第8回 AMED審議会で突き付けられた「信頼」への問い 

 

 

日経バイオテクの有料会員記事、「「大坪氏問題」でAMED末松理事長が怒りの暴露」が2月4日から3回に分けて掲載された。今回の本ブログ記事、また有料記事のパクリかと思われたかもしれない。残念ながら(?)そうではない。日経バイオテクの記事も読み応えがあるが、私としては書きたいことが取り上げられていないので、あえて長文の記事をアップすることにした。日経バイオテク記事との比較、評価は読者にお任せしよう。

 

今回は、会議のやりとりをそのまま掲載している部分が多く、非常に長文となっていることを予めご承知おきいただきたい。しかし逆に生々しさ、息遣いを感じ取っていただけることは間違いない。

 

令和2年の仕事始めの週、1月9日に開催された第10回日本医療研究開発機構審議会でのやりとりが激しい。

 

その前に、略してAMED審議会と呼ばれるこの会議の位置づけを確認しておく。この審議会は、独立行政法人通則法に基づいて内閣府に設置され、AMEDの法人としての評価や中長期目標に関して審議することを役割としている。

 

今回は、AMEDの第2期中長期計画期間が令和2年度からスタートするにあたり、政府が示す中長期目標に関する議論が中心であった。AMEDの中長期目標は、当然、上位政策である健康・医療戦略や医療分野研究開発推進計画に基づくものであるため、議論はまず次期戦略と次期推進計画の案の説明から始まった。

 

事務局が両案の報告を終えた直後、その発言はなされた。有識者委員である瀧澤美奈子委員(科学ジャーナリスト)が真っ先に挙手したのだ。議事録で再現的にみてみよう。

 

◆瀧澤委員 今日、このような形で通常のお話、議題が始まるというのを正直私は思っておりませんでしたので少々驚いております。というのは、12月に2回にわたって報道された『週刊文春』の内容に関して非常に懸念を抱いております。個人的にプライベートなところでどういう関係があるというのを私は興味がございませんが、今御紹介いただきました健康・医療戦略の推進体制、1ページ目ですけれども、これが本当にこのような形になっているのかどうかということについて、しっかりとした説明をいただきたいと思います。『週刊文春』の内容によりますと、文科省の公開の有識者会議で評価され、継続が決まったiPSのストック事業が一部の官僚の考えでストップされそうになったと、それが政治的にもとに戻されたわけですけれども、こんな手続が許されているなら、今日のこのような会議も全く無意味ではないかと思います。それから、この記事は2回にわたっていろいろと書かれておりますけれども、総じて、官邸主導の御旗を振りかざして予算や人事を握って一部の人間が行政をゆがめているのではないかという疑いが国民の間で今、広がっております。その説明責任をしっかり果たしていただかないと、この会議自体も全く無駄なものになると思います。個人的には、私、これを自分で取材しているわけではございませんで、この週刊文春の内容を読んで知っていることが全てでございますので、実はこの記事を読んだときに本当に我が目を疑いました。大坪さんについては今まで個人的にもお話をさせていただいておりまして、まことに信じられないというのが率直なところですので、このままですと、一方的に大坪さんが悪者になっていると思うのですね。実際のところは本当にどうなのかというのを国民の皆さん、非常に関心を持っておられると思いますので、ぜひその点を御説明いただきたいと思います。以上です。

 

この発言に対して、対面に座っていた大坪次長(厚労省審議官)は顔色一つ変えることなく、しかし一言も発することはなかった。

 

◆田辺会長 基本的にはこれは報告事項でございますので、かつ、こちらのもともとのほうの戦略、それから2期案、研究開発推進計画というのを受けて我々が議論するという組み立てになっておりますので、余り議論には適さないなとは思うのでありますが、ただ、我々がこれを受けてそれに対応する計画をつくるというときに、余り疑義があってそれを行うということもよろしくないかと思いますので、この体制、それから、その中でどういう議論があったということを、必要最小限かと思いますけれども、御説明いただけるようでしたらどうぞということでございます。特に申し上げることがないというのでしたら、それはそれで結構でございます。では、よろしくお願いします。

 

田辺会長の議事進行の長々とした発言はわかりにくいが、要は脱線しないでほしい、脱線するにしても最小限にしてほしい、ということであろう。徹頭徹尾、委員側ではなく、事務局側に立って進行をする田辺会長。さすがに無視はできずに戦略室に発言をうながす。もちろん大坪氏は答えない。答えられないのだ。盟友の渡辺次長が代わりにマイクのスイッチを入れる。

 

◆渡辺次長 今、会長御指摘のとおりでございまして、本日この場といたしましては、AMEDの審議会として、AMEDの中期目標について御議論いただく場でございますから、その議事次第の中で御議論いただきたいということでございますけれども、その大前提として、委員というよりは多分、科学ジャーナリストとしての瀧澤さんのお立場かと思いますけれども、疑義、御意見があるということについては承りましたので、必要な場で御説明を差し上げたいと思いますけれども、端的に申し上げれば、この推進体制の中で必要な手続を行っているところですし、率直に申し上げて、予算のやりとりは一々つまびらかにしているところではございませんけれども、最終的に政治の介入ということではなく、予算は当初、文科省が要求しているとおりに政府原案、まだ国会が始まっていませんので原案の状況ですけれども、そのようになっております。ただ、その中で一度やると決まったからずっとやればいいということではなくて、私どもとして予算のヒアリングにおいても必要な進捗、それから、どういうことになっているのか、無駄がないかということも含めてしっかりお聞きしているのは、職務として当然のことをしているということだけでございます。ということで、すみませんが、会長、議事のほうをよろしくお願いいたします。

