独与党CDU党首を退く意向を固めたクランプカレンバウアー氏(左)とメルケル首相=ロイター
【ベルリン=石川潤】ドイツの最大与党、キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首は10日、次期首相候補となることを断念し、党首も近く辞任する意向を固めた。10日の党幹部会後の記者会見で表明した。メルケル首相の意中の後継候補として2018年末に与党党首を引き継いだクランプカレンバウアー氏の退場によって、後任首相選びは白紙に戻る。
クランプカレンバウアー氏は党首就任から1年あまりが経過し、政治的な失言や選挙での相次ぐ敗北で求心力を大きく失っていた。
2月5日に東部チューリンゲン州で極右「ドイツのための選択肢(AfD)」の後押しを受けた自由民主党のケメリヒ氏が首相に就任すると、同氏に投票したCDUも強い批判にさらされた。この混乱の収拾に指導力を発揮できなかったことが決定打になったとみられる。
ケメリヒ氏は結局、就任からわずか1日で辞任表明に追い込まれたが、再選挙実施の有無などを巡って混乱が続いている。クランプカレンバウアー氏自身は反極右の立場だが、党全体を掌握する力が不足しているとの批判が強まっていた。
独メディアによると、メルケル首相もクランプカレンバウアー氏の辞任を支持したという。同氏は幹事長などとしてメルケル首相に仕え、側近とされたが、党首就任後は難民政策などを巡ってメルケル氏との足並みの乱れも目立ちつつあった。
ドイツでは21年秋に連邦議会選挙を予定している。かつて4割を超えていたCDUの支持率は20%台に低迷し、緑の党などに激しく追い上げられている。国民に不人気のクランプカレンバウアー氏では選挙を戦えないとの厳しい見方も広がっていた。
CDUは今後、次の選挙の顔となる首相候補選びを進めていく。選挙に向けた道筋が整うのを見極めたうえで、クランプカレンバウアー氏は党首を辞任する考えだ。
白紙に戻るメルケル氏の後継レースでは、西部ノルトライン・ウェストファーレン州の州首相も務めるラシェット副党首が優位との見方が多い。最大州出身で選挙に強いとされるうえ、中道色が強く、党をまとめるのに適任との声がある。
対抗馬になるのが、18年末にクランプカレンバウアー氏と党首選挙を激しく争った保守派のメルツ元院内総務、シュパーン保健相だ。メルケル時代に党が中道に偏りすぎたとみる保守派が巻き返しを狙っている。CDUの姉妹政党で南部バイエルン州を地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー党首も、首相候補を狙う一人だ。
もっとも「ポストメルケル」は、次の選挙で躍進しそうな緑の党が左右する可能性もある。現在支持率20%を超える緑の党が、第1党になると見込まれるCDUとの連立を拒否すれば、CDUの後継候補が首相になる道は閉ざされる。
緑の党は左派系の政党との連立樹立に動く可能性もある。その場合、緑の党のハベック党首が次期首相の有力候補に浮上する芽も出てくる。
メルケル政権はCDUと中道左派のドイツ社会民主党(SPD)による連立政権だ。SPDはチューリンゲン州の州首相の選出経緯とその後の混乱への不満を募らせている。21年秋までの継続を目指すメルケル政権のきしみが一段と大きくなる可能性もある。
既存政党の混迷の深まりは、新興政党に勢力拡大の余地を与えるとの指摘もある。極右AfDの有力者、ガウラント氏は10日「クランプカレンバウアー氏の辞任を歓迎する」と述べた。