農産物輸出連続増の実態 大半は海外原料加工品? 経済効果検証できず
2020年02月09日
農水省は、2019年の農林水産物・食品輸出額が「7年連続して増えた」と発表した。牛肉や乳製品、米が前年に比べて2割以上伸びたと胸を張るが、農産物輸出入という収支で見れば、輸出額は輸入額の1割に満たない。首をかしげたくなるような品目も農産物に含まれている。農産物の輸出が増えたことで、農業経営にどの程度のプラスとマイナスがあるのかを説明するべきだろう。
同省が7日に発表した輸出資料には、登場しない農産物の品目がある。「各種の調製食品のその他のその他」と呼ばれる関税コードに含まれる食品だ。896億円で、単一品目としては最大額。牛肉の297億円やリンゴの145億円を大きく上回る。前年に比べ約100億円伸びていることから、農産物全体の増加額216億円の半分は、この品目に属する食品の伸びが稼いだ計算だ。
農産物輸出額増加の最大の功労者とも言えるが、実態は謎だ。
「さまざまな食品類の寄せ集めで中身は分からない」というのが、7日の記者会見での同省の説明だ。こうした謎の「食品」が含まれている農産物輸出額を、政策目標とすることにどのような意味があるのか。
農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員は「19年の農産物輸出額5877億円の中で、国産農産物やそれを原料にした日本酒などの加工食品は1000億円に満たないのではないか。多くは海外原料に依存した加工食品だ」と指摘する。
農産物輸出によって、日本の農業にどの程度の経済効果が出るのだろうか。同省は「産地に聞き取りしたら、市場拡大に役立ったなどの声が寄せられた」と説明するものの、数字による影響評価は行っていない。経済連携協定を結ぶ時には、輸入増加でどの程度の影響があるかを示してきたのとは対照的だ。
4月から施行される農林水産物・食品輸出促進法は、第1条で輸出によって「農林水産業及び食品産業の持続的な発展に寄与する」ことが目的だと明記してある。政府は近年、「証拠に基づく政策立案」を掲げてきた。政策は目的を明確にして数値による合理的な根拠で推進するべきだという内容だ。政府の農林水産物輸出政策は、具体的な効果が検証できない点で自らの方針に反している。
欧州や米国では農産物貿易の分析で輸出と輸入のバランスが重視される。「牛肉や米の輸出が増えたと言っても日本の農産物は圧倒的に輸入が多い。輸出額だけを取り上げ過大評価するべきではない」と清水研究員は指摘する。
(特別編集委員・山田優)
同省が7日に発表した輸出資料には、登場しない農産物の品目がある。「各種の調製食品のその他のその他」と呼ばれる関税コードに含まれる食品だ。896億円で、単一品目としては最大額。牛肉の297億円やリンゴの145億円を大きく上回る。前年に比べ約100億円伸びていることから、農産物全体の増加額216億円の半分は、この品目に属する食品の伸びが稼いだ計算だ。
農産物輸出額増加の最大の功労者とも言えるが、実態は謎だ。
「さまざまな食品類の寄せ集めで中身は分からない」というのが、7日の記者会見での同省の説明だ。こうした謎の「食品」が含まれている農産物輸出額を、政策目標とすることにどのような意味があるのか。
農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員は「19年の農産物輸出額5877億円の中で、国産農産物やそれを原料にした日本酒などの加工食品は1000億円に満たないのではないか。多くは海外原料に依存した加工食品だ」と指摘する。
農産物輸出によって、日本の農業にどの程度の経済効果が出るのだろうか。同省は「産地に聞き取りしたら、市場拡大に役立ったなどの声が寄せられた」と説明するものの、数字による影響評価は行っていない。経済連携協定を結ぶ時には、輸入増加でどの程度の影響があるかを示してきたのとは対照的だ。
4月から施行される農林水産物・食品輸出促進法は、第1条で輸出によって「農林水産業及び食品産業の持続的な発展に寄与する」ことが目的だと明記してある。政府は近年、「証拠に基づく政策立案」を掲げてきた。政策は目的を明確にして数値による合理的な根拠で推進するべきだという内容だ。政府の農林水産物輸出政策は、具体的な効果が検証できない点で自らの方針に反している。
