがき/本書について
付録/註/索引
なぜ他人は意見を変えない?
「他人の考えや行動を変えられる」と多くの人が信じている方法は、じつは間違っていることが多い。他人を変える本質には相手の脳の働きに寄り添う必要がある。
具体的な数字やデータを示しても意味がない。明晰な論理で説いても響かない。そんなとき、私たちはきっとこう思ってしまうのではないか。どうして、事実はなぜ人の意見を変えられないのか?
実際問題、日々の生活でそんな思いを抱いてしまう場面は少なくない。
失敗例がすでにいくつもあるのに、それでもまだ無理筋を通そうとする社内のプレゼンター。
また不思議なことに、たとえ高学歴の人であっても、「事実に説得されない」という点ではどうやらほかの人と変わらないようだ。
専門家1人に対し民が10人いれば意見をねじ曲げられます。
本書は、冒頭の問いを切り口としながら、人が他人に対して及ぼす「影響力」についても考えられる。
心理学と神経科学の知見を織り交ぜつつ、著者は早々に厳しい診断を下す。
多くの人が実践しているけど全く効果のない方法だったり、こうすれば他人の考えや行動を変えることができると信じている方法が、実は間違っていたということありませんか?
数字や統計は真実を明らかにするうえで必要な素晴らしい道具だが、人の信念を変えるには不十分だし、行動を促す力はほぼ皆無と言っていい...。
では、どうして数字や論理はそれほど無力なんでしょうか?その答えは、わたしたちが「事前の信念」バイアス(偏見、先入観)を持っていることと関係しています。つまり、バイアスが邪魔をして、わたしたちは事実を受け入れがたくなってしまいます。
チャールズ・ロードら3人が行った実験を紹介しよう。
心理学者は、アメリカの大学生たちにふたつの研究レポートを示した。ひとつは「死刑の有効性に関する証拠」で、もうひとつは「死刑の効果のなさに関する証拠」であったが、じつはそのどちらもロードらがでっちあげたものであった。では、大学生たちはそれらの「証拠」をどう評価し、それに応じて自分の考えをどう変えていったのだろう。
実験の結果はじつに印象的である。もともと死刑制度に賛成していた学生は、「死刑の有効性に関する証拠」を高く評価し、死刑賛成という自分の信念をさらに強固なものにしていった。
反対に、「死刑の効果のなさに関する証拠」は説得力のないものだと切り捨て、それに応じて自分の考えを変えたりはしなかった模様。
一方の心理傾向
もともと死刑制度に反対していた学生も同様である。もうおわかりだろう。わたしたちには「賛成意見しか見えない」という強い心理的傾向(確証バイアス)があるのだ。
それだけではない。わたしたちには「ブーメラン効果」と呼ばれる心理的傾向も備わっている。自分の考えに反する証拠が出てくると、まったく新しい論点をこしらえて、かえって自分の考えに強く固執するようになるという傾向がそれである。しかも、今日の社会ではさまざまな情報をいともたやすく入手することができる。そこでわたしたちは、自分に都合のいい「証拠」を新たに見つけ出しては、自分の考えをより強化していってしまうのである。
そのような事情があるゆえ、「悲しいかな、事実や論理は人の意見を変える最強のツールではない」。そしてそうであるのに、事実ばかりで人を説得しようとすると、事実の影響力はさらに低下してしまう。著者はそう指摘。
悪い知らせの時に人は動かない
何か重要なことを伝えようとしたとき、わたしたちは訳もなく相手もそれを知りたがっていると考えがちだ。実際に相手が知りたいと感じるのは、その情報を得ることによって知識のギャップを埋めることができ、不確定さが軽減する場合に限られる。
わたしたちは情報それ自体を報酬として捉える。情報が得られそうなときに脳内でドーパミンが流れるのも、事前の知識が良い決断をするのに役立つことを、脳が知っているからだ。しかも悪い知らせよりも良い知らせを聞きたいという特性があるため、わたしたちは心地良い信念を形成してくれる情報を喜び、不快な考え方をもたらす情報を回避しようとする。
だが特定の情報を回避してしまうことで、被害が拡大することもある。たとえばHIV感染の有無について、無料で検査が実施できる場合でも、多くの人たちが拒否するという調査がある。検査結果を知らなければ、「自分は健康だ」という信念を持ち続けられるからである。
私たちは現実を逃避したがります。「シャーデンフロイデ」(他人の不幸は蜜の味)と呼ばれる快楽を得る時がある。他人の不幸は好きであるが、自分の不幸は嫌い。
「悪い知らせの時に人は動かない」イコール自分にとって不利益な情報は動かないと解釈した方がよろしいでしょう。
ポジティブしか動かない?
人はほかの条件がすべて同じならば、ポジティブな感情を喚起する情報を求める生き物だ。逆にネガティブな知らせは、それがほぼ確実になるとわからない限り、無視され続ける。リーマンショックのように、事実が明らかに誤った方向に進み、ほんのわずかな希望すら持てない状態になってはじめて、ようやく被害を見極められるようになるのだ。
現代社会はストレスにさらされがちだ。自分を追い詰めるほどの強いものから、満員電車で疲れを感じる程度のものまで、ストレスの程度も種類もさまざまである。自身にとって脅威となるものにさらされると、その反応としてストレスホルモンが生じる。心拍数の増加、息切れなどがおき、緊急性の低い免疫系、消化器系、生殖器系の機能が落ちる。
ストレス下では、ネガティブな情報を取り入れる傾向が強まることがわかっている。そうなると危険感知に集中するようになり、うまくいかない可能性を考え始めてしまう。この「ダメかもしれない」という恐怖を手なづけられるようになると、恐怖感情を処理する扁桃体の活動が低下し、集中力を高める前頭葉が活発化することも知られている。
他人の意見の価値
多数決に従うつもりはなくても、大多数の人が好んでいる解決策は確からしく見える。ですが、集団の意見が正しくなるためには、ある条件が必要となる。
それは集団の個々人が、独立性を保っていることである。それぞれが話し合ったり、誰かの意見を先に聞いたりする前に、各人から集計した結果であれば、その平均値はおよそ正しい答えに近くなる。ただし社会と人間は密接に関わっているので、独立した意見を個別に聞き出すことは困難極まりない。
そもそも人には、大きく2つのバイアスがあるのです。まず私たちは2つの変数を与えられると、そこに正の相関関係を生み出すようにできている。。しかも関わる人が多くなればなるほど、雪だるま式にこのバイアスが強まっていく。そこで見いだされた関係性が「偽り」だった場合は危険。
もうひとつは、「平等バイアス」と呼ばれるものである。これは各個人の信頼性や専門技術を無視し、全員の意見を平等に扱うという戦略、つまり人気のある方を選んでしまうような現象を指している。
要は「数の力」で流行ってるから乗っかる事です。人は善悪で判断しがちで、たとえ間違った常識でもみんながそうなら善であり、みんながしてないイコール悪になる。
このバイアスが働くと、インターネットのような情報の洪水のなかで正しいものを見つけるのは、ますます困難になるだろう。
まとめ的なもの
本書で書かれたテクニックを使ったとしても他人を説得することは簡単な事ではありません。しかし、「人を説得する事は簡単ではない」と知っておくだけでも無闇に悩む事はありません。
本書では脳にまつわる非常に興味深い実験がほかにも紹介されている。
そのなかには、普段自分が何気なくとっている行動を根本から疑いたくなるようなものも含まれていました。
常識と思われる事が実は科学の世界では間違っていたりするので、間違った常識に囚われて人間関係「オワタ」状態にならないようにしましょう。
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