「地方在住の方が、もっと気軽に声優に挑戦できる仕組みを作りたいんです」。こう語るのは、「ドラえもん」のしずかちゃん役、「サザエさん」のワカメちゃん役を四半世紀以上務めた声優の野村道子さん(81)だ。遠方に住む志望者の場合、交通費などの負担が大きく、夢を諦める人も少なくないという。この現状を受け、声優業界の有志が、スマートフォンなどでプロの個人指導を受けられる新サービス「SPOT(スポット)」を設立。次世代のスターを発掘するシステム構築を目指す。 (文化部 本間英士)
「(アフレコなど)声優の仕事は東京に集中しています。でも、地方在住の志望者で東京に出てこられる人は多くない。子供に出ていかれると親が困るので、泣く泣く断念する……というケースは今でもあります。声優という夢にもっとシンプルに挑戦できる仕組みがほしいと思っていました」
「SPOT」の発起人となった野村さんはこう語る。2月7日から1期生(先着100人)を募集。3月25日の開講を目指す。
野村さんは1984年、夫で声優の内海賢二さんと声優事務所「賢プロダクション」を設立。養成所の校長も務めるなど、次世代の育成にも力を注いできた。
声優志望者の多くは声優学校や養成所に通って基礎を学び、オーディションを受けて声優プロダクションに所属する。だが、その多くが大都市圏、とりわけ東京に集中。受講には多額の交通費や滞在費がかかる。野村さんは、地方出身の志望者が「お金の事情」で夢を断念したケースを多く見てきたという。
「多くの方が深夜バスで通っていました。九州から毎週通ってきた人の中には、5日間のアルバイト代が飛行機代で全部消えてしまった人もいて、地元で学べる場があればいいなと考えていたのです」
この“地域格差”をクリアするための一つの試みが「SPOT」だという。
サービスの内容は、プロの声優がオンライン上で個人指導を行う――というもの。スマホやPCで受講するため、インターネット環境があればどこでもレッスンを受けられる。発声や活舌の改善から、アニメ映像を使ったアテレコなど40講座を想定。全ての授業で現役声優からマンツーマン指導を受けられるのは業界初だという。受講内容は1回15分。料金は40回で8万円(税別、教材費1万円など別途)を想定する。
これまで「独立独歩」で歩んできた声優プロダクションが協力することも特徴だ。参加するのは、アクロスエンタテインメント、賢プロダクション、ステイラック、ムーブマン――の4社。1年に1度オーディションを行うなど、新たな「スカウティングの場」を目指す。
地方出身者が声優を目指す際の課題である「標準語」の習得も狙いだ。ムーブマンの羽佐間圭介社長=日本声優事業社協議会理事長=は「地方出身の方の場合、自分のなまりに気付かず生活するので、養成所に入って初めて(なまりを)自覚するケースが多い。直すのには平均1~2年掛かります」と指摘。「有効なのは、とにかく早めに取り組むこと。活舌と発声、方言の3点をあらかじめ(地方在住時に)解決すれば、確実なアドバンテージになります」と語る。
このアドバンテージが非常に重要なのだという。
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