シスコのネットワーク機器に見つかった脆弱性は、多くの企業に深刻な影響を及ぼしかねない

企業に広く普及しているシスコのネットワーク機器に、このほど脆弱性が見つかった。一連の脆弱性を悪用することで、企業ネットワークの奥深くに侵入できる可能性があるという。すでにシスコは修正プログラムを配布しているが、その影響は少なくない。

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オフィスの電話やルーターは、長年にわたり非常に深刻な脆弱性を抱え、幾度となく話題にされてきた。そして今回、またもや新たな脆弱性が加わった。

研究者らによると、卓上電話やウェブカメラ、ネットワークスイッチなど、このほどシスコのエンタープライズ向け製品で発見された一連の欠陥を悪用すると、企業ネットワークの奥深くに侵入できる可能性があるという。シスコはネットワーク機器市場をほぼ独占しているため、バグの影響は数百万デヴァイスにも及ぶ。

複数のシスコ製デヴァイスをまとめて攻撃可能に

どのソフトウェアにも欠陥はあるが、組み込みデヴァイスの場合は問題が特に深刻になる。スパイ行為に悪用される恐れがあるうえ、修正作業が複雑であるからだ。

セキュリティ企業のArmisが発見した今回の脆弱性には、システム管理者がネットワークの各所を分割する「セグメンテーション」が突破され、侵入範囲が広がるという問題がある。攻撃者は、内部ネットワークでデータを中継するシスコ製ネットワークスイッチのうち脆弱性のあるものを標的に、暗号化されていない内部情報を大量に傍受し、標的とするシステムの各部を動き回ることができる。

さらに攻撃者は、Armisがこのほど開示した別の脆弱性を用いて、複数のシスコ製デヴァイスをまとめて攻撃することも可能だ。例えば、すべての卓上電話やすべてのウェブカメラを一気に攻撃するといった具合である。これによりデヴァイスは機能を停止するか、もしくは標的とされた組織内の“スパイ”に仕立て上げられてしまう。

「ネットワークのセグメンテーションは、IoTデヴァイスのセキュリティを確保するための重要な手段です」と、Armisの研究担当ヴァイスプレジデントのベン・セリは言う。「それでも、ときに脆弱性が見つかります。エンタープライズ向けデヴァイスが世界中で標的になっていることは周知の事実です。こうしたタイプの脆弱性があると、持続的標的型攻撃(APT攻撃)のグループなどにとって非常に強力なツールになります」

一瞬で大量のデヴァイスを標的に

脆弱性が発見されたシスコ検出プロトコル(CDP)と呼ばれるプロトコルは、プライヴェートネットワーク内に配置されたシスコ製品が互いの“素性”をやり取りできるようにする。CDPは、ネットワークデヴァイス間で基礎的なデータリンクを確立する「レイヤー2」で動作する。どのデヴァイスもブロードキャストによる何らかの検出プロトコルを用いているが、そのひとつであるCDPはシスコの固有の技術だ。

シスコ製品を区別するためにCDPを有効にすると、インフラ構築におけるメリットがある反面、侵入に成功した攻撃者に使われればシスコ製品を容易に見つけられてしまうと、セリは指摘する。さらに、すべてのシスコ製品がCDPを利用していることから、ひとつの脆弱性を悪用するだけで、一瞬で大量のデヴァイスを同時かつ自動的に標的にすることができる。

しかも、ネットワークスイッチのような重要なデヴァイスを乗っ取り、それを踏み台にして移動することまで可能になる。どのレイヤー2プロトコルにも潜在的なバグは存在している。だが、CDPの脆弱性は単に、いたることろに存在するシスコ製品に対する、特に効率的な攻撃経路を提供しているにすぎない。

Armisから8月末に調査結果の開示を受けたシスコは、5つの脆弱性すべてに対応するパッチをリリースしている。5つもある理由は、シスコが製品ごとにCDPの実装方法を多少変えているからだ。Armisは、開示プロセスを通して発見したすべての関連するバグを、シスコと共同で修正している。

「わたしたちは2月5日、複数のシスコ製品について、シスコ検出プロトコルの実装における脆弱性に加え、ソフトウェアの修正情報と対応策を開示しました」と、シスコの広報担当者は説明している。「記載された脆弱性に関する悪意ある使用は認識していません」

注意を呼びかけてきた研究者たち

攻撃者がバグを悪用するには、まず標的とするネットワークに足がかりが必要になる。しかし、ひとたび足がかりができれば、瞬く間に侵入範囲を拡大し、シスコ製のデヴァイスに次々と侵入し、システム内部の奥深くにまで到達する。スイッチやルーターを制御下に置いた攻撃者は、ファイルやコミュニケーションなど、暗号化されていないネットワークデータを傍受することも、ユーザーとデヴァイスの認証を管理する「Active Directory」にアクセスすることも可能になる。

「それでも中継機器ごとに突破する必要があるので、ハッカーはネットワークごとに基本的な攻撃ベクトル(侵入経路)が必要です」と、IoTセキュリティ企業のRed Balloonの創業者である崔昂(ツィ・アン)は語る。崔はこれまでに、シスコ製品の多くの脆弱性を発見し、開示してきた。

「しかし、どの中継機器も同じ脆弱性を抱えていることから、ネットワーク内のすべてのスイッチ、ファイアウォール、ルーターがその影響を受ける可能性があります。大量のデヴァイスを制御下に置く必要がありますが、それさえできればネットワークを隅々まで乗っ取ったも同然です」

また崔によると、研究者らは過去数十年にわたり、CDPの脆弱性が悪用される前にシスコが修正したり、悪用を最小限に抑えられるように脆弱性をいち早く発見したりするよう、注意を呼びかけてきたという。

