登山をしながら写真を撮るのに最適なカメラは何だろうか。山岳写真を専門として仕事をしている私でもその答えには至っていません。
軽い・使いやすい・壊れない。その3要素を判断基準にしていますがどれもがトレードオフの関係にあり、重要なのは自分にあったバランスのいいカメラを選ぶということ。
現在はフルサイズ一眼レフ・APS-Cミラーレス一眼・フルサイズミラーレス一眼を使い分けて、結果山岳写真に適した一眼レフはフラッグシップ機、ミラーレス機は満足のいく機種なしという着地をしています。
もちろん登山のスタイルや時期によっても最適なカメラは異なります。例えば夏山限定であればどんなカメラでも十分です。ちょっと使いづらいかな?と思う程度でワークフローが破綻することはありませんし、雨が降ったらザックにしまえばいいんです。
ここでは1年を通して山に登る人がカメラを選ぶための判断要素をまとめます。
防塵防滴耐低温の堅牢性
まずはカメラ自体の堅牢性。冬山は地面がすべて雪であるためカメラを置くと雪が付着します。そして撮影してるとそれが水になり最終的には凍結します。冬山で撮影するカメラを選ぶときはまずはシーリングのしっかりしてるボディを選ぶことから始まります。
ちなみに防塵防滴ではないFUJIFILMのX-E3を厳冬期の蓼科山に持っていったら1発でシャッターが壊れました。
低温耐性はどのメーカーも公式では-10℃〜0℃としているので、スペックを見る限りでは山岳写真で使えるものではありません。
そこはユーザーレビューであったりメーカーの信用性で選んでいくことになります。
結露耐性
私がカメラを壊す原因の堂々1位が結露。
現在のカメラは一眼レフもミラーレス一眼も良くできていて、低温や凍結だけで壊れることはそうそうありません。しかし凍結させてからの結露、さらにそこからの再度の凍結でよく壊れます。
例えばテント場をベースキャンプにして稜線の撮影に出る、帰ってきてテントの中にカメラを入れ、再度撮影に稜線に出る。
この流れが相当します。天候が良ければテントの外にカメラを置いたり、袋に入れて雪の中に入れて置くなどの回避策がありますが吹雪の状態でそれをやるのはリスクが高いです。
状況によっては結露せざるを得ない状況になることは避けられないため、その状況でも故障しないボディなのかを選ぶのが重要です。
私の経験だと、ニコンとキャノンの一眼レフフラッグシップ機は故障率が低い傾向があります。現在テストしてるNikon Z7とFUJIFILMのX-H1でもエラーを出していません。
メーカーのカメラのPRで堅牢性であったりシーリングを訴求しているモデルであるというのは1つの判断基準になります。
山岳写真ではグローブを着用しての操作が前提
夏山ならどんなカメラでも問題ない理由の1つがグローブを装着しなくてもいいということ。街中での撮影と同じパフォーマンスが出せます。
しかし夏山以降の稜線、特に気温が下がる夕方から朝方の稜線では強風と合わせて体感温度マイナス20℃以下の状況は当たり前です。
その状況で指を晒すと数分のうちに凍傷になる可能性があります。
一度なってしまうとセルフレスキューが難しいことに加え山の稜線から下山して病院に行くまでに数日かかってしまうこともあり、指の欠損にもつながりかねません。
よってグローブを着用しても十分な操作性を得られるボディが通年の山岳写真で選ぶカメラの基準になります。
まずは厳冬期の山岳写真で必要なグローブの組み合わせから見ていきます。
ベースグローブ+ミトングローブ
秋山、冬山の稜線より下での行動ではこのfinetrack フロウラップグローブとMAMMUTのShelterMars Groveの組み合わせをよく使います。カメラを操作する指は比較的自由に動く上に、寒くなったらミトングローブで指を被せばそこそこの保温力もあります。
しかし稜線の強風に耐えられる保温力と防風性はないのでオーバーグローブが必要になります。
ベースグローブ+ミトングローブ+オーバーグローブ
厳冬期の稜線ではfinetrack フロウラップグローブとMAMMUT ShelterMarsGroveの上に中綿の入ったゴアテックスのオーバーグローブを着用します。
ブラックダイアモンドのSENSEIという古いモデルを使っていますが、現行モデルでいうとガイドが性能的に近いグローブになります。
このように指の保護を万全にした状態で操作ができるボディが山岳写真に対応できるカメラと考えることができると思います。
グローブを付けることで損なわれるカメラの操作性
厚手のグローブを付けることですべてのカメラで操作性が著しく悪くなります。それによって引き起こされるのがボタン操作や落下などのヒューマンエラーです。
具体的にどの部分が原因になるのかを見ていきます。
手のひらが当たる右サイドのボタン群
まずは一眼レフ機のフラッグシップモデルであるNikon D4S。
