公的統計データなどを基に語られる“事実”はうのみにしてよいのか? 一般に“常識”と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。
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国連の気候行動サミットのため、2019年9月にニューヨークを訪問した小泉進次郎環境大臣が「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきです」と発言したところ、主に日本国内で論議を呼びました。
発言の是非はともかくとして、小泉環境大臣のセクシー発言を受けて、19年10月4日に立憲民主党の熊谷裕人参議院議員が以下の質問主意書を提出したのは皆さんご存じでしょうか。
少なくとも直近五年間において、国務大臣の公式な記者会見のみならず、そのまま報道することを前提としたいわゆるオンの会見で、国務大臣が「セクシー」という単語を用いて日本政府の政策を評価もしくは形容した事例はないと承知しているが、政府の見解如何。
第200回国会質問第六号質問主意書より抜粋
国会法第74条の規定により、国会議員は政府の見解を質す、あるいは情報提供を求める質問ができます。この質問文を「質問主意書」と呼びます。
議員が質問をしたいとき、まず衆参議長に対して質問主意書を提出します。衆参議長から承認を受けた質問主意書は、内閣に送られます。内閣は(土日含めて)7日以内に、答弁書によって回答しなければいけません。さらに全ての質問主意書への答弁書は、閣議決定する義務を負っています。質問主意書とは、それぐらい重要な書類なのです。
さらに細かいプロセスはNHKが「霞が関の嫌われ者 “質問主意書”って何?」と題して取材しているので、よろしければご覧ください。
会議(本会議、委員会など)の場での質疑時間が不足しがちな少数政党や無所属の議員は、質問主意書で国会審議を補っている側面もあり、質問主意書は政治手段として有用だと評価されています。
さて、熊谷裕人参院議員の質問主意書に対して、内閣は以下の回答を示しました。
お尋ねの「公式な記者会見」及び「オンの会見」については、その具体的に意味するところが必ずしも明らかではないため、網羅的にお答えすることは困難であるが、関係省庁において調査を行った範囲では、直近五年間において国務大臣が「セクシー」という単語を用いて政府の政策を評価又は形容した事例は見当たらない。
第200回国会内閣参質二〇〇第六号答弁書より抜粋
私のような一般人からすると、聞く方も、答える方も「何をやってんの」と突っ込まざるを得ないやり取りです。国民の税金を使って何をやっているでしょうか。
質問主意書の乱発は長らく問題視されています。閣議決定を行う重要な文書にもかかわらず、関係省庁との協議、内閣法制局による審査など膨大な負担を必要とする割に、7日以内の閣議決定という短い時間制限がかけられています。その結果として「答弁品質の低下」「恒常的な残業の発生」が指摘されています。これはブラック企業と同じ構図です。
コメント15件
foo-bow
回答を提出するのに閣議決定が必要なのを、恥ずかしながら初めて知りました。「セクシー」発言の件にしても、「反社会的勢力」の件にしても、なぜそんなに下らない内容に閣議決定を乱発しているのか、確かに制度的に無駄、かつ効果に大いに疑問だと感じます。
racking my brain
このコメントは投稿者本人によって削除されました
racking my brain
不誠実な例として挙げられている桜を見る会に関する答弁書では、「明らかではない」「仮定の質問で」「お答えすることは困難」などの表現はありませんが、その後の分析では、そうした表現の入ったもののみを不誠実な答弁としてカウントしています。
(正確
には、桜を見る会の答弁書については、「不誠実」ではなく「おざなり」という表現が使われていますが、「思わず、『誠意って何かね?』と言いたくなります」という文章もあり、「誠意がない」つまり「不誠実」な例として挙げていることは明らかです。)
...続きを読むもちろん、すべての答弁書を読み込んで不誠実かどうかを分類することは困難ですから、「そうした表現の入ったものを(とりあえず)不誠実と考えて分析してみる」という方法は「アリ」だとは思いますが、その場合は、そうした方法と整合性のとれた例を挙げるとともに、そのように割り切ってデータをとった、つまり、あまり厳密な分析ではない、という断りを入れるべきだと思います。
(冒頭のセクシー発言に関する答弁書は、そうした表現が入っていますが、私は、この答弁書を不誠実だとは思いません。)
また、
>確かに第2次安倍内閣は比率が高いですが、とはいえそれ以外の政権も特別低いとも言えません。
とあります。
確かに、それ以外の政権も特別低くはないと言えるのかもしれませんが、ここで問題なのは、絶対水準ではなく比較なのではないでしょうか。安倍政権で10ポイント以上高くなっていることをスルーするのは、数字を扱う者として、それこそ不誠実だと思います。
さらに、この文章に続いて、
>不誠実なのは、安倍政権ではなく官僚なのでしょう。
とありますが、これは論理的にはおかしな結論です。正しい結論である可能性はもちろんありますが、「官僚」を「(安倍政権も含めた)歴代政権」に言い換える方が正しいのかもしれません。このデータだけでは、何も言えないと思います。
残念ながら、全体として、実態をきちんと見ようとはせず、机上で出てきた数字のみを見て状況を解釈しようとしているように見えました。
昔の日経が好き
今回ほぼバランス良かったです。面白かったですよ、見たことないものこんなデータ。十分笑えました。ご苦労様です(”RとP”じゃなくて片方で良かったと思いますが)。
以下Agreeです。
>(2)質問の回答にかかるコストは無尽蔵でよいのか、(3)
主意書自体の品質確認は不要でいいのか、について国会で議論されるべきだと考えます。
...続きを読む>「痛いところを突いてきた質問主意書を提出した政治家ランキング」「全く無意味な質問主意書を提出した政治家ランキング」を作るのはどうでしょう。
ただし、”不誠実回答”の抽出に懸念はあります。上げておられる方もいらっしゃいますが、単に「該当wordsが入っているものを”不誠実回答”と呼びます」でよかった。
これ以上突き詰めようとすると、不誠実の定義とそれとのマッチング度数検出code(教科書データとlearning等)が必要になって曖昧度合いがますます進んで困難なのはわかります。またそれに対比した無意味な質問主義書のほうもあればよかったのだが、こちらはwordingの選出すら難しそうですね。ああ、そうじゃないのか。不誠実回答=答えられない質問+無意味な質問、と捉えたわけですか(それにしては議長が突き返しの下りが変になるが)。
ご提案の官僚アンケートはその教科書データとして欲しかったのでしょうが、官邸指示率がばれてしまうのできっとダメです。w
tommy
こうしてどんどん国が没落していくんだというのがわかりますね。意義ある議論は誰かが損をするからしない。そのための空回り。与党も野党もわかってる茶番。こういう無駄は減らさないと。質問主意書の件数だけでなく、議員の業務評価をする仕組みが欲しいです
よね。
...続きを読むでもまとめた結果だけでは政党や個人に有能無能の偏りがでるので(あたりまえだけど)、議会における議事や活動の記録をビックデータとして公開し、自由に分析して自由に比較できるようにしてみると、選挙も変わるかも。
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