新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2月12日現在、豪華客船が洋上をさまよっている。オランダ船籍のウエステルダム号だ。
発熱やせきの症状があった乗客38人が2月4日に確認されたため、新型コロナウイルスの感染者が乗船している恐れがあるという懸念から台湾、フィリピン、日本、グアム、タイが入港を拒否。行き場を失った。
運航会社は公式サイトで「この船にコロナウイルスの症例があると信じる理由はない」と憶測の打ち消しに努めている、現在、入港を許可している国はない。
このままでは約2200人を乗せたまま、しばらく洋上をさまようことになりかねない。しかし、新型コロナウイルスの感染者がいた場合には、横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号のように大規模な検疫が必要になるのは確実。各国は入港に二の足を踏んでいる。これまでの経緯をまとめた。
【UPDATE】共同通信によると、カンボジア政府高官は12日、ウエステルダム号の寄港を許可すると明らかにした。南部シアヌークビル港に13日午前、到着する見通しだ。(2020/02/12 23:25)
■「洋上の美術館」ともいわれる優雅な空間
ウエステルダム号は、全長285メートル、総トン数8万2000トンの豪華客船だ。乗客の定員は1964人。乗員の定員は812人だ。
アメリカに本社を置くクルーズ会社「ホーランドアメリカライン」が、2004年に就航した。同社が運航するウエステルダム号の同型船は計4隻で、オランダ語で東西南北の名前がつけられている。ウエステルダムは「西」を意味する。
「るるぶ クルーズのすべて2019~2020」(JTBパブリッシング)によると、ウエステルダム号は「洋上の美術館」ともいわれる優雅な空間が特色だ。格調高いクラシカルな内装が印象的で、2017年にスイートやパブリックスペースの大改装を行ったほか、エンターテイメントを充実させたという。
■フィリピン、台湾、日本で入港できず。タイの判断は……
運航会社のリリースによると2月1日に香港を出発した。フィリピン、台湾、日本を周遊する14日間のツアーを開催する予定だった。
産経ニュースによると、フィリピンのマニラで入港を拒否されたため、予定を1日早めて4日に台湾南部・高雄に寄港した。台湾の衛生当局は乗客38人に発熱やせきの症状がみられたが、中国本土への旅行歴がないことから一旦は下船を許可した。
だが、衛生当局は同日夜になって一転して38人の下船を禁止した。同船は5日午後に高雄を出た。台湾北部の基隆に寄港する予定だったが、入港を認められなかったため、日本に向かった。
八重山毎日新聞によると、2月7日に沖縄県石垣島の石垣港に入る予定だった。が、安倍首相が6日、「船舶内で新型コロナウイルスの感染症を発症した恐れのある者が確認された」として、入国管理法に基づき外国人乗客らの入国を認めないと表明。国内への入港は中止された。
さらに同日、アメリカ領のグアム島を管轄するグアム政府も、国務省からウエステルダム号の入港を受け入れるよう要請を受けたが「大規模な検疫は不可能」として拒否した。
運航会社は10日、タイ中部のレムチャバン港で13日に乗客を降ろす意向を表明した。
ようやく寄港先が見つかったかに思えたが、タイのプラユット首相は11日、「入港は許可しないが、タイは乗船している人々を助ける用意がある」との考えを示した。タイ政府は燃料、薬、食料の提供など人道的支援をする意向だ。
ウエステルダム号に夫妻で乗船しているカナダ在住のスティーブン・ハンセンさんは朝日新聞社のメールでの取材に対して、「次に船がどこに向かうのかは全く分からず、乗客の不安はいよいよ日ごとに高まっている。一体いつになったら帰れるのか」と答えている。
ウエステルダム号の乗客は1455人、乗員802人。NHKニュースによると、そのうち乗客4人、乗員1人の計5人が日本人だという。
■2月12日現在の状況
船舶の位置情報を公開するサイト「マリントラフィック」のデータによると、ウエステルダム号は12日午後現在、タイやカンボジアに近いタイランド湾の海上にいる模様だ。