欧州や米国では農産物貿易の分析で輸出と輸入のバランスが重視される。「牛肉や米の輸出が増えたと言っても日本の農産物は圧倒的に輸入が多い。輸出額だけを取り上げ過大評価するべきではない」と清水研究員は指摘する。
(特別編集委員・山田優)
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福島産米抽出検査 旧市町村単位で 59→400へ細分化し不安払拭
東京電力福島第1原子力発電所事故後、全ての県産米の放射性物質を調べる「全量全袋検査」を2019年産米を最後に緩和する福島県が、今年秋以降に採用する「抽出検査」を1950年当時の行政区割りに基づいて行うことが分かった。
現在、県内には59市町村があるが、50年当時は約400。現行の市町村単位で抽出検査した場合、範囲が広くなり、消費者不安を払拭(ふっしょく)できない懸念があり、細分化するための措置。
抽出検査を行う箇所数は国と協議して決める。事故後に避難指示が出た12市町村のうち11市町村では全量検査を続ける。川俣町では一部地区で抽出検査に移行する。
県は15年産以降の米で国の放射性物質の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えていないことを受け、20年産から抽出検査に移行する方針を示したが、詳細は明らかにしていなかった。
条件緩和による風評被害を懸念する声もあったが、近年の検査実績から消費者の理解を得られると判断した。
全量検査は12年に開始。年間約35万トンの米を1袋ずつ調べる。
米の全量全袋検査を見直しを受け、JA福島五連の菅野孝志会長は5日、「安全・安心確保対策を継続して、基準値超過が出ない取り組みを徹底していきたい」とする談話を発表した。
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2020年02月06日
ネット通販工夫 栄冠 加工需要向け処理車も JA全農職員提案
JA全農は5日、職員が新事業提案を発表し合う「ゼノベーション2019」を東京・大手町のアグベンチャーラボで開いた。県本部職員を含む8チームが、全農ならではの特性を生かした発表をした。最優秀賞には賞味期限の近い食品をインターネットで販売する事業と、業務加工需要に応えるため、農産物の冷凍処理ができる車の導入を提案した2チームが選ばれた。
新事業提案受け付けは以前から行っているが、昨年度から「全農」と「イノベーション(革新)」を合わせた「ゼノベーション」として実施している。発表者は3人以上が条件で、31件の応募があり、書類選考を通過した8組が発表した。常に新たな事業が生まれる職場づくりにつなげる。
最優秀賞のチームは、国産農産物を買えるインターネットサイト「JAタウン」の中に、賞味期限が近づき廃棄される加工食品を販売するコーナーを設ける提案をした。もう一つのチームは、農産加工場が不足していることを受け、車で加工できる仕組みを提案した。「ベジフルカー」と名付け、冷凍処理や乾燥などの処理ができるようにする。移動式とすることで、周年稼働しやすくする。
審査員特別賞には①全農自らが障害者福祉施設を運営し、農福連携を広める②米のプロテイン商品を販売する③JA倉庫を活用しフクロタケを栽培する──という内容の発表が受賞した。
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2020年02月06日
増える若者移住 地域の協働で受け皿を
日本農業新聞の調べで、移住者の受け入れ数が28府県で最多を更新したことが分かった。若者が農村を目指す田園回帰が確かな潮流となっている。大きなチャンスだ。若者の力を、農業はじめ地域活性化の力にしよう。それには、相談や交流の場といった行政とJAなどが協働する受け皿づくりが求められる。
本紙は47都道府県に移住者数を聞き、そのうち調査・公表している35府県の8割が最多となった。主に2018年度の実績で、30代が移住者の中心。若者が農村を目指す動きは大きなうねりとなっている。移住希望者に情報発信を続けるふるさと回帰支援センターに寄せられた18年の移住相談件数は4万件を超え、過去最高を更新した。相談件数は増え続けている。20代、30代の相談が増加している。
なぜ、若者は農村を目指すのか。大分県に移住した30代の男性の言葉が印象に残る。「都市は与えられ消費するだけの生活。農村は自ら考え工夫し、生活をつくれる。生きる力を実感できる充実感はお金では買えない」
