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Today'sティーガー戦車! 作者:むらむら

東部戦線 ロストフの街 1942年12月~

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第2話 デビュー戦?

 ウウウウゥゥー!!と、甲高いサイレンが駅周辺に鳴り響く。


 貨物ターミナル駅はパニックとなった。強敵のT-34戦車の大軍が町の東側から向かって来ていたのだ。

 駅ぞいの道路を、わーっ!と人と車両が逃げていく。


「ハンス隊長!早く逃げましょう!」

 オットーは血相変えてハンスに訴えた。

「この戦車を置いてはいけん、エンジンを始動しろ!早く貨車から降ろすのだ!」


 その言葉にはその場にいた全員が目を剥いた。


「ハンス中尉!」と叫んだのはカーミラ少尉だ。

「無茶ですハンス中尉!だいたいまだ操縦訓練すらしてないじゃないですか!」

「じゃあアンタがやれカーミラ少尉!」

「……へ、私?」

 カーミラ少尉はポカンとする。


 ドカアアアン!と、駅舎の近くで榴弾が爆発する。

 まだかなりの距離がある、混乱させるための威嚇射撃だ。


「急げカーミラ少尉!ともかくエンジンをかけろ!!」

 と、ハンスはカーミラをティーガーの上に、ほとんど放り投げるように押し上げた。

「は、はい!?」

「オットー!砲塔に入れ!戦闘準備だ!おい、そこのお前!」

 ハンス隊長は、近くにいた隊員を適当に指差した。

「お前は装填手、そしてお前!コラ逃げるな!お前は無線手だ!さっさと乗車せんかい!逃げたらシベリア送ってやるぞ!他のやつは角材を全部スロープに投げこめ!」


 カーミラは狭苦しいドライバー席に渋々入り込む。

 シートに座ると、目の前には自動車と同様の丸いハンドルと、小さなのぞき窓。右側に計器類と電装系スイッチ類、そのすぐ下にはシフトレバーが2本。

 上のは変速レバーで、前後に動かすタイプだ。その下にあるのは前後進切り替えレバー。


 足元には左からクラッチ、ブレーキ、アクセルペダルとなる。自動車と同じ配置だ。

 シートの横には左右クローラーを別々に制動するためのブレーキレバーが付いている。さらに左にはハンドブレーキレバーがある。



 カーミラは計器盤を睨み付けた。

 初期操作用に始動手順のメモが張り付けてあるが、意外とやることがが多い。


「えーと、えーとまずは、で、電源、電源マスタースイッチ?場所は……車内後部?」

カーミラは後ろを振り向く。

「オットー君!……だったよね?後ろの方に電源マスタースイッチとかいうのがあるはずだから、探してちょうだい!」

「電源スイッチ?了解しました!」


「次は、燃料コック!……これも後部ね!オットー君!電源スイッチの次は燃料コックもお願い、見つけたら開いてちょうだい!」

「了解です、電源スイッチは見つけましたよ、入れていいんですか?」

「入れて!」


 またメモに目を戻す。

「次は、イグニッションキーを差して回す」

 計器盤にキーというか工具のようなものを差し込んで回す。キーは取り外す。


「油圧バイパスをキャブレター充填に切り替え……また後ろ、オットー君!オイルの切替レバー探して!」

「またですか?オイルですね、了解!」


「燃料手動ポンプを使ってマニホールドに圧送……どこかしら」


 計器類の下や、シートの横などをもぞもぞ探していると、後ろからオットーが報告を上げてくる。


「オイルバイパス切替レバーでいいんですよね?開きましたよ」

「ええ、ありがと!次はね、どっかに手動の燃料ポンプみたいのないかしら!?」

「始動用とか書いているのがありますよ?」

「それポンプして!」

「何回ぐらいですか?」

「分からないわ!だいたいよ!」

「ええっ!そんなんで大丈夫なんですか!?」


オットーは後部にある四角いボックスのポンプレバーを上下に動かす。

 ハンスはだんだんと焦れてきていた。


「カーミラ少尉!まだエンジンはかからんのか!?」

「もう少しです!……ええっと、ニュートラルよし、ブレーキよし、クラッチよし、えっと、点火装置の準備操作を3回」

左下にあるそれらしいポンプレバーを、3回カチカチと動かす。


「次に、始動ボタンを押す……」

カーミラは計器盤右側の、大きめなスイッチに指をあてる。


「え、エンジン始動します!」

「待ちくたびれたぞ」


カチンッ……………



 エンジンはウンともスンとも言わなかった。


「ば、バババッテリーが上がってます!車外始動しなくっちゃ!」

「落ち付いてくださいカーミラ少尉、4号戦車と一緒で手回し始動ですか?」

「そうです!」

「だそうですハンス隊長!」


 ハンスはハッチから顔を出して叫んだ。

「おい!二人来い!車外始動だ!」


