(写真提供:富永泰弘さん)
高円寺に「もやし炒め定食専門店」現る
みなさんこんにちは。メシ通リポーター、BLObPUSです。
いつものように高円寺を散歩していると……。
デカデカと主張する「もやし炒め定食 500円」の文字と写真が目に飛び込んできました。
視線を移動すると「円蔵食堂店主 日本フェザー級ボクサー 河野洋佑」の看板が。
〝もやし〟と〝ボクサー〟。
なんとも正反対な組み合わせ。
とにかく頭のなかに「?」が浮かんだ時はとりあえず入ってみるのが一番!
店内は居酒屋っぽい和の雰囲気もありつつ……
DJブースもあったりと独特な雰囲気。
聞けば夜はDJイベントなどもやっている「JAPUB円蔵」という居酒屋だそうで、「円蔵食堂」は週2回ほどのペースで間借りしてランチ営業しているらしい。
そしてこの円蔵食堂、メニューに載っているのは〝もやし炒め定食〟の1点のみ。
そして店主のプロフィールも書いてあります。
「新日本木村ジム所属 フェザー級プロボクサー」
とにかく現役ボクサーが作る〝もやし炒め定食〟なんだそうです。
これはさっそくいただいてみようじゃないですか!
さすが現役ボクサー。鍋を振る姿はまさにボディへのショートアッパー!
ごま油で粗挽きの鶏肉を炒め……
そこにドバッと大胆にもやしを投入し、手早く炒めます。
パンチを連打するがごとく鍋を振り続ける様はさすが現役ボクサー!
仕上げに塩胡椒をかけて完成。
▲もやし炒め定食(500円)
塩胡椒のシンプルな味に白米が合います。
思ったよりも粗挽きの鶏肉の存在感が強く、満足感も高い。
この日の味噌汁の具はわかめ。
個人的に気に入ったのが味変用のスパイス。
このスパイス、「タイム サンタフェステーキスパイス」というシロモノで、私も以前使ったことがあります。昆布や醤油のパウダーが入っていて、香りだけでなく旨味も増すんですよね。
濃いめの男っぽい味付けにすると、さらに白米を口に運ぶ速度が加速してしまいます。
たたみかけるようにラッシュに持ち込み、一気に完食!
満腹感はありますが胃がもたれるようなこともなく、これはいい感じですね。
店主は現役ボクサー。怪我からの復帰戦に向けて拳と鍋を振り続ける
そもそもどうして「もやし炒め定食専門店」を出すに至ったのか。
店主の河野洋佑さんにお聞きしてみます。
──まずは河野さんご自身のお話から聞かせてください。ボクサーになられて10年以上だとか。
河野:そうですね。デビューして約11年になります(2008年11月デビュー)。階級はフェザー級で、戦績が21戦12勝(6KO)7敗2分です。
──さきほど河野さんのブログで拝見しました。現在、顎を怪我をされていらっしゃるんですか?
河野:はい。それで負けちゃって、ランキング抜けしちゃったんです。まだ完治していなくて次の試合が決まっていない状態ですが、今年の4月くらいの復帰を目指しているところです。
(写真提供:富永泰弘さん)
──なるほど。こちらの円蔵食堂さんでもやし定食を始めたのも、そういったことが関係しているのですか?
河野:もともとこちらのお店にはお客さんとして来ていたんです。このお店はJAPUB円蔵という屋号で、DJブースのある立ち飲み屋というスタイルで夜だけ営業していて、オーナーがランチもやってみようと考えていたところに、たまたま僕が昼の仕事を高円寺周辺で探そうと思っていると話したのがきっかけです。そこで昼にこの「円蔵食堂」を始めようと。
──これまでに飲食店での勤務経験はあったのですか?
河野:ちょこっとだけあります。現在は他にもバイトをしつつ、こちらは現在週2回、水曜日と金曜日の昼に営業しています。
──「もやし定食一択」という発想はどこから?
河野:大手のチェーンで牛丼やカレーとか、そばや中華なんかはこの近所でも500円で食べられるお店はけっこうあるんです。でも、和食になるとチェーン店でもちょっと価格が上がります。
それでご飯と味噌汁ともう一品の定食で、毎日食べても懐にやさしいお店があったら自分も食べたいな、と思ったのが始まりです。
──なるほど。ご自身のニーズが最初にあったんですね。
河野:僕自身、飲食店勤務経験が少なかったので、「オペレーションもメニューも出来るだけシンプルにした方がいい」というオーナーからのアドバイスが大きかったですね。そうすればお客さんと僕が言葉を交わす時間も生まれるし、ボクシングの試合を応援してくれるような人間関係もできるかもしれない。
──そうでしたか。河野さんをバックアップするための場でもあるんですね。
河野:いろいろ削ぎ落として、ワンオペでまわして値段は500円。メニューも1種類。もやしは一袋だいたい200gなんですが一人前一袋まるまる使えば手間も省けます。今日は何食出そうかと思ったら、その数だけもやしの袋を用意すればいいですから。
──ボクシングにも通じる減量作戦ですね。
河野:はい。もちろんもやしの原価率がいい、というのもありますが。もやしって、意外と栄養価も高いので実際の減量にもいいかもしれません(※筆者注:もやしには食物繊維が豊富に含まれていて、便秘や糖尿病、大腸ガンといった生活習慣病を予防・改善する働きがある。また葉酸・ビタミンB1・ビタミンC・疲労回復に効果があると言われるアスパラギン酸なども含まれている)。
──それで〝もやしで一点突破〟しようということになったんですね。今後は何か考えていらっしゃることはありますか?