移住者を募る上で大切なのは、地域の良さを伝えることではない。むしろ困っていることを伝えることだ。「直売所の売り上げを伸ばしたい」「イベントを企画してほしい」「農産物をブランド化したい」。地域に役に立ちたいとの思いが、若者が動く価値の一つである。
若者を受け入れるポイントとして、本紙が1月に連載した「にぎわい育む農山村」でいくつかのキーワードが浮かび上がった。その一つが「交流」をつくるための「協働」だ。北海道上士幌町は、18年から4年連続で人口を伸ばし、5000人台を回復した。町が、JA上士幌町や商工会、建設業協会など地域の団体と移住者の受け入れ組織をつくり、仕事や住まい探しなどの相談に乗っている。フリーマーケットや月ごとの誕生会など移住者と住民が交流できる場も多く、移住者と地域をつないでいる。大きなヒントとなりそうだ。
もう一つのキーワードは「仕事」の在り方だ。岡山県真庭市では、デザイナー、空き家改修、立ち飲み屋など、ここ5年で移住者を中心に50もの新たな仕事が生まれている。仕事はかつて、専業や雇用される就業が主な概念だった。だが、同町では、複数のなりわいで生計を立てる「多業」や後継者のいない店を第三者が引き継ぐ「継業」など、新たな仕事の形が広がっている。若者の多様な感性や考え方を否定せずにまず受け入れる。地域の包容力が移住者を引き付けている。
地方創生の第2期対策が20年度に始まる。地方創生の正式名称である「まち・ひと・しごと創生」の「ひと」は人口ではなく「多様な人材の確保」という意味。農村に移住してくる若者に寄り添い、共に行動することができるかどうか。そこに農業・農村の将来が懸かっている。
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2020年02月05日
届け出違反罰則強化 家伝法改正案 自民部会が了承
農水省は5日、自民党の農林合同会議で、豚熱やアフリカ豚熱対策を盛り込んだ家畜伝染病予防法(家伝法)の改正案の骨子を示し、了承された。農場ごとに衛生管理責任者を置くなど、同病の予防やまん延防止に向けた措置を拡充。豚熱などの発生が疑われる場合の届け出義務違反に対する罰則を強化する。感染源となる海外の肉製品の持ち込み防止へ、水際対策も拡充する。
家伝法は1月30日に議員立法で一部を先行して改正。5日に施行した。アフリカ豚熱対策として、未感染の豚も含めた「予防的殺処分」をできるようにした。政府は、これとは別に、飼養衛生管理や水際対策の強化などを目的とした改正法案を今国会に提出する。
豚熱などが発生した場合の早急な防疫措置や、まん延防止対策につなげるため政府法案では違反者への罰則を強化する。
飼養衛生管理基準の違反者の罰金は、現行の30万円から100万円に引き上げる。患蓄などの届け出義務違反者は100万円から個人300万円、法人5000万円に引き上げる。養豚経営の大規模化や法人化が進んでいることを踏まえ個人、法人で罰金に差を設けた。管理状況などの定期報告違反者は10万円から30万円とする。
飼養衛生管理の徹底に向けて、畜産農家だけでなく、国や都道府県、市町村、関連事業者の責務も明確化する。国は飼養衛生管理の指導に向け指針を策定。都道府県は指導計画を取りまとめ、管理の命令違反者を公表できるようにする。国は、都道府県の飼養衛生管理の状況を積極的に公表できるようにする。
豚熱やアフリカ豚熱の感染源となる肉製品の海外からの持ち込みを防ぐため、水際対策の強化も打ち出した。持ち込みをチェックする家畜防疫官の権限を強化し、出入国者に肉製品を持っていないかを質問できるようにし、発見した場合に廃棄することも可能にする。動物検疫所長は円滑な検疫のため船舶、航空会社などに協力を求めることができるようにする。
輸出入検疫の違反者の罰則も強化。現行の100万円から個人300万円、法人5000万円に引き上げる。
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2020年02月06日
食料支出 加工品伸び1・4%増 米、生鮮は減 19年家計調査
総務省が7日、2019年の家計調査(詳細結果)を発表した。2人以上世帯(平均2・97人)の年間食料支出金額は前年比1・4%増の96万5536円で2年連続で増加。調理の簡便・時短化志向の高まりから、総菜などの調理食品や加工品の伸びが鮮明だ。一方、生鮮品は牛、豚、鶏肉が前年を下回り、相場が低迷した野菜も苦戦。米も落ち込んだ。加工品と生鮮品で明暗が分かれた。産地は、需要が伸びる加工・業務向けなど消費の変化に対応した販売先の選択が重要となっている。