 

◆田辺会長 よろしゅうございますか。いろいろジャーナリスト的な不満のほうはわかりますけれども、この審議会としての役割。

 

ジャーナリスト的な不満とは何であろうか。意味不明である。瀧澤委員は、仕事をしていく上で大前提となる基本的な信頼関係という普遍的な事柄について問うたのだ。言い換えれば、「あなたを信頼して良いのでしょうか」という根本的な問いだ。それを「不満」と一蹴する田辺会長。(田辺会長は信頼関係はなくても仕事はできるのだろうか。)瀧澤委員は引かない。

 

◆瀧澤委員 恐らく私だけでなく、ここにいらっしゃる先生方も同じような思いを抱いているのではないかなと。私たちがここに来ているのは、AMEDがよくなるように、また、健康・医療戦略推進体制がよくなるようにということを願って、皆さん忙しい中で時間を割いて来ていると思いますので、基本的には応援団なのですね。ですから、そういう気持ちを酌んでいただいて、応援する気持ちが逆方向に行かないようにしっかりと説明をしていただければなと思います。よろしくお願いいたします。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。この点はここでとどめさせていただきたいと存じます。次に、議事の次のことで、第1期の中長期目標及び評価軸の変更につきまして、事務局のほうから説明をお願いいたします。では、よろしくお願いいたします。

 

田辺会長は最初の波乱をなんとか乗り切ったように見えた。議事は進んでいく。各委員が発言・質問し、事務局の考え方を聴取していく。その途中、委員の発言に答える形で、AMEDの末松理事長が挙手する。

 

◆田辺会長 では、末松理事長、お願いいたします。

◆末松理事長 (楠岡委員から今、御質問のあった点ですけれども、)事実を申し上げたいと思っていることがございまして、昨年の7月以降、実質的にはそれより前から始まっていたかもしれませんけれども、大坪氏が次長になられてから、我々のオートノミーは完全に消失しております。それはどういうことかといいますと、我々は文科、厚労、経産、それから今は総務省とございますけれども、予算のマネジメントとか一つ一つの事業の運営のやり方に関して、健康・医療戦略室は基本的にマイクロマネジメントをやられてきたということであります。マクロ的な戦略の策定とかにはほとんど、実際に今日の健康・医療戦略等を見ていただくとわかるのですが、健康・医療というのは領域が大きいので、具体的に健康・医療戦略室がどういうやり方をしてきたか。先ほど冒頭、瀧澤委員から非常に重要な御指摘がありましたけれども、事はiPS細胞ストック事業の問題だけではございません。現在、まだオンゴーイングのところもあるかと思うのですけれども、全ゲノム解析のプロジェクトというのがございまして、AMEDでマネジメントさせていただいている理事長執行型の調整費というのがございますが、令和元年度の前半戦の調整費、これは大幅に削られまして、この削られた調整費がなぜ削られたかというのは置いておきまして、それを全部、トップダウン型の調整費というところに組み入れております。これを後半戦の調整費の予算として執行する予定でおります。細かい事情は御説明しませんけれども、今このトップダウン調整費のほうはストップ状態になっております。何が問題かといいますと、健康・医療戦略室のイニシアチブのおかげでAMED発足してから最初の3年間あるいは3年半は非常に順調な運営ができたというふうに自分自身でも思いがございますけれども、各省の予算のマネジメントに関する相談等は全部健康・医療戦略室を通してやるようにということと、担当大臣とか政治家の方々とコンタクトをとるなということを大坪次長から言われております。その証拠も残っております。それから、これは情報の一元化という意味では官僚的にはよいことなのかもしれませんけれども、結果何がおきたかといいますと、iPSのストック事業でも、それからゲノム関連のトップダウン型調整費、80億ぐらいございます。そのうちのかなりの部分はがんゲノムあるいは認知症、こういったところのゲノム解析に使われる予定でございます。私がここで明確に明言しておきたいことは、これらのお金は、今のところ我々の意思は全く入っておりません。トップダウン型ですので、健康・医療戦略室が決めております。しかし、これがいざ執行されるということになりますと、我々に執行責任が当然及ぶわけです。健康・医療戦略室のスタンスというのは、自分たちが決定をするけれども、執行によって何か問題が起きたときはAMEDが全部責任をとるのだということを当時の大坪次長はおっしゃっております。そのような状況下で、令和元年度の後半戦の調整費がどういう運用の仕方をされたかということを次に申し上げますと、その80億前後のお金がですね。

 

◆田辺会長 まず第1期のこの評価軸の変更についての議論であります。恐らく第2期のところは第1期の反省を込めてどうするかというのを議論してまいりたいと思いますので、その折にお願いできればと思います。

 

