公開:2020/2/10
闇の中で燃え上がる車両。その映像に世界が震えた。1月3日未明、米国はイランの「英雄」を暗殺した。革命防衛隊のソレイマニ司令官。40年にわたる米イラン対立は新たな局面に入りつつある。
暗殺劇を読み解くカギは、灰色の武装勢力にある。中東各地の紛争の最前線でうごめく組織。大国や周辺国による「代理戦争」の一翼を担っている。
神出鬼没な動きで武装勢力と関係を築き、「代理勢力」を育て上げた人物こそ、ソレイマニ司令官だった。イラン主導の反米ネットワークを恐れた米国は、「邪悪な活動」と非難してきた。
「シーア派の三日月」。親イラン勢力を通じた影響圏がこう呼ばれて警戒され始めたのは、2003年のイラク戦争後のことだ。米国側への抵抗を掲げる「三日月」の色彩は、その濃さを増し続けている。
米イランの緊張が高まるなか、私たちはイラクの親イラン勢力「人民動員隊」(PMF)に接触していた。司令官暗殺の引き金となった謎に包まれた武装組織。その実態を追った先に見えた世界とは――
人民動員隊(PMF)の勢力
下記二つの組織を含め約50の戦闘団の連合
カタイブ・ヒズボラ
ヌジャバ運動
設立
2006年
2013年
規模
(推定)
1万人
7千人
米国の認定
「外国テロ組織」など
「特別指定グローバルテロ組織」
手元の気温計は46度を指している。強烈な直射日光が容赦なく肌を刺す。立っているだけで足元がふらふらする。昨夏、イラク中部ナジャフ。私たちは郊外の農地につくられた、ある施設に来ていた。
謎めいた所だった。広大な敷地はコンクリートの壁と有刺鉄線で囲まれ、外から中の様子をうかがうことはできない。高さ3メートルほどの頑丈な鉄門がゆっくりと開いた。そこから車で数分走ると、戦闘服に身を包んだ25人ほどの若者がいた。
「配置につけ!」
号令がかかった。若者たちは装甲車の後ろに回り込み、2列になって周囲を警戒しながら前進する。それぞれ小銃やロケットランチャーを携えている。
機関銃手の援護を受け、土手の陰から一人ずつ飛び出していく。「そこに敵がいるぞ。動け」「応援部隊が必要だ」。怒号が飛び交うなか、若者たちは草むらに伏せたり、ナツメヤシの木に身を隠したりしながら、目標に迫っていく。10分ほどで「敵陣」は制圧された。
私たち記者が訪れたのは、イラクのイスラム教シーア派武装組織を中心とした連合体「人民動員隊」(PMF)の基地の一つ。親イラン・反米の傾向が強いPMFは、西側メディアを強く警戒している。施設や訓練が公開されることは極めてまれだ。私たちは、「取材は非常に難しい」と渋る現地の仲介者を通じ、3カ月以上にわたる交渉の末にPMFの取材許可を得ることができた。
目の前で繰り広げられたのはその戦闘員の訓練だ。PMFは過激派組織「イスラム国」(IS)に立ち向かうため、2014年に民兵や志願者の市民で組織された集団が元になっている。現在は約50の戦闘団の連合で、ナジャフは一大拠点だ。
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