そうしたエンタープライズ向けIoTのバグの悪用に関する懸念は、単に理論上のものではない。マイクロソフトの研究者らは19年8月、ロシア政府が支援しているとされるロシアのハッカー集団が、卓上電話、プリンター、その他の職場のIoTデヴァイスを攻撃し、企業ネットワークに侵入していたことを発見した。米国土安全保障省は、企業ネットワークのインフラを保護する重要性について警告を発している。

パッチ適用時の課題も

シスコがリリースしたパッチは重要である。しかし、脆弱性を抱えたデヴァイスの多くが自動アップデート機能を備えておらず、手動でパッチを適用する必要があるのだと、Armisのセリは言う。

こうした作業はエンタープライズ向けのスイッチやルーターにおいては、特に困難といえる。ネットワークが停止しないよう慎重にパッチを適用する必要があるからだ。ほかにも企業が検討できる対応としては、スイッチなどのデヴァイスでCDPを無効にする方法もあるが、これだと別の問題が生じる恐れがある。

いずれにせよ、シスコの機器は世界中の企業ネットワークに普及している。それを考えると、最初のステップはとにかく修正プログラムを現場に届けることだろう。

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さらば、BlackBerry。2020年夏で(今度こそ)販売終了へ

かつて携帯電話のひとつの時代を築いた「BlackBerry」ブランドの端末が、市場から姿を消すことになる。同ブランドの端末を販売していた中国のTCLが、ライセンス契約の終了を決めたからだ。

TEXT BY RON AMADEO

Ars Technica

Blackberry

NEIL GODWIN/GETTY IMAGES

「BlackBerry(ブラックベリー)」が、またしても携帯電話の事業から撤退しようとしている。2016年にBlackBerryがスマートフォン事業から撤退したことを覚えている人もいるかもしれない。だが、のちに中国メーカーのTCLとライセンス契約を結び、TCLが「BlackBerry」というブランド名を使用することになった。

こうしてTCLは、「BlackBerry」ブランドの製品を大量に市場に投入した。QWERTY配列のハードウェアキーボードを備えたBlackBerryらしい機種だけでなく、既存のTCL製スマートフォンの名称を変えただけの安易なモデルもあった。

しかしどうやら、TCLによるブラックベリー再生計画はうまくいかなかったようだ。TCLもまた、BlackBerryブランドの利用を打ち切ろうとしているからだ。

TCLがライセンス契約を解消

BlackBerryブランドの携帯電話を展開するBlackBerry Mobileは2月4日、あるメッセージをTwitterで投稿した。友好的な表現ではあったが、要するに提携関係の解消を告げる内容だった。

TCLが結んでいるBlackBerryのライセンス契約は2020年8月31日で終了し、それ以降は両社が違う道を進むという。ライセンス契約の終了後、TCLは「BlackBerry端末の設計、製造、販売に関するすべての権利を失う」ことになるが、過去に販売した端末のサポートは22年8月31日まで継続する。

いまのところ、ブランドを引き継ぐメーカーは出てきていない。つまり「BlackBerry」と名が付く携帯電話は、これで市場から完全に姿を消してしまうようだ。

スマートフォンメーカーがゆっくりと市場から姿を消していくさまを、これまで何度も目にしてきた。しかし今回のようにライセンス契約の終了となると、これまでとは違った姿の消し方になるだろう。つまり、一気に断ち切ったように製品が消えることになるのだ。

TCL製のBlackBerryに在庫があったらどうなるのだろう。砂漠にでも穴を掘って埋めるのだろうか。

iPhoneの登場がすべてを変えた

2000年代初頭、BlackBerry(当時の社名はリサーチ・イン・ モーション=RIM)はモバイル端末の大手メーカーだった。BlackBerryの携帯電話はQWERTY配列のハードウェアキーボードを装備しており、プッシュ式通知を重視する設計だった。このため絶えずどこかと連絡をとっていなければならないビジネス層に、大いに受けたのである。

スマートフォンの通知が気になって仕方がないという昨今の傾向も、元はといえば当時のBlackBerryまでさかのぼることができる。当時の管理職も端末をチェックすることを止められず、依存症めいているので「クラックベリー」(クラックはコカインの隠語)と呼ばれていたほどだ。

そこにiPhoneが登場してきたことで、すべてが変わった。ボタンだらけのハードウェアキーボードは必要ないし、さまざまな用途に使えるタッチスクリーンとソフトウェアキーボードが主流になることを、ユーザーに告げたのである。

アップルがモバイル市場をひっくり返したわけだが、BlackBerryは有効な対抗策を何ひとつ打ち出せなかった。「いまそれをやっても遅すぎるし、中途半端だ」という策が続いたのだ。

BlackBerryは既存のOSに手を入れ、フルスクリーンの「BlackBerry Storm」を2008年に発売した。しかし、旧式のOSを使った場当たり的な製品でしかなかった。

Androidへの切り替えも失敗に

iOSとAndroidへのまともな対抗策として初めて投入したOSが「BlackBerry 10」で、2013年のことだった。同時に新機種「BlackBerry Z10」も発売したが、そのころにはアップルとグーグルのアプリによるエコシステムが市場を席巻していた。両社のOSはアプリが使えたが、Blackberry 10では使えなかったのだ。

BlackBerryでアプリが使えるようになったのは、15年発売の「BlackBerry Priv」になってからだった。この機種からブラックベリーはOSヴェンダーであることをあきらめ、Androidへとシステムを移行した。

ところがBlackBerry Privは、窮屈で薄っぺらいハードウェアキーボードの付いた、高価なわりに出来の悪いデヴァイスだった。ここにきてユーザーは、普通のAndroidスマートフォンを買えばいいことに気付いてしまったのである。

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