◆末松理事長 必ず発言をさせていただきますので、よろしくお願いします。非常に重要なことですので。

 

末松理事長は、戦略室のマネジメント、そしてトップダウン型調整費の問題を極めてストレートに提起したのだ。調整費の議論はまさに今年度、第1期の最終年度に起きている問題であって、この議題でこそ議論するべき案件であるが、田辺会長は波静かに、とにかく議論をまとめよう、委員の了承を取り付けようと必死である。

 

続いて、AMEDの第2期の中長期目標案及び評価軸が議論された。各委員から発言・質問が出る。事務局が答える。何回往復しただろうか。再び末松理事長が手を挙げる。田辺会長は内心穏やかでないが指名せざるを得ない。

 

◆田辺会長 では、末松理事長、お願いいたします。

◆末松理事長 1期目の反省も込めてということなのですけれども、AMED審議会の委員の先生方にどうしても理解しておいていただきたいのは、健康・医療戦略室は我々に対するガバナンスを発揮しているユニットであることはよく御存じだと思うのですけれども、これは具体的な例として、今後、次期に向けて同じようなことが起こるととんでもないことになるので、どうしてもここで申し上げておきたかったわけなのですが、先ほどのトップダウンの決定というのがどういう意味を持つのかという具体的なわかりやすい例をお話しいたします。もう繰り返しになりますので省略しますけれども、調整費というのがございます。調整費には2つのメカニズムがあって、理事長裁量経費と呼ばれる経費とトップダウン型の経費というのがございます。トップダウン型の調整費というのは感染症の突然の対応とか、それから喫緊の問題として国としてできるだけ早く進めなければいけないプロジェクトがあって、それを政府主導で行っていく。そういうときに調整費を使うというふうに明確に文章化されております。今回、その後半戦の調整費、先ほどちょっと申し上げた80数億のお金、多くはゲノム関連の調整費として使われますけれども、我々は予算が執行された後、課題の管理の責任を担うことになっております。現時点までは我々はディスカッションには一切参加しておりません。これはトップダウンですので、そのような仕組みになっています。このような仕組みはルールの範囲内ではあるけれども、AMEDから見ても極めて不透明な決定プロセスで中身が決まっております。私、熟読したわけではありませんけれども、厚労省は全ゲノム解析実行計画というのをたしか先月策定していただいております。今回のトップダウン型調整費の大半がそこにつぎ込まれて、先行的に進めるということでゲノム医療に道を開くという意味では非常に重要なものというふうに理解をしております。しかしながら、健康・医療戦略室の意思決定、トップダウン型の意思決定のプロセスというのは、明確に申し上げますと、大坪次長、現在は非常勤のAMED担当室長ということですけれども、かつ厚労大臣の審議官をやられております。そのような状況下で、研究者コミュニティーから見ると、研究費を応募した側と審査した側が同じになっているわけです。利益相反状態です。この利益相反状態で恣意的な省益誘導が行われたというふうに言われても反論のしようがないと思います。こういったことは、例えばピアレビューと透明性の担保ということが研究費を決める上で一番重要な2つの柱なわけですけれども、iPSのストック事業しかり、それから、これから動くか動かないか、まだ少し時間がかかるけれども、ゲノムの医療の資金、国民の税金です。それを頭数をそろえてゲノムを調べたり、あるいは調整費ですので、どんなに延長しても令和3年3月、つまりあと1年ちょっとしか執行できないお金を80数億一気に使わなければいけない。こういう無理なことを利益相反状態で決定されたということは、一個でもそういう例があると、これからiPS、ゲノム、ほかの科学技術の領域にも大きな悪影響を及ぼすというふうに懸念しております。こういうことはオープンなところでしっかり議論がされるべきであって、それでAMED審議会で1期目の教訓として、事実として申し上げているということでございます。そういったことが二度と起きないようにしていただきたいというのが私の意見でございます。

 

再び、調整費を具体例に、意思決定プロセスの透明性確保とピアレビューの重要性の指摘だ。やはり大坪次長は答えない。盟友、渡辺次長が答える。

 