河野:もやしの種類などをいろいろと調べている最中です。限定メニューで超高級もやしとかやってみたいですね。将来的にはもやし農家さんと提携したりとか。
──途中の味変用スパイスもとてもいいと思いました。
河野:最初から濃いめの味にするか迷ったんですが、シンプルに粗挽きの塩胡椒で味付けして、あとから好みにあわせて卓上のスパイスで味変していただく形にしました。味付けも最初は醤油から始まって、チキンコンソメになったり本出汁にしたりとか、実は時々マイナーチェンジもしています。
先日思いついたのは、使用する具材を変えずに中に入っている鶏ひき肉だけ別にして、ご飯にのせてみるのもアリかなとか。
──ひき肉乗せご飯はアリだと思います! 見た目もちょい派手になりますし。私は自分で時間がある時はもやしのヒゲを取ってもやし炒めの調理をしているんですが、食感が驚くほど良くなるのでオススメですよ。
河野:そうですか! そのうちそれも試してみたいと思います。ちょっと手間がかかりそうだから、時間がある時だけヒゲ取りして、運がいい人は食べられるみたいな感じだったらできるかも。
リピーターが多い
──もやしの食物繊維はヒゲの部分に多く含まれているそうなので、ヒゲを取ってしまうとそこが失われてしまいますが、食感を重視される場合にはぜひ。ところで円蔵食堂は昨年の11月から始められたそうですが、お客さんの反応などはいかがですか?
河野:週2営業ということもあるのかもしれませんが、リピーターさんが多いですね。量はしっかり食べるけど、もやしでカロリーは控えようみたいな感じで。
──3食もやしだけだと栄養が偏りそうですけど、1食だけ置き換えるならそんなこともなさそうですね。
河野:あとは、高円寺という土地柄なのか、役者さんとかいろいろな職業の方がいらっしゃるので、お客さんのお話を聞いているとボクシングや日常の過ごし方などに刺激やヒントをいただくことが多いですね。
怪我をして以来、流れが良くないなとさまざまな局面で感じることがありました。ここを始めたのもそうですし、練習方法を変えてみたり、とにかくいろいろなことをプラスに考えて新しいことに挑戦しようと思っています。
──現役でボクサーを続けていくうえで、スポンサーを探したりアルバイトなどを掛け持ちしたりご苦労もあるかと思いますが……。
河野:ボクサーって、他に仕事を持ちながら続けているという人がほとんどなんです。そのなかで勝って、結果を出した人間だけが残れる世界です。スポンサーをつけるというよりは、どんなに厳しい環境でも勝って上に上がらなければいけません。とにかく一つひとつ積み上げて強くなるしかないと思っています。
──厳しい世界ですね。さきほどお話にあったようにお店で人と接する機会が増えたことで……。
河野:そうですね! いろいろな刺激をいただいて頑張れています。先日、尊敬している格闘家の先輩も来てくださったりして。そういう方と会うだけでも力が湧いてくるんです。最近は気持ち的にもいい流れを感じています。
(写真提供:富永泰弘さん)
──先ほど他のお客さんに、ここが終わってからジムで練習、とおっしゃっていましたが。
河野:はい。野方のジムで今日もこれから練習です。ジムは何もなければ日曜以外は毎日行っています。
──そうですか。怪我が完治して復帰戦が決まったら応援に行きたいですね!
河野:ありがとうございます! ぜひ!
店主の試合を応援したい
取材前は現役ボクサーということで強面の人だったらどうしようかと思っていましたが、実際にお話してみると河野さんは人懐っこい笑顔が素敵な方でした。
日々の練習に打ち込む生真面目な姿勢も推せますね~。
そして、なんと執筆中に念願の復帰戦が決定したとの一報が。
日時は4月3日(金)、会場は後楽園ホール(水道橋駅)の予定。
顎を骨折手術して1年ぶりの復帰戦。
頑張れ河野さん!
お店情報
円蔵食堂(夜の営業は「JAPUB円蔵」)
住所:東京都杉並区高円寺北2-22-6
電話:03-5356-9199
営業時間:水曜日・金曜日のランチのみ営業11:00~17:00(16:30 L.O)
書いた人:BLObPUS
オリジナルキャラクターの怪獣フィギュア「BLObPUS(ブロッパス)」をリリースしたのをきっかけに活動開始。国内外のフィギュアイベントに参加しつつ中央線沿線を飲み歩く怪獣おじさん。蓄光素体にメタリックカラーを基調とした独特の色使いで彩色にも定評がある。