厚手のグローブを着用してグリップを握っても十分なスペースがあり、主要なボタンも配置されていません。主要操作は右サイドとボトムに集めており物理的にヒューマンエラーが起こらない作りになっています。
さすがはカメラメーカーのノウハウの結晶と言わざるを得ない完成度です。
次にFUJIFILMのフラッグシップ機のX-H1。APS-Cながら現状のフルサイズミラーレス一眼に比べても一回り大きいボディです。
プロ機と謳うこともあり、右サイドのグリップ部分に余裕がありしっかりと握ることができる上に、手のひらが当たる部分にも主要操作のボタンが配置されておらず、手の感覚がほぼ皆無な状態でのエラーを起こすことは少ない作りになっています。
次にNikon Z7。コンパクトな設計ゆえにグリップに余裕がなく、手のひらが当たる部分にボタンが集約されています。素手なら快適な操作であっても、厚手のグローブが必須の厳冬期の冬山に置いてはトラブルを頻発させる造りです。
たまたまZ7が手元になるので例として出しましたが、これはEOS Rもα7もほぼ同じ造りです。
レリーズ回りのボタンの配置
いわゆるシャッターボタンの回りにボタンがありすぎるとこれも操作ミスに繋がります。
Nikon D4Sはボディがそもそも巨大なためグローブを装着していても露出補正、モード切替なども間違えること無くしっかりと押すことができます。
FUJIFILMの X-H1はシャッターレリーズと露出補正だけというシンプルなつくりで、全体的に余裕があります。
そしてISO感度とシャッタースピードの選択がダイヤル式でありF値はレンズで操作できるため、グローブをしていても直感的に操作できます。
私がFUJIFILMを極地で使いやすいと思う理由の1つがこの仕組みです。
Z7はレリーズ周辺にボタンが狭く多く配置されているため、露出補正をしようとしてシャッターを切ってしまったりなどのヒューマンエラーを起こします。
特にミラーレスはバッテリーの持ちが悪いという弱点があり撮影で無駄打ちができないため厳冬期の山で扱いづらい要因の1つとなっています。
軽量コンパクトなミラーレス一眼は山岳写真に向かない
中綿入りの厚手のグローブを着用して、軽量コンパクトなミラーレス一眼を操作することは現実的ではありません。間違ってボタンを押すことが多い上に、ボタンとボタンの隙間にも余裕がなく意図して押そうとしたボタンであっても間違えて隣のボタンを押してしまうことがあります。
カードはデュアルスロット
カメラにデュアルスロットは必要なのかという議論は絶えませんが、私は山岳写真においては必須だと考えています。
データを破損しやすい環境であるということに加えて、交換時の紛失リスクが高いからです。
冬山の稜線では一瞬たりとも指を晒すなんてことはあり得ないです。条件が良くてオーバーグローブを少しだけ外すことができるくらい。グローブ越しにカードを抜き差しすることは避けられません。
そしてうっかりカードを落としたら雪に埋もれるか風に吹き飛ばされて紛失します。そういったリスクのためにデータを2重にとっておく必要があります。
小さすぎるボディはグリップすらできない
コンパクトさを追求したボディはレンズとグリップの隙間が少なく、厚手のグローブを付けたらグリップすらできないモデルもあります。
カメラの携行システムとしてピークデザインやコットンキャリアを使っていると軽量化のためにネックストラップを外すこともあるため、落下の危険が高くなります。当然撮影パフォーマンスも低下します。
現状私の厳冬期の山岳写真の装備できっちりグリップができたのはミラーレス一眼ではFUJIFILMのX-H1(RRSのLプレート装着)のみです。
山岳写真で使うカメラは必要最低限の大きさは必要
夏山だけなら好きなカメラ、1年を通して山岳写真を楽しむなら大きめのカメラというのが現在の私の考える山岳写真に適したカメラです。
堅牢性とグローブ着用時の操作性を考えると軽量なボディにはならず、消去法的な選択でNikon D4Sという一眼レフのフラッグシップボディにたどり着いています。
FUJIFILM X-H1はギリギリ操作性を維持できているため現場での運用でトラブルはないというレベル。それより小さいボディは現場のワークフローに支障をきたすので積極的には使えないものです。
とは言えこれから出るであろうパナソニックのLUMIX S1などはかなりの大型ボディらしいので山岳写真への相性はおそらくフルサイズミラーレスの中ではダントツで良いと想像できます。
レンズシステムは軽量でコンパクトにできるポテンシャルを秘めていますので、各社から山での操作性が良いボディと軽量なレンズの組み合わせが早く出揃うことを期待してやみません。
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