◆渡辺次長 本日、繰り返しますが、AMEDの中長期目標を御議論いただく場でございますので、余り本論に外れたことは申し上げたくないのですが、随分事実に関する誤認が含まれてございますので、簡単に御説明申し上げます。トップダウン型経費というのはそもそも決められるカテゴリーが決まっておりますが、調整費の配分に係る考え方は健康医療戦略本部、これは全閣僚が入っている場でございますが、そこの決定に基づいて、内閣府にもともとSIPだとかお聞き及びになったことがあるかもしれませんけれども、そこに含まれている予算の中の一部を175億円分なのですが移しかえ、決められた課題を関係省庁から補助金として再度AMEDに交付して、AMEDが補助金を一体的に執行するということでございます。その推進本部によります機動的な予算配分、これがトップダウン型経費なのですけれども、本部長または副本部長、これは総理ですとか担当大臣になるわけなのですが、配分の案を策定して、その本部に諮って決めるということで、手続においては、では役人しか入っていないのではないかとか、それこそ利益相反の疑いもあるということも御懸念があろうかと思いますが、それに関してはゲノム協議会を10月23日と12月24日、12月24日は報告になりますので10月23日に決めて皆様にお諮りして、議論していただいております。そのゲノム医療協議会の構成員の中には、AMEDのプログラムディレクターも入っております。これは委員として入っております。それから、御専門の方としては、ゲノム医療協議会ですから、ゲノム医療のゲノムサイエンス的な面、ライフサイエンス的な面、データサイエンス的な面、それから倫理的な面、それぞれの面から御参画いただいている委員と関係省庁、そして参与といたしまして、健康・医療戦略の参与は何名かいらっしゃるのですけれども、自治医科大の永井先生、がんセンターの中釜理事長も参与としてのお立場で、いかなる解析を、あるいはどういうトップダウン経費の使い方をするのが適切かというところで議論していただいた上で、室長は和泉補佐官ですね。室長を通して最終的に健康・医療推進戦略本部で決定しているものでございます。そして、その過程におきましては、私どもとしても専門家の方々の御意見をお伺いしているところでございますので、最終段階なり執行の段階になってAMEDに何かを押しつけるといったようなことは全くございませんし、提案の段階でも各省から御提案をいただいておりますということですので、すみませんが、多分そのあたりのところを詳細に御承知ではなくて御発言いただいたものだと思いますが、非常に簡単に申し上げましたので、少しややこしいところもございますけれども、ちょっと別なお金の流れをしているものでございますが、手続に沿って進めさせていただいておりますということを御説明申し上げます。返す返すも余り時間もなくなってまいりましたので、申し上げたいのが、AMEDの中期目標というのは、ガバナンスの中身をどうしていただくという御意見はもちろん承りますけれども、まずは目標の適切性について決めていただくのが本日の場でございますので、御審議のほどよろしくお願いいたします。

 

長々と説明して時間を取っておきながら、「余り時間もなくなってまいりましたので」とは白々しいが、渡辺次長が無意識にか、重要な証言をした形だ。「室長である和泉補佐官を通して」「最終的に健康・医療推進戦略本部で決定している」と。語るに落ちたとしか言いようがない。言わなくてもよいのに、わざわざ和泉補佐官を引き合いに出して、不透明な意思決定は補佐官が決めているから、ということである。間違った権威主義が蔓延っていることを明確に証言した。なお、いろいろな専門家の意見を聞いている、合意形成を図っているという渡辺次長の説明については、この後強弁であると指弾される。

 

瀧澤委員が割って入る。

 

◆瀧澤委員 目標の中身も当然大事なのですけれども、その基礎としてよって立つところはガバナンスだと思いますので、そこの議論は避けて通れないところかと思います。私、今御説明いただいた内容を全て理解したというふうに自分では感じておらないのですけれども、ゲノム医療協議会という委員会の題名からしまして、今の御説明でゲノムということで絞られているのかなと感じました。ですので、先ほどの理事長の御発言の内容で、ゲノムというのが最初から決まっていたというようなことは、それに沿っているのかなというふうに客観的な視点では感じたところです。私が誤解している点もあるかもしれませんけれども、どちらにせよ、AMEDと健康・医療戦略室が一体となって同じ方向を向いて国民のために仕えていただかなければ困りますので、特に健康・医療戦略室のほうが予算執行側なわけですから、懇切丁寧にコミュニケーションを図って齟齬がないようにしていただかないと、皆さんうまくやろうと思っているのに無駄なところに精力がそがれてしまって、うまくいくものもいかなくなるということですので、戦略室のほうが懇切丁寧に御説明いただくことが大事ではないかなと思います。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。議題の本体はこの中期目標でございますので、恐らく中期目標を受けて今度、AMEDさんのほうで中期計画を立てることになるのだろうと思います。ただ、ありていに申し上げて、協調と緊張関係という2つの側面と、もう一つ適切な分業という観点があって、それがうまくいかないと全体としてうまくいかないという側面がありますので、各いろいろ思うところはあろうかと思いますけれども、第2期の中期目標を受けての中期計画というものがよりよいものになるような知恵の出し方、コミュニケーションのとり方、役割分担の仕方等、ぜひともきちんとお考えいただければと思います。

 

議論を矮小化して収束させようとする田辺会長。瀧澤委員は、戦略室の司令塔としての仕事のやり方という重要な指摘をしているが、事務局に答えさせようともしない。もっとも戦略室から明確な答えがあるとも思えないが。

末松理事長がさらに手を挙げる。

 

◆末松理事長 渡辺さんから御説明がありましたけれども、私が大変驚愕しているのは、それだけの知識人とゲノムの専門家が集まりながら、非常に各論的なことで恐縮ですけれども、戦略室から提案されて厚労省で動かすという中にIRBがどのぐらい時間がかかるのか、そして残りの1年ちょっとで本当に終わるのか、アウトカムが5年後、6年後にならないとわからないプロジェクトがあるのはなぜなのか。そういったことは健康・医療戦略室から我々が調整費の提案をしたときに個々に御指摘いただいて、その範囲で今までやってきたものが、トップダウンになりますと何でもオーケーになるわけですね。そういう各論的なところをなぜ今ここで申し上げているかというと、不利益を得るのは患者さんですから、そこに引っかかる以上、AMEDは安易にトップダウンだからといってそのとおりのことを動かすということをやってはいけない組織だというふうに私は思っております。それに対するお答えはもう要らないのですけれども、それでこういうふうに申し上げているということでございます。