生鮮肉の支出金額は2・7%減で、東日本大震災の影響を引きずって落ち込んだ12年以来の減少となった。うち牛肉は3・2%減と2年続けて減り、数量も2・7%減と振るわなかった。豚肉の支出金額は3・1%減で3万円を割り、鶏肉も落ち込んだ。「台風が相次ぎ、スーパーの客足が鈍ったことも影響した」(東日本の食肉業者)。ハムやソーセージなどの加工肉の支出金額は2・3%増だった。
米(精米)の支出金額は4・5%減で、4年ぶりに減少した。米価は堅調だったが、消費税増税で節約志向が広がり、スーパーなどで販売が低迷した。購入数量は09年からの減少に歯止めがかかっていない。一方、おにぎりやパックご飯は8・4%増、冷凍米飯を含む「他の主食的調理食品」も7・5%増と手軽に食べられる米飯商品に勢いがある。
調理の簡便・時短化志向は高まり、調理食品全体は4・4%増の12万8386円と月1万円以上支出している。
米と競合するパンは、高級食パンブームが後押しして5・3%増えた。
生鮮野菜は、相場低迷の影響で支出金額は6・1%減った。特にハクサイは26・1%減と減り幅が大きく、キャベツも17・6%減。ブロッコリーは栄養面の評価や手軽に食べられる調理法が普及して、3・0%増と増え続けている。総菜のサラダも7・0%増と好調だ。
生鮮果実は、ブドウが「シャインマスカット」などの人気があり5・5%の伸び。キウイフルーツは9・4%増と食卓への浸透が進む。乳製品はヨーグルトの消費が鈍化しているが、チーズは2・7%増だった。
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2020年02月08日
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新たな基本計画 JA生活支える役割 インフラ機能評価 農水省
農水省が、新たな食料・農業・農村基本計画に、JAの役割として「農村地域の生活インフラを支える」との考えを盛り込む方向で検討していることが8日、分かった。過去の基本計画にJAの生活インフラ機能への言及はない。農業者の所得向上に向け、自己改革の取り組みを促す考えも盛り込む。13日の食料・農業・農村政策審議会企画部会に、今後の政策の方向性として示す。
JAは信用・共済事業や病院、介護、スーパー、給油所なども営む総合事業で、農家や地域住民の生活を支えるインフラ機能を担っている。
昨年の第28回JA全国大会では「JA総合事業を通じた生活インフラ機能の発揮」を決議。農村の高齢化や他の事業者の撤退などから、農村部でのJAのインフラとしての役割は増しているとされ、同省もこうした点を踏まえたとみられる。
5年ごとに見直す同基本計画には毎回、JAなど農業団体の再編整備に関する施策が盛り込まれる。2015年に閣議決定した現行計画は、JAについて「農業者の所得向上に全力投球できるよう改革が必要」と指摘。政府の「農協改革」を受けてJAの職能組合の側面を重視しており、JAのインフラ機能や地域貢献などへの言及はなかった。
15年改正の農協法は、政府が組合員のJA利用の実態や農協改革の実施状況を21年3月まで調査し、准組合員の利用規制の在り方を検討すると規定。一方、この農協法改正に伴う参院農林水産委員会の付帯決議は、検討の際、JAが地域のインフラとして果たす役割を踏まえるよう求めている。基本計画でJAの生活インフラ機能が位置付けられれば、今後の検討に影響を与える可能性がある。
同省は基本計画で、JAに自己改革の取り組みを促す方針も示す。同省は昨年、5年間の農協改革集中推進期間中に「JAグループの自己改革は進展」したと評価。引き続き自己改革を促進すると示しており、基本計画でもこうした考えを踏まえるとみられる。
同省は基本計画の3月中の閣議決定に向け、今月中に骨子案を示す。
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2020年02月09日
地力高め生産基盤安定 堆肥施用に助成金 農水省 未利用地域で実証へ
農水省は、耕種農家の収量向上と堆肥の利用促進に向けて、全国規模で土づくりの実証に乗り出す。これまで堆肥施用が盛んでなかった地域などで、モデルを育成する。2019年度補正予算に盛り込んだ産地生産基盤パワーアップ事業で、堆肥施用にかかる農家の経費を補助する。地力を高めて生産基盤を安定させることに加えて、和牛生産量の倍増を目指す中で家畜ふん尿の有効活用も視野に入れる。……
