# ジェンダー

「ミソジニー」って最近よく聞くけど、結局どういう意味ですか?

それは単なる「女性嫌悪」なのか
江原 由美子 プロフィール

「女性の隷属」を維持するもの

そこから著者は、ミソジニーを、「素朴理解」ではなく、「家父長制秩序を支える機能をもつ」「人を支配するためのシステムの一形態」として理解するべきだと主張する。

著者によれば、家父長制とは、社会や時代によってさまざまに異なった制度であるものの、「女性という女性、またはほとんどの女性を、その内部の特定の男性あるいは男性たちとの関係において隷属的な立場に置く」ような制度であるという。

特定の男性(例えば父や夫)との関係において隷属的な立場に置かれるにすぎない場合でも、女性は男性に対して不利な立場におかれるので、その社会で男性は女性よりも優位な地位を占めるようになる。このような家父長制秩序を支える社会統制機能こそ、ミソジニーの機能であり、それは家父長制という女性を支配するシステムの重要な構成要素なのだと、著者は言う。

〔PHOTO〕iStock
 

この概念変更の利点は、まず、先に挙げた無差別殺人のような例を、ミソジニーの典型例として解釈可能にすることである。概念変更によって、ミソジニーは、すべての女性に対する一律的な嫌悪や蔑視の反応である必要がなくなる。

変更後の概念では、ミソジニーは、家父長制秩序を維持する機能を持つ制裁行為として位置付けられる。つまり、家父長制に抵抗する女性やそこから逸脱しようとする女性に対するネガティブな制裁行為(いわゆるムチ)こそが、ミソジニーだということになる。

しかし定義上、ミソジニーはネガティブな制裁だけでなくポジティブな評価(いわゆるアメ)も含むことになる。家父長制秩序に従っている女性たちを殊更に称賛したり優遇したりするポジティブな評価は、そうしない女性たちに対するネガティブな評価に、容易に反転するからである。つまり、ミソジニーを著者のように定義すれば、「素朴理解」の場合のように女性全般に対する同じ反応であることを、要件とはしなくなる。