 

AMED担当室長でもある大坪次長がようやく口を開いた。しかし、指摘されたことには一切答えず、出席者の誰も要請も期待もしていない予算に関する事実関係を「補足」と称して長々と述べる。(その発言は掲載に値しないので省略するが、どれほど意味がないかに関心があれば内閣府HPの議事録で確認されたら良い。)打ち切りたい議論を時間切れで終息させたい時に役人がよく使う手である。そして予定の終了時間が来た。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。ほかに御意見等ございますでしょうか。よろしゅうございますか。では、どうもありがとうございました。AMEDの第2期中期目標に関する緊張感あふれる建設的な御議論をどうもありがとうございました。事務局のほうでは、本日いただいた御意見を踏まえて、いろいろな重要な指摘があったと私は考えておりますので、その点の検討をお願いしたいと存じます。

 

田辺会長は、会議を締めくくるにあたり「緊張感あふれる建設的な議論」と述べた。建設的かどうかは意見が分かれるかもしれないが、緊張感があふれたのは事実である。しかし「緊張感あふれる議論」で終わらせては問題は解決しない。「いろいろな重要な指摘」について事務局には検討の指示がされた形だ。どう検討されるかしっかり見極めねばならない。

 

末松理事長は、トップダウン型調整費を具体例として、意思決定のプロセスの不透明さやその内容が抱える問題について明確に指摘した。この点は自民党内でも問題になり、現時点で執行がストップされているのは、読者もご存じのとおりである。

 

AMED審議会は、令和2年の冒頭のタイミングで、日本の医療研究開発において解決すべき課題を浮き彫りにし、今年の行方を示唆したといえよう。全体の議論の詳細は、間もなく内閣府HPに掲載されるであろう議事録で確認できる。

https://www8.cao.go.jp/iryou/council/index.html

 

2月13日号の週刊文春では、和泉補佐官と大坪次長が海外出張を私物化していた新たな疑惑が報じられた。次回AMED審議会では、委員から指摘される前に、事務局から説明するべきだ。もっとも本来、信頼に重きを置くのであれば、会議を開く以前に、こうした報道された事案について、きちんと委員にも、国民にも説明するべきである。しかし、説明できないし、説明しようともしないであろう。そのこと自体、報道が事実であることの何よりの証明である。

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

「 第6回 調整費は機能しているか、機能させられるか 」 投稿に対し、

 

以下、追記である(1月30日)。

 

読者から驚くべき情報が寄せられた。

 

「貴重な予算を充てるべきでないところに充てようとし、充てるべき対策には充てないとなれば、健康・医療戦略室の責任問題にも発展しよう。今回の調整費の問題は本当に根が深い。」と書いたのだが、貴重な残額5.6憶円を国庫返納していたというのだ。驚くほかない。

 

新型コロナウイルス対策については、上記投稿後も日々事態が進展しており、国家的緊急事態となっている。政府が感染症法上の「指定感染症」、検疫法上の「検疫感染症」に指定する閣議決定を行ったのが1月28日。菅官房長官は閣議のあとの記者会見で「指定感染症に指定することで感染が疑われる人に対する入院や検査の実施について、実効性を持たせることが可能となり、感染の拡大防止に向けた対策に万全を期すことができる」と述べた。

 

官房長官が、「感染の拡大防止に向けた対策に万全を期す」、つまり感染の拡大防止のためにはあらゆることをやる、と宣言する一方で、トップダウン型調整費として、診断、治療ワクチン開発などに直接投入できるリソースが5億円以上あったにもかかわらず、国庫返納してしまったというのである。なんのためのトップダウン型調整費なのか。それにしても、この危機意識のなさ、責任感のなさ。

 

健康・医療戦略室の存在意義が疑われている。

 

 

 

 

第7回 和泉補佐官の消された写真と経歴

 

内閣官房のHPで不思議なことが起きている。(1月28日20時時点)

 

幹部紹介のページをご覧頂こう。

https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/kanbu/index.html

 

安倍総理、菅官房長官以下、内閣官房の幹部がずらりと紹介され、その下段に「内閣総理大臣補佐官紹介」があり、5人の総理補佐官の名前がある。

秋葉補佐官、木原補佐官、和泉補佐官、長谷川補佐官、今井補佐官の名前にリンクが張ってあり、なかには活動実績なども掲載している補佐官もいるが、少なくとも顔写真とともに略歴が全員掲載されてい・・・ない。和泉補佐官の紹介ページには名前と担当分野だけで、写真もプロフィールもなく、紹介の体をなしていない。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo/hosakan/izumi_hiroto.html

 

どうしたことか。補佐官であることは事実だが、それ以上は幹部として紹介したくない、というメッセージであろうか。

和泉補佐官のページの下に「第4次安倍第2次改造内閣 内閣総理補佐官名簿」があるのでそちらに飛んでみよう、上記5名の補佐官の名前がある(当然である)、全員の名前にリンクが張ってい・・・ない。和泉補佐官の名前にはリンクが張っていない。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo/sourihosakan.html