2020年02月09日
農産物輸出連続増の実態 大半は海外原料加工品? 経済効果検証できず
農水省は、2019年の農林水産物・食品輸出額が「7年連続して増えた」と発表した。牛肉や乳製品、米が前年に比べて2割以上伸びたと胸を張るが、農産物輸出入という収支で見れば、輸出額は輸入額の1割に満たない。首をかしげたくなるような品目も農産物に含まれている。農産物の輸出が増えたことで、農業経営にどの程度のプラスとマイナスがあるのかを説明するべきだろう。
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農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員は「19年の農産物輸出額5877億円の中で、国産農産物やそれを原料にした日本酒などの加工食品は1000億円に満たないのではないか。多くは海外原料に依存した加工食品だ」と指摘する。
農産物輸出によって、日本の農業にどの程度の経済効果が出るのだろうか。同省は「産地に聞き取りしたら、市場拡大に役立ったなどの声が寄せられた」と説明するものの、数字による影響評価は行っていない。経済連携協定を結ぶ時には、輸入増加でどの程度の影響があるかを示してきたのとは対照的だ。
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2020年02月09日
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2020年02月08日
農産物輸出 生鮮品拡大に課題 牛肉好調も加工品4割
2019年の農林水産物・食品の輸出額は目標の1兆円には届かなかったが、過去最高を更新した。生鮮品では牛肉や米などが販売促進の効果もあって順調に伸びた。だが、輸出額の4割近くを加工食品が占め、生鮮品の規模はまだ小さい。農家所得増大に向け、加工食品頼みを脱し、生鮮品を拡大できるかが依然として課題となっている。……
2020年02月08日
食育推進基本計画 学給で地場産活用を ニーズ調整役が課題 農水省
農水省は7日、自民党食育調査会(土屋品子会長)に、2021年度から始まる第4次食育推進基本計画の策定に向けた論点を示した。学校給食で地場産物を活用するには、生産現場と給食現場の調整役が重要とし、双方のニーズを調整する「地産地消コーディネーター」の養成などを課題に位置付けた。若者や食育に関心が低い層を含め、国民全体への働き掛けを充実させることも重視した。次期計画は20年度中に定める。……
2020年02月08日
全農と意見交換 農産物輸出、労働力支援…取り組み事例共有 農水省有志
農水省の有志職員でつくる勉強会「チーム2050」は7日、東京都内で、省外のネットワークを広げていくことを目的に、JA全農との初の意見交換会を開いた。生産現場への労働力支援や農林水産物の輸出促進などについて、それぞれの取り組みを共有した。勉強会は今後も続ける。
農水省は、輸出の優良事例を紹介。北海道のJA帯広かわにしによるナガイモの台湾輸出を挙げ「輸出に取り組んでいるJAは、しっかりとした単価を取れるマーケットを海外でつくっている」と指摘。国内で人口減が進む中、海外販路を開拓する重要性を強調した。
全農は、生産現場の人材不足を踏まえ、全農おおいたが先行して取り組む企業と連携した労働力支援の取り組みを紹介。主婦や学生など、多くの人材が働き手として参加。農家の作業を支えていることを報告した。
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2020年02月08日
キャベツ平年5割安 暖冬で低迷長期化も
キャベツの価格低迷が深刻だ。2月上旬(6日まで)の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は1キロ47円と平年(過去5年平均)比5割安。暖冬で各産地とも大幅に出荷を前倒しし、潤沢な出回りになっていることが要因だ。小売りは特売の頻度を増やすなど消費喚起に力を入れるが、「果菜類以外の野菜全般が潤沢で、早期の相場回復は難しい」(卸売会社)ため、低迷は長期化しそうだ。