 スロープに角材を置いて、いざ逃げようとしてた2人が呼び止められる。



 その2人がティーガーの後部に取り付く。が、なかなか出来たという声が聞こえない。

「どうだ!?後部のどっかに回すところがあるはずだろ!」

「見つけてクランク差したんですが、なんか安定しなくてうまく回せないんですよ!」

 ハンスは車内でも叫んだ。

「カーミラ少尉!どういうことだ!?」

「ちょっと待ってください」

 カーミラは運転席で取扱説明書を開いていた。

 まごまごしている間に、敵戦車は街に迫ってきている。


「あ!えーっと、なんか金属板?みたいなものを穴に取り付けて、その上からクランク差すそうです!」

 ハンスがまたまたハッチから顔を出す。

「金属板っぽいのを固定してからクランクだ!探せ!」

「もう見つけてフライホイールを回しています!すごく重いですよこれ!」


 フライホイールの回転数が上がるにつれて、車内にもキーン!と響く音が聞こえてくる。


「接続レバー、入れますよ!」

 外の2人が汗だくの顔を見せる。

 ハンスがその言葉にうなずき、車内に怒鳴った。

「カーミラ少尉、接続するぞ!イグニション準備しろ!」

「準備よし!」

「いいぞ!接続しろ!」


 後部の慣性始動装置接続レバーを押し込むことで、勢いよく回転しているフライホイールが接続され、エンジンがゴウンゴウンと回り出す。

「カーミラ!イグニションだ!」

「はい!」


 カチッ、とイグニションキーをONにする。


 ゴンゴンゴン、ゴン、ゴン……ゴン…………

 エンジンは点火される様子が無いまま、回転を止めてしまう。




 マイバッハHL230エンジンの燃料混合器キャブレターは、焼き付き防止のための油圧式燃料弁がついているので、十分な油圧がないと燃料が供給されないようになっていた。

 要するに、手動始動マニュアル・イグニションの場合は、フライホイールを2、3度回して接続を繰り返し、油圧を高めてからあらためて始動しないとエンジンはかからない。





「カーミラ少尉!」

「知りませんよ!私、戦車のエンジンかけるの初めてなんですよっ!」


 車内がシン、と一瞬静まり返った。


「はあああああああっ!?」

「カーミラ少尉!!あんた引き渡し係だろ?なんで操作法しらないんだ!?」

「……ここにマニュアルが―」


 ガガガアアアアアンッ!


 砲塔に徹甲弾が直撃した。貫通はしなかったが、車体は巨人にでもブン殴られたような衝撃に叩かれ、中の全員が、なにかしらに頭をぶつけた。


「いてて、ハンス隊長!敵が接近してきます!」

「くそっ、ええい手動で回して撃て!後ろの二人!もういいから退避しろ!こうなったらここで粘るのみ!初弾は榴弾だ!」


「榴弾ですか!?」

「目くらましだ!その後からは徹甲弾を入れろ!」


 オットーとハンスは人力用のハンドルを勢いよくグルグル回すが、砲塔はものすごくノロノロとしか回らない。


「動かさないなら、私、逃げていいですか?」

「そのクラッぺから外を見てみるといい、今出たら機関銃の的だぞい」


 カーミラはドライバー用ののぞき窓から外を見てみる。

 街の入り口が遠くに見え、そこに黒いモノが動いているのが見えた。戦車だ。


「はあはあ……照準よし!」

「撃て!」

 オットーは撃発レバーを引いた。しかし撃針が落ちず、大砲は静かなままだ。


「オットー!何してる!?早く撃たんか!!」

「射撃できません!?なんで!?」


 オットーは何度も引き金を引いてみたが、大砲は何の反応も示さない。

 それもそのはずで、大砲の引き金はバッテリーに依存した電気式だった。バッテリーがイカれているため動くはずもない。


「ならば非常撃発装置ショックジェネレーターを使え!」

「それドコにあるんです!?」

 誰も、その装置の位置を知らなかった。その場所はハンス隊長の座る、車長席の左側にあったのだが、もう探している余裕もなかった。


「ぬうう……じゃあ、機関銃でもなんでも撃ちまくって踏ん張るだけだ!」


 ハンスたちは、機関銃を撃ちまくり、砲塔を動かし続け、そして砲弾の直撃を何発も受けた。


 連邦軍は、いくら撃ちこんでも沈黙しないこの謎戦車に驚いて、近づいてこなかった。視界の悪いT-34は、この戦車が大砲を撃ってこないことに気がつかなかったのだ。


 連邦軍は奇襲が頓挫したため、すぐに郊外の森へと撤退していった。

※燃料コック操作に『空気抜き弁切替』もあります。

※オイルはバイパス切替をしていましたが、オイルクーラーを迂回しているだけなのでキャブレターに優先して向かっているわけではありません。なので簡単には油圧が上がらないのです(戻し忘れるとオーバーヒートの原因)

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