 

他の補佐官にはリンクが張ってあり、前述の各氏の紹介ページに行き着く。

やはり和泉補佐官については紹介したくない、ということなのか。

 

内閣官房のHPから完全削除されたのか。

「第4次安倍改造内閣 内閣総理大臣補佐官名簿」を見る。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo_b/sourihosakan.html

 

人物は同じではないが、和泉補佐官を含む5名の名前がある、全員の名前にリンクが張ってある。和泉補佐官の名前のリンクを見る。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo_b/hosakan/izumi_hiroto.html

 

立派な紹介ページがあるではないか。写真、プロフィール、学歴、職歴、著書まで掲載されている。

 

内閣官房はHPを通じて何を訴えているのだろうか。

 

ここから先は推測に過ぎないが、和泉補佐官をめぐって最近官邸にとって望ましくない報道が増えていることに対して、小手先で場当たり的な対応だが、和泉補佐官の露出を控えることにし、その一環として「内閣総理大臣補佐官紹介」から情報を削除したのだろう。が、そのやり方が姑息で、中途半端なものだったため、その痕跡を残してしまい、意図が透けて見えてしまった。

 

総理は、このような対応を取らざるを得ない事実に正面から向き合い、そもそも任命責任の重さに立ち返って、補佐官名簿から削除することを真剣に考えるべきではないだろうか。

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

 

第6回 調整費は機能しているか、機能させられるか

 

日経バイオテクに、医療分野の調整費に関する記事が掲載された。久保田文記者の手によるものである。以下、有料会員のみが読める記事であるが、公益に資するものとして全文を掲載することをご容赦いただきたい。

 

――ここから――

 

「2019年度医療分野の調整費が執行停止中、背景に一部官僚の独断? 

ゲノム・医療データ基盤の構築に向けた取り組みに疑義が浮上」 (2020.01.21 08:00)

 

 2019年11月、政府の健康・医療戦略推進本部が実行計画を決定した、医療分野の研究開発関連の調整費の執行が停止していることが、2019年1月20日までに本誌の取材で明らかになった。調整費のうち、約80億円が配分される予定だった、ゲノム・医療データ基盤の構築に向けた取り組みに疑義が生じているためだという。

 医療分野の研究開発関連の調整費とは、内閣府の予算に計上される科学技術イノベーション創造推進費(500億円)のうち、一部(175億円)から充当される予算。文部科学省、経済産業省、厚生労働省が予算計上しているいわゆる日本医療研究開発機構(AMED)対象経費とは切り分けられており、研究現場の状況・ニーズを踏まえ、省庁の枠にとらわれずに機動的かつ効率的に配分するとの考え方に基づき、健康・医療戦略推進本部が年度の途中、2回にわたって、どの事業に幾ら配分するかを決定する。健康・医療戦略推進本部がは、毎年6月ごろに第1回の調整費の実行計画を、11月ごろに第2回の調整費の実行計画を決定し、科学技術イノベーション創造推進費から関係省庁の予算に差し替えた上で、AMEDが進める事業などに補充される。

 今回、執行が停止していることが明らかになったのは、2019年度の第2回医療分野の研究開発関連の調整費である88億4000万円分だ。2019年11月に決定した実行計画によれば、今回の調整費は、トップダウン型経費(健康・医療戦略推進本部による機動的な予算配分)として88億4000万円が、AMEDの理事長裁量型経費(研究現場の状況・ニーズに対応した予算配分)として8000万円が 配分される予定だった。

 具体的なトップダウン型経費の内訳は、(1)ゲノム・医療データ基盤の構築に向けた取り組みに 79億8000万円、(2)認知症研究の推進に3億円、(3)再生医療等研究の推進に5億6000万円―― となっていた。そのうち、大部分を占めるゲノム・医療データ基盤の構築に向けた取り組みについて は、(1-1)コントロール群の構築に50億4000万円、(1-2)癌患者のゲノム解析に20億円、(1-3)大規模なゲノム解析およびゲノムデータの共有推進等に向けた基盤整備に9億4000万円――が配分される予定だった。また、AMEDの理事長裁量経費の内訳としては、橋渡し研究戦略的推進プログラムに8000万円が配分される予定だった。

 しかし、約80億円が配分される予定だったゲノム・医療データ基盤の構築に向けた取り組みのうち、最大となる50億4000万円を占めていた、(1-1)コントロール群の構築に関して、その実用性に疑義が生じているという。コントロール群の構築に向けては、国立国際医療研究センターをはじめナショナルセンターなどに調整費を配分することが決まっており、同センターを受診した慢性疾患患者の検体のゲノムを解析し、癌患者などのゲノムのコントロール群として活用する計画が立てられていたのだが、業界関係者からは「慢性疾患患者のゲノムは癌患者などのコントロール群として適切なのか」「保存されている患者の検体の質に問題はないのか」「臨床情報を追加取得する体制が整っていないのでは」といった指摘が上がっている状況だ。

