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近接効果が発生する理由

更新日: 2020年2月12日 FAQ #5679

質問:

近接効果が発生するのはなぜですか。

回答:

近接効果


近接効果とは、簡単に言えば、指向性マイクロホンを音源に近づけるにつれて低域が強調される現象のことです。この近接効果が発生する理由は、以下のように説明できます。

 

圧力差

まず、指向性マイクロホンの動作原理を理解する必要があります。指向性マイクロホンは、プレッシャーグラディエント(圧力勾配)マイクロホンとも呼ばれ、ダイヤフラムの前面と背面の間に生じる圧力差に応じて出力信号を得ます。ダイヤフラムの軸上にある音源からの音波は、ダイヤフラムの背面に届くまでさらに長い距離を移動しなければなりません(図1)。つまり、瞬間的に見ると、音波はマイクロホンの前面よりも若干遅れて背面に到達することになります。

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一般に、マイクロホンの前面から背面までの距離は約8.5 mmです。つまり、ダイヤフラムの背面に入射する音波は8.5 mm長く移動するため、前面の音波よりも遅れます。図2~4は、同じ8.5 mmの距離でも、周波数が異なると圧力変化も異なることを示しています(緑色の線)。低域(図2)では、前面と背面の圧力差(赤色の線)が中域(図3)または高域(図4)に比べて小さいことが分かります。

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図5は、赤色の線を全てつのグラフにまとめたものです。これを見ると、ダイヤフラムの周波数応答が6 dB/octの割合で増加することが分かります。図5の緑色の線は、指向性ダイヤフラムの実際の応答です。これを応答の勾配成分と呼びます。当然ですが、周波数応答が6 dB/octの割合で増加するマイクロホンでは役に立ちません。そこで、これを補正するために、マイクロホンのダイヤフラムを制動して6 dB/octの減少を作り出します。これら2つの要因の組み合わせにより、全体的にフラットな周波数応答が得られます(図6)。

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※ 図5【縦軸】圧力差 【横軸】周波数 
※ 図6 【縦軸】圧力差【横軸】周波数

 

逆二乗の法則

逆二乗の法則は、音源から遠ざかるにつれて音が弱くなる理由を説明するのに役立ちます。音源から音波が拡散すると、元の音声からのエネルギーは球状に広がり続けます。エネルギー保存則に従わなければならないため、球上の各点のエネルギーは、実際には球が大きくなるにつれて小さくなります。図7を見ると、音源から1 mの位置にある青色の正方形は、一定量のエネルギーを含んでいます。音源から2 m離れた位置では、同じ量のエネルギーが緑色の正方形全体に広がらなければなりません。

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青色の正方形の位置にマイクロホンを設置した場合、音源からマイクロホンの前面までの距離は1 mです。音源からマイクロホンの背面までの距離は1.0085 mです。仮に、音源の出力を1 Wとしましょう。マイクロホンの前面と背面の圧力差を計算すると、青色の正方形では0.047 Pa、2 mの位置(緑色の正方形)では0.012 Paとなります。したがって、マイクロホンが音源に近づくにつれて、この逆二乗成分が大きくなると考えられます。また、逆二乗成分は全ての周波数において同等です。

  

 図8は、マイクロホンが音源から遠く離れている場合の逆二乗成分と勾配成分(図5より)を示しています。この距離では、勾配成分との圧力差は、逆二乗成分との圧力差より大きくなります。また、図8は制動されていないダイヤフラムのグラフであることに注意してください。ダイヤフラムを制動するとグラフの勾配が変化し、図9のようになります。
 
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マイクロホンを音源に近づけるにつれて、逆二乗成分が大きくなり(図7から分かるとおり)、勾配成分を上回ります。図10および11は、マイクロホンを音源にやや近づけた場合のグラフです(図10は制動なし、図11は制動あり)。

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マイクロホンがこの距離まで近づくと、近接効果が作用し始めることが分かります。さらに音源に近づけていくと逆二乗成分が増加し続け、図12(制動なし)および図13(制動あり)のようになります。

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図13は、図2の制動なしの応答に減衰係数を加えたグラフです。マイクロホンの全体応答を示す緑色の線を見ると、近接効果が現れていることが分かります。