キャベツの相場は、昨秋から年末にかけて平年比1、2割安だったが、年明け以降、下げ幅が広がった。1月上旬が3割安、1月中・下旬が4割安。例年は寒さが厳しさを増す1月下旬以降に相場は上向くが、今年は回復の気配はない。
卸売会社は「この時期にしては巻きが良いため大玉比率が高く、歩留まりも良い」と説明する。主産地が潤沢なことに加え「雪が少ないため寒冷地の残量が多く、首都圏の市場に出回っている」と厳しい販売環境を指摘する。
主力産地のJAあいち経済連によると、現在の出荷ペースは日量で約10万ケース(1ケース10キロ)。平年の1・5~2倍の量が出る日もあるという。県内では例年、春先に出荷ピークを迎えるが、「肥大が進み収穫せざるを得ない。3週間以上生育が前進し、春先の分が出ている産地がある」(同)という。
農水省がまとめた全国小売店の価格動向調査(1月27~29日時点)では、キャベツは1キロ124円と平年比42%安。前週比では5%安だった。レタスが平年の4割安、ダイコンが同3割安と、他の野菜も軒並み低迷している。
小売りも販促を仕掛ける。関東で展開するスーパーは1月中旬から、1玉を89円(税別)や98円(同)と、100円を切る価格で販売するケースが目立つ。
あるスーパーの仕入れ担当者は「野菜は通常、日替わりで広告に特売情報を載せるが、キャベツは1月に3日間通して広告を出した」と売り込みに懸命だ。しかし、単身世帯や核家族化の増加で 1家族当たりの消費量には限りがあり、特売をしているにもかかわらず、販売点数や販売金額は 伸び悩んでいるという。
今後の見通しについて卸売会社は「寒波で入荷ペースは若干落ち着く可能性もあるが、相場浮上は難しい」と厳しくみる。
キャベツの相場が厳しい状況だが「品質は下げられない」と畑に向かう赤佐さん(左)とJA職員(愛知県田原市で)
「30年間で収入最悪」野菜安売り続けば──農家は淘汰 品質良いのに…現場苦境 キャベツ産地 愛知県田原市
キャベツの価格低迷が長期化している。記録的な暖冬で生育が前倒しとなり、市場には各産地から出荷が集中。安い野菜を喜ぶ消費者がいる一方で、農家は採算割れの苦境に立たされている。キャベツの相場低迷に苦しむ愛知県の産地は今──。
愛知県渥美半島。田原市は、冬のキャベツ作付面積が3800ヘクタールと、全国の筆頭産地だ。10月~翌年6月に全国に売り出す。暖冬の今シーズンは一時的に寒気が下りる日はあっても、年明けから春のような日が続く。
5ヘクタールで作る赤佐敏生さん(56)は悲しそうな顔でキャベツを手に取る。栽培歴30年で最悪の収入になる見通し。消費税増税や機械などへの投資で支出は増え、収支は採算割れだ。手作業での収穫は中腰の状態が続き、この時期は休む暇もない。
天候や畑によって施肥の量やタイミングを変え、より良い品質を追究してきた。「良いものを作る、農家はそれだけ。ブランド産地を守ることは、その地道な積み重ねの先にある。厳しい時も良い時もやることは同じ」と、赤佐さんは言う。だが昨秋から続く価格低迷に、心が折れそうになる。これほど長く低迷が続くことは異例だ。
広がるキャベツ畑。同じように見えても畑ごとに農家の労苦やその家族の歴史がある。
5・5ヘクタールで作る本田義晴さん(38)は高校卒業後、父の背中を見て就農した。父と同様、自分も3人の子どもはキャベツで稼いだお金で育てる決意だ。だが収入が激減する見通しの中、今後の展望が見いだせないでいる。「価格の乱高下は慣れているが今年は最悪。このままでは農業を続けられない人も相当出てくる」と険しい表情だ。
トラクターやトラックに大規模に投資している。箱代などの資材費、さらに暖冬のため病害虫対策も必要で、支出がかさむ。「スーパーで1玉100円を切ると農家は食べていけない」と、本田さんは漏らす。
糖度や大きさの違いが出にくく、産地で味が変わらないと思われがちなキャベツ。しかし海に面して霜の影響が少なく、若手農家が多く技術研さんを重ねてきたJA愛知みなみ産のキャベツは特別なのだという。
JAの内田孝司青果担当は「何より甘い。品質も定評がある」と太鼓判を押す。高品質でも安値が続き苦悩する農家を見て、何かできないかと気をもむ日々だ。
暖冬で各産地から荷が集中する。市場原理では、需要を供給が上回れば単価が安くなるのは当たり前だ。ただ、それで持続可能な食の提供がこの先も続けられるだろうか。赤佐さんは「安売り合戦が続けば農家は皆、淘汰(とうた)される」と危機感を募らす。