 そもそも、決定後に、こうした指摘が上がってくるような実行計画が立ち上げられた背景には、「今回の調整費のうち大分部を占めるトップダウン型経費は、内閣府と厚生労働省の幹部を併任しており、健康・医療戦略推進本部にも影響力を持っている官僚が独断で決めたもので、プロセスが不透明」(政府関係者)といった事情があるようだ。同幹部は、財団に移行する予定のiPS細胞ストック・プロジェクトへの補助金について、当初の計画があったにもかかわらず、独断で支援を打ち切る方針を伝えたといわれており(その後、政府は当初の計画通り、2022年度までの支援継続を決定)、政府関係者からは「今回の調整費についても、iPS細胞についても、研究開発費の使い方について、プロセスを踏まず一部の独断で決まることがあってはならない」との批判が出ている。

 結局、一度決定したはずの実行計画は、2019年12月以降、執行されておらず、宙ぶらりんの状況になっている。もっとも、調整費は単年度で執行しなければならない予算のため、2020年3月末までに執行されなければ、財務省へ折衝し、必要性を認めてもらった上で、2020年度への繰り越し手続きをしなければならず、残された時間は限られているのが実情だ。政府関係者は、「ゲノム医療を実現するためのせっかくの予算が、誰かの独断で無駄にされてはたまらない。期限内に、科学的に意味がある形にする必要がある」とこぼしていた。

 

 

医療分野の研究開発関連の調整費の金額(円)

年度    第1回の調整費            第2回の調整費

2014年度 117億4千万(全額理事長裁量経費) 57億6千万(全額理事長裁量経費)

2015年度 145億4千万(全額理事長裁量経費) 29億6千万(全額理事長裁量経費)

2016年度 151億4千万(全額理事長裁量経費) 23億6千万(全額理事長裁量経費)

2017年度 153億3千万(全額理事長裁量経費) 21億7千万(全額理事長裁量経費)

2018年度 148億5千万(全額理事長裁量経費) 26億5千万(全額理事長裁量経費)

2019年度   80億2千万(全額理事長裁量経費) 89億2千万(トップダウン型経費/理事長裁量経費)

 

注)

理事長裁量経費ではなく、健康・医療戦略推進本部による機動的な予算配分であるトップダウン型経費が配分されるのは、2019年度の第2回目が初めて。「医療分野の研究開発関連の調整費に関する配分方針」では、トップダウン型経費は、(1)ある領域で画期的成果が発見されたこと等により、当該領域へ研究開発費を充当することが医療分野の研究開発の促進に大きな効果が見込まれる場合等に配分する、(2)感染症の流行等の突発事由により、可及的速やかに研究開発に着手する必要が生じた場合に配分する――とされており、今回決まったトップダウン型経費の実行計画の内容は、「そもそもどちらにも当てはまらないのでは」との指摘も出ている。

 

――ここまで――

 

全体像を捉えつつ、令和元年度第2回調整費の執行停止についてもよく調べた上で、問題点をクリアに指摘した良質の記事である。もとより私は当該記事を評価する立場にないし、念のため申し上げておくが、私はこの記事の情報源ではないが、こうした記事が出たことは歓迎すべきことである。おかしなことがまかり通っている状況の中で、おかしいと声を上げて、それを共有し、正常化への流れを作っていかねばならない。

 

全体を俯瞰すると、2019年度の第1回も含めた調整費の運用がそれまでと全く異なっていることが明らかである。もともと第2回は11月ごろに決定、配分されるため、年度内に確保できる研究期間が短く、したがって従来ほとんどは第1回で配分されてきた。また、総額175億はほぼ全額が配分されてきた。が、令和元年度は5億円以上が配分されず、内閣府に計上されたままである。

 

配分額のバランスの点でいえば、今年度は第1回配分額を絞り込んだ時点で、戦略室に何らかの戦略があったのか。大幅に戦略室に査定された各省、AMEDの関係者はそもそも当時、戦略室が何を考えているのかわからないと発言していた。

 

第1回の調整費の配分時点でその後も含めたシナリオが描けていれば、第2回配分で揉めることもなかったはずだ。第1回配分時点で、「余れば国庫返納すればよい」と和泉補佐官(健康・医療戦略室長)も大坪次長も発言していたことは関係者には知られた事実だ。

 

そのようなシナリオはもとから存在せず、大坪次長が行き当たりばったりで使えるものを都合よく使った、というのが実態であろう。まともな意見調整・合意形成が図られていなかったと問題になっていること自体が証拠である。

 

また、すでに決定された第2回調整費の扱いは、自民党内のしかるべき場でしかるべき議論をした上で、関係者の合意を得て次のステップへ進めるとしても、配分されずに残った5億円以上の扱いも大いに問題を含んでいるのではないか。使い道がないなら国庫返納すべきだが、今我が国はトップダウン型調整費で想定された事態、つまり「感染症の流行等の突発事由により、可及的速やかに研究開発に着手する必要が生じた場合」を目の前にしているのではないか。いうまでもない、中国・武漢を起点に激しい広がりを見せている新型コロナウイルスだ。目下国際的にも緊急事態と目され、WHO、各国とも情報収集・分析に努め、防御策を講じ始めている。なかでも日本は、春節で大量の中国人が訪日すると見込まれている。さらにオリンピック・パラリンピックを控えて、大量の外国人が来日する。しっかりした対策を講じるべきであり、その中で調整費も全額きっちり活用して本来の目的通り機能させることが重要である。「研究開発」の範囲は広義に捉えて、対策も包含した対応をとるべきだ。日本国内の被害の拡大が広がってから、できることがあったと悔いるなど不作為があってはならない。政府、とりわけ厚労省の対応を見極めたい。貴重な予算を充てるべきでないところに充てようとし、充てるべき対策には充てないとなれば、健康・医療戦略室の責任問題にも発展しよう。今回の調整費の問題は本当に根が深い。

