田川基成
「寂しいけど年だから」「やっと休める」台風被害で廃業を決めた農家の複雑な胸中
2/10(月) 8:44 配信
2019年9月に関東地方に上陸した台風15号は、主に強風で被害をもたらした。10月の台風19号は本州を縦断し、各地で洪水を引き起こした。農業設備は風でなぎ倒され、農地は洪水で泥だまりとなった。農機具も浸水で使えなくなってしまった。農林水産省によると、一連の農林水産被害額は4242億円(2019年12月、38都府県合計)にのぼる。こうした被害を受け、長年にわたって仕事を続けてきた農家が、廃業を余儀なくされている。離農を決めた背景を探ると、高齢化と後継者不足という農業そのものの課題が浮き彫りになった。(文・写真:田川基成/Yahoo!ニュース 特集編集部)
泥のついたリンゴはもう売れない
長野、山梨、埼玉の県境を源流とする千曲川は、長野盆地を北へ向かって流れている。蛇行を繰り返すその川幅は、最大で約1キロにも広がる。2019年11月上旬、長野市穂保(ほやす)地区にある千曲川沿いでは、泥の中に真っ赤なリンゴが埋もれていた。
10月13日未明、台風19号による増水で千曲川の堤防が70メートルほど決壊、周辺一帯が濁流にのみ込まれた。この地で約60年、リンゴを栽培してきた関茂男さん(88)も自宅や農地が被害に遭った。
関さんは自宅のすぐ近所に1万平方メートルの畑を持つ。高齢になって人に貸し出すようになり、今、関さんが自身でリンゴを作っているのは、堤防の外側の1000平方メートル、内側の遊水地(洪水時の流水を一時的に氾濫させる土地)に1000平方メートルの2カ所だ。今回の豪雨ではどちらも浸水した。
「洪水が波打って襲ってきたからね。リンゴの木は2メートルくらいまで全部泥水をかぶってる。まだ木になってる実でも、泥のついたリンゴはもう売れないの。悲しい思いだな」
(撮影:田川基成)
泥のついたリンゴに触れる関茂男さん(撮影:田川基成)
広大な雨雲で本州を覆った台風19号は各地に猛烈な雨をもたらした。特に上昇気流が発生しやすい山間部では歴史的な豪雨となった。
10月12日の19時ごろ、関さんは2キロほど上流の村山橋まで車を走らせ、水位を確認しに行った。その時点でも堤防ぎりぎりまで水位は上がるだろうと思った。なぜなら穂保では、これまでもたびたび洪水に遭ってきたからだ。
関さんは、この地域は洪水に遭う宿命にあると言う。
「ここはね、有史以来、何十回も水がついてる。少し下流が狭窄部になっているせいで、大量の水がここに集まるんだ。だから、地域の責任者になれば、県とか国に治水をお願いしてきた地域なの、昔っからね」
しかし、堤防の決壊までは予期できなかった。
長野市内を流れる千曲川(撮影:田川基成)
穂保を含む長沼地区では、2002年から2016年にかけて、「桜づつみ」という名の堤防が千曲川沿いに整備された。長さ4.37キロ。関さんの自宅とリンゴ畑もこの堤防に隣接する。
桜づつみでは、すでにあった堤防の外側に盛り土をして幅を広げ、その上には桜並木が植えられた。関さんは、住民側の代表としてその整備に関わってきた。
「100年、200年に一度の豪雨でも決壊しない堤防をつくりました、みなさん、安心してお暮らしくださいと。堤防が完成した時はそう言われてたの」
桜づつみの上に積み上げられた廃棄物(撮影:田川基成)
台風19号は、そんな安心が吹き飛ぶほどの降雨量だった。10月12日、長野県では初の大雨特別警報が発令された。長野市に近い高山村では、降り始めからの24時間雨量で328ミリ。この地点の観測史上最大の雨量だった。
千曲川の水位は上がり続けた。そして13日午前2時過ぎ、穂保地区の堤防が崩れた。濁流は一気に住宅街に流れ込んだ。
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