一部だが、業務用の契約栽培やインターネットでの直売などで利益を上げる農家はいる。ただ、「農家全員が直売や契約栽培に向かえるわけではなく、契約は全体の2割が限界」(JA)だ。
市内では多くの農家が消防など地域での役割を担う。国土を荒廃させず維持し景観や自然環境を保つのも農業の役割だ。一度失えば、取り戻すことは容易ではない。「野菜は工場でできるわけではない。自分たちの努力や思いを、少しでも消費者に知ってほしい。多くの若者が未来を描ける農業にしたい」。キャベツ畑から、赤佐さんが問い掛ける。
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2020年02月07日
トランプ氏一般教書演説 農家向け実績強調 実効性不透明も支持強固
トランプ米大統領は4日に行った恒例の一般教書演説で、農業分野の成果を強調した。中国などとの貿易協議で農産物輸出の「大幅」拡大を勝ち取ったことを誇り、農村部で遅れている高速インターネット回線の改善に取り組むことを約束した。どちらも効果はいまひとつ不明だが、世論調査で農家の支持は上昇。今年11月の大統領選挙に向け、農家のトランプ支持を固める効果はあったようだ。(特別編集委員・山田優)
輸出大幅拡大 高速回線整備
「農家や労働者にとっては10万人の高給な雇用と大量の輸出拡大をもたらすだろう」
トランプ氏は演説で、メキシコ・カナダとの新しい貿易協定(USMCA)や中国との貿易協議が米国農業に大きな成果になると強調した。これらの内容は繰り返し自慢してきたもので目新しくない。
手柄話を詰め込んだ大風呂敷を広げるのはトランプ氏特有の行動パターン。これまでの日米首脳会談でも同様の振る舞いを見せてきた。
しかし農産物輸出拡大の実効性について、米メディアは「米政府の試算ではUSMCAで増える農業輸出額は1%にすぎない」「中国との第1段階の合意で対中輸出は増加することになったが、これまでのところ実際の商談は何もない」などと辛口の批評をしている。
また、トランプ氏は情報基盤の整備が遅れている「農村部」を取り上げ、「全ての国民が高速インターネット接続できるようにすることを約束する」と強調した。米国でも都市と農村のデジタル格差が大きいことはさまざまな調査で指摘されてきた。大統領選挙に向けて、民主党の候補者らが農村部のデジタル格差を強く批判していることを意識して、演説の中に盛り込んだ。
米国内の農政論議は、秋の大統領選挙を軸にして熱を帯びてきた。農家の間のトランプ人気は衰える様子が見えない。
米ファームジャーナル社が毎月調べている大統領の仕事ぶりを評価するアンケートでは、圧倒的な農家がトランプ氏を支持している。最新の1月18日時点で83%の農家が仕事ぶりに「満足している」と回答した。一方で「満足していない」は16%にすぎない。高支持率の背景には農業の先行きへの楽観視がある。
農家の景況感を毎月測る米パデュー大学の調査によると、4日発表された1月の結果は前月よりも急上昇した。「米中の暫定合意で中国側が大量の農産物を買うことになったため」と同大学は理由を説明する。米国の農家は、バラ色の未来を振りまくトランプ氏への信頼を強めている。
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2020年02月07日
武漢帰国者食事充実へ 農水省 メニュー考案弁当を提供
農水省は、新型コロナウイルスによる肺炎が拡大する中国・武漢市からの帰国者が滞在する国内の施設で、食事面のサポートをしている。生野菜を求める声などに応じて、栄養や品数に配慮したメニューを同省職員が考案し、提供。帰国者の宿泊生活を支える。一連の対応を参考に、新たな危機対応のマニュアル作成も検討する。
各府省は帰国者の宿泊施設に職員を派遣し、物資の受け渡しなどに携わる。現在、同省は4カ所に職員9人を派遣する。
宿泊生活を余儀なくされている帰国者のため、同省は多様な食事の提供を心掛ける。同省職員が常駐する各地の宿泊施設では、周辺の食品業者の協力を得て野菜や果物などを調達したり、栄養バランスに配慮した弁当メニューを考案したりしている。同省によると「食事がよくなった」「野菜が食べられるようになった」との声が届いているという。
同省は「緊急時は品不足のため同じような食事になりがち。だが、今回は可能な限り多彩な食事を用意するようにした」(大臣官房)と明かす。
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2020年02月07日