 

日本の医療研究開発が歪められている。

 

 

 

第4回 科学技術特別委員会 (01.19 再アップ)

 

今週、事態が急速に動いている。そのため、記事の内容の修正を余儀なくされたり、アップする記事の順番を見直したりしたため、前回から少々間が空いてしまった。お許し願いたい。

 

複数の筋から情報が寄せられた。同じ志を持つ読者がおられることをとても心強く思う。その情報から事実のみを注意深く総合すると次のようになろう。

 

11月27日、衆議院科学技術特別委員会が開催され、山中教授のiPS予算を巡る不透明な動きが審議された。

 

衆議院TVでその様子をみることができる。

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&media_type=&deli_id=49601&time=5660.7

(1時間52分27秒あたりから2時間3分50秒まで)

 

文章としては近日中に掲載することも考えているが、映像がはるかに多くを物語っているので是非ご覧いただきたい。

 

質問者は立憲民主党の早稲田夕季議員である。先週の報道をもとに、なぜ山中教授が怒りの会見をするに至ったのか、政府を問いただしたのだ。

重要な答弁は、健康医療戦略担当の竹本大臣による「政府が一旦約束したことはきちっと守るというのが政府の姿勢であることは当然であります。」に尽きる。「約束」とは言うまでもなく安倍総理がiPS研究に10年間で1100億円を支援すると約束したことを指す。

 

しかしながら、質疑を通じて、iPS予算削減を巡る不透明な密室での調整については、全く説明がなかったどころか、政府内の混乱ぶりが明らかになった。文部科学省は青山大臣政務官が予算削減の動きが報道されるに至った理由を「承知していない」と答弁した一方で、内閣官房健康・医療戦略室の渡辺次長は「関係省と相談しながら調整している」と明言したのだ。極めつけは、ちょうど2時間00分00秒過ぎ、「山中教授は勝手に会見したということなのか」と問われて誰も手を上げることができない場面を迎える。

文科省と内閣官房の答弁の不一致については追って理事会に報告されることとなった。質疑は終わったが、懸案は持ち越された形だ。

 

全くもっておかしいではないか。

 

文科省はiPS予算削減の検討に関わっている。いや被害者といってよい。必要な予算を削減しろと圧力をかけられているのだから。問題になっているiPS細胞ストック事業は、文部科学省がCiRAへの支援のうち9億円として措置しているが、これをゼロにせよ、6億円は経産省に移管せよ、差額3億円は人材育成などiPS細胞ストック事業以外の支援に回せ、という案を検討させられているではないか。大臣政務官の答弁は訂正しなければならないのではないだろうか。

 

戦略室の渡辺次長は、早稲田議員から、こうした予算調整は会議などで行われたのかと問われたのに対して、ストレートに答弁しなかった。できなかったというべきか。そんなオープンな議論は全く行われていないのであるから当然である。ただ、苦しい答弁を強いられる渡辺次長もある意味で被害者といってよいかもしれない。答弁に立つことはなかったが、経産省も要求もしていない予算を今さら措置せよと押し付けられた被害者である。しかし、いずれも被害者ぶっていれば済む話ではない。

 

早稲田議員は、この件を質疑に取り上げたことは評価されるべきであろうが、密室で議論をしていることを明確に答弁として引き出すべきであった。追求不足といわざるを得ない。今後の本件のさらなる深堀りを期待したい。

 

前述のiPS細胞ストック事業予算の削減案は、健康・医療戦略室の室長である和泉補佐官が主導している。渡辺次長は「各省の意見を聞きながら」と答弁しているように聞こえるが、各省の意見など聞いていない。内閣官房から各省に対して一方的に指示しているのだ。和泉補佐官自ら、永田町の根回しに動いていることが確認されている。

 

公明党も部会を開いて、この件を議論する予定だ。そこで補佐官の案が透明な形で議論されるとは到底考えられないが、議論の行方を注視したい。

 

結論に至るにはさらなる紆余曲折があろうが、もしこの削減案が成立するということになればそれは何を意味するのだろうか。

まず、山中教授が自ら火の粉をかぶりながら繰り返し指摘している、「密室での意思決定」の実現を許したことになる。そして、それは総理がかつて約束したことを反故にすることであり、どうあるべきか決めるのは政治であると主張していた当の政治家が屈したということである。

 

これを知った以上、私達も声を上げなければならないのではないだろうか。そして、会期延長しないという報道どおりなら残された少ない国会審議の中で、国会がどのような議論をするのか、政府が、政治がどのような結論を出すのか、きっちり見届けようではないか。

 

予算編成過程における政府原案の実質的な決定も、毎年12月上旬だ。正邪を明らかにして決着をつける日は近い。

 

日本の医療研究開発が歪められている。