みなみとれいちゃんの甘い生活。
ツンデレしてないれいちゃんです。
ここのところ何かと時間に余裕があって。とは言っても旅行に行けるほどの余裕ではなく、日々の生活がちょびっとのんびりしてるぐらいなんだけど。
今日は整体に行って、帰りに服でも…と、ちらっとお店に寄ったら思いの外良いものがあってソッコー買っちゃったり。
その後は食材を買い足しにスーパーに寄って、皮の模様が可愛かったから鯖なんか買っちゃったりして、塩振って焼こうかなって思ったけど、人のお家で勝手に魚焼いて家中ナマ臭くなっちゃって怒られるのも嫌だし、煮るなら臭くないかなとお母さんに電話して作り方を聞いたりして。
味見してみたら、お母さんのとまったく同じ味に出来てたから我ながら驚いた。
他にも冷蔵庫の中のあらゆる野菜を入れたテキトウな味噌汁も作って……あ、これは野菜食べないとツレが心配するから頑張りました。
それから乾燥終わった洗濯物を取り出してストレッチしながら畳んで、気が付いたら日が暮れててお腹空いたなーって感じて、炊いといたご飯をお茶碗に山盛りにして、一人分の夕飯をテーブルに用意して。
二人分じゃないところがちょっとつまんないけど仕方ない。
家主はお稽古が夜中まで続いてて、今夜もきっと遅いから先に一人で食べちゃうけど。
彼女には明日食べさせることにしよう。
「いただきます」
いつもいる話し相手がいないと寂しいなぁ。
お行儀悪いけど、テレビつけちゃう。
いつもならテレビなんて観ることのないこの時間、やってるのは主婦の時短の技がどうとか、そんなバラエティ番組だった。
お休みの日、何気なく家事を一人でこなしてみて思う。
もし、私が今の仕事を辞めて、毎日こうして家にいることになったら。
愛する人のいない大半の時間を一人で過ごすことになったら。
え、ちょっと。耐えられないかもしれない。
15歳から今まで、学校も職場もずっと一緒。
お付き合いするようになってからはお休みの日まで一緒にいるようになった。
その生活から急に自分だけが切り離されたら、一体どうやって……
あんまり実感が沸かなくてボンヤリしてたけど、なんだか急に深刻な問題となって我が身に降りかかってきた。
私が一人、先に退団したら……毎日これ?
昼間だけさゆみさんのとこにいるってことは……出来ないよね!?さゆみさんお忙しいもんね!?
いや、私がお世話係兼マネージャーとしてついて回るってのはどうかな!?てか、そもそもそんな大事な仕事、私やらせてもらえないか。
いや待てよ、もしかしてその頃にはみなみさんがお世話係を必要とするような立場になってる可能性もあるわけで……
んん?私、もっと料理のレパートリーを増やしといた方がいいんじゃないか?
お料理得意な娘役さん見繕って事前に修行しとく?
つかみなみが好きな物はみなみから習った方が早いよな。うん、絶対そうだよな。
明日はお稽古お休みだから早速ご本人様から教えてもらおう!
朝起きたら二人並んで散歩がてら買い物に行って、ああでもないこうでもない言いながらぽいぽいカゴに放り込んで「余計なもん買い過ぎや」って叱られて……あ、でもこんな男だか女だか分かんないデカイ2人組じゃ目立つだろうから、どっちかが女装したりする?いつも私だと不公平だから明日こそはジャンケンで決める!
そんで帰りは絶対みなみが荷物持ってくれちゃうから、私もちゃんと運ぶもんね。
とか色々考えながらご飯食べてたら、突然玄関の鍵が開いてビックリして飛び上がった。
「ただいまー」
玄関ホールからみなみの明るい声が聞こえる。
みなみ、帰ってきた!
途端に嬉しくなって、慌てて箸を置いて出迎えに飛び出した。
「おかえり!どうしたの?予定より早くない?」
「そやねん、ほんま急に終わってさ」
玄関の上がりに荷物を置いて、スニーカーを脱いでるところだった。振り返ってこちらを見つめると、いったん動きが止まって、薄くて形のいい唇が持ち上がってニコッと笑う。
「1日会わないと美人度が増すな」
映画みたいに歯の浮く台詞をさらりと云ってのける。私みたいなのに言う台詞じゃないでしょ。
呆れてぽかんと口を開けると、ふっふと笑い声を漏らして両腕を広げた。
「抱かして」
みなみってほんとに日本人?
言うこととジェスチャーが日本離れしてる。
なんか恥ずかしいからちょっとだけ近付いたら、二の腕を掴まれて引き寄せられた。胸の中に抱き締められて、心臓がどきりと波打つ。気付かれないように息を潜めてると、唇の端っこのところに軽くキスされた。
「ただいま、れいちゃん」
「お…かえりなさい」
至近距離で見つめ合う。
みなみが文字通り目を無くして笑うから、可笑しくなって私も笑った。
「や!なんか旨そうなもん食うとる!魚なんて珍しなー?」
「うん。1日何もしてなかったし肉よりこっちの方が恋しくなって」
明日食べてもらおうと思ってた鯖ちゃん。今日出せて良かった。
テーブルについたみなみの前に、料理の乗ったお皿を並べると幸せそうにニコニコしてる。
「これ醤油味?私、味噌煮しか食べたことなかったわ」
「え、そうなの?うちは醤油のしか出なかった」
「れいのお袋の味や?甘じょっぱくておいし」
「よかった」
お腹が空いてたのか、結構な勢いでぱくぱく食べてる姿に愛しさを覚える。
みなみって体大きい割に可愛いとこあるな。
「あ!帰りにタコ焼き買うてきてん!食べる?」
言ったと思ったらサッと姿を消して、次の瞬間食卓にタコ焼きの透明なパックが乗ってた。動きが無駄に速い。
「大阪ってタコ焼きでもご飯食べんの?」
「お好みでは食うけど……でもまぁご飯に合うよな!」
そっか。おかずが無い時はこういうのでもいいんだ?
「ねぇ。明日さ、一緒にご飯作ろ?」
「ええよ!……可愛い嫁はんやな」
みなみはまた目が無くなるほどニッコリ笑って、手を伸ばして私の口元を拭った。
「ソース付いてるし」
言いながら親指をぺろって舐めてる。
「今夜は一緒に風呂も入るし、一緒のベッドで寝るし、明日は買い物行って料理して、ずっとずっと一緒や。やった!」
子どもみたいに手放しで喜ぶから、きゅっと締め付けられるように、私の胸も喜んだ。
「やったね!」