正直「ただの激辛」には飽きているんです。唐辛子の足し算をしただけで「激辛だ、ドヤッ」って言われても、食べる側の我慢大会じゃないですか。辛さの中に旨さが生きているから、その辛さに意味があり、美味しく食べられるわけで。そのお店の旨さに辛味が絡む(ここ笑うところ)からこそ、良い激辛になるんですよね。
そんな旨さと辛さが両立しているから大好きで、ふらりと立ち寄ってしまうお店があります。都内に7店舗を構える「陳家私菜」です。
そこで評判のコースがあるというのでブロガー仲間と行ってみることに。
その名は「(激辛グルメ祭り)大行列記念コース」。
飲み放題で2時間30分、4,780円という料金設定(通常は4名以上で可能、当日オーダー可、事前予約推奨)ながら、想像以上の内容&コスパだったので『メシ通』で報告させてもらうことにしました。
いろんな意味でシェアしてほしい、そんなコース料理です。
激辛イベントの常勝軍団
「陳家私菜」の創業は1995年。東京・赤坂に最初のお店「湧の台所」をオープンし、現在は都内に7店舗を展開しています。
その実力は、都内で行われる中華・四川・激辛料理のイベントでは上位入賞の常連になっているほど。毎年4月に行われる「四川フェス」(2020年は4月18日〜19日)では3年連続1位、夏に行われる「激辛グルメ祭り」では6年連続1位を獲得し、開催中は常に長い行列ができています。
好評の秘密は四川の美味しさと辛さの両立。陳オーナー自らが四川で買い付けてくる現地の香辛料を用い、四川のシェフを雇って「辛ウマ」な料理を提供しています。
ランチでは1,000円を切るメニューもありますが手抜きはありません。市販のダシは一切使わず、すべて素材からダシ・スープを作っています。味の根本がまるで違います。
東京・渋谷の公園通りをアップルストアや渋谷PARCOよりもNHK方面に進んで右手にあるのが今回訪れた「陳家私菜 渋谷店」。
渋谷店は200席ある大型店。多めの人数の会合でも予約を取りやすく、味も値段もキャパも、使い勝手の良い店舗です。
香辛料などは本場・四川から取り寄せ、肉や豆腐など新鮮さが重要なものは日本の食材を活用することで美味しい四川料理が楽しめるんですよ。
トントンというリズミカルな包丁の音が聞こえてきそうな厨房。調理場に立つ料理人さんは陳オーナー自らがテストして採用した方々ばかり。
ちなみに、セントラルキッチンで料理を作るのではなく、それぞれの店舗で共通のメニューを作って提供するのだそう。新宿店、秋葉原店などにも行ったことがありますが、同じ料理、同じ味付けの中にも少しずつ個性が活かされているところは、まるで様々な演奏家のクラシック音楽を聴いているかのようです。
陳家私菜のコース料理、いざスタート
それではさっそく4,780円の「(激辛グルメ祭り)大行列記念コース」を紹介していきますね。
まず飲み放題には紹興酒も含まれているので、お酒好きな方も中華を楽しめます。
なお、プレミアム飲み放題(+1,000円)に含まれる「プレミアム紹興酒」を飲んだことがありますが、これまた心がスキップするほどの美味しさでした。美味しい紹興酒に巡り会いたいと考えている方は、ぜひ試してみてほしいです。
ちなみに、食べる人の好みに応じて、辛さは調整が出来ます。辛さを増しても、その奥にある旨さを味わえるのが陳家私菜の素晴らしいところです。この取材では、辛さを普通レベルにしていただきました。
はい、お待たせしました。いよいよコース料理のスタートです。
①元祖★本場四川やみつき皇帝よだれ鶏
コースの幕開けを飾るのは「元祖★本場四川やみつき皇帝よだれ鶏」。
10種類を超える香辛料と、自家製ラー油を使って作られています。ナッツの甘みや食感を感じる中、ラー油を泳ぐ鶏肉は柔らかく、それ自体は淡泊な味わい。鶏肉の下にはもやしなどの野菜も入っており、食感もGood。
美味しさの秘訣を陳オーナーに聞きました。
陳オーナー:そもそも、ラー油自体も20種類以上の香辛料を調合してお店で作っているものです。香りの付き方が全然違うんですよ。
このラー油は冗談抜きに「飲みたい」と思えるもの。ラー油を飲みたい、お持ち帰りしたいって思ったことあります? ぼくは、あります!
②名物★元祖頂天石焼麻婆豆腐
2番手にして早くも真打ち登場。陳家私菜を訪れた人の多くが注文する必殺メニュー「名物★元祖頂天石焼麻婆豆腐」です。
石焼き鍋に豆腐一丁が入っていて、テーブルでお店の方が豆腐を崩してくれます。
この日はなんと陳オーナー直々に崩してくださることに。
陳オーナー:豆腐は鶏ガラから長い時間をかけてダシを取ったスープで煮込むことで旨味を出しています。麻婆を激辛にしても負けない豆腐になっているんですよ。
確かに、香り高い麻婆に負けない、味に一本芯の通った豆腐になっているようです。
③麻辣大蝦★殻付新鮮大エビ二十種類のスパイス香ばし揚げ
ここらで魚介系も食べたいなぁーと思ったところにやってきたのが「麻辣大蝦★殻付新鮮大エビ二十種類のスパイス香ばし揚げ」。
これは他のお店で食べたことがない味わいを楽しめます。新鮮な海老は頭からがぶりと食べられ、衣のサクサク、殻のカリカリ、中のモチモチ、と三通りの歯触りが、そしてエビ味噌をにゅくにゅくと楽しめます。
そしてこの衣部分。天ぷらでいうところの「揚げだま」といえばいいかな。
スパイスを十分に使ったこの揚げだまが、そのまんまご飯にかけて食べてしまいたいくらい美味しいんですよ。
▲食べ終わりの写真で恐縮ですが、このあげだま的なもの、スパイス、唐辛子、香草をご飯に乗せて食べたいの!
お腹に余裕があればライスを頼みたいところですが、本当にこのコースは満腹になれるので、今回は残念ながら様子を見ます。
④麻辣尤魚帆★花椒とイカの岩塩香り炒め
続いて「麻辣尤魚帆★花椒とイカの岩塩香り炒め」が登場。
これはその日獲れたイカを使った炒め物。イカは「コリッ」と「にゅくっ」の中間のような絶妙な歯触りを見せます。
おそらく良質な油を使用しているのでしょう、ぜんぜんしつこさがありません。
さらに、この海ぶどうみたいな実をかじるとプチッとした歯触りの後に山椒特有の香りが一気にシュワーっと口の中に広がってきます。
▲この海ぶどうに似たものは粒山椒なのです。シビレ好きなら、これをかじっているだけで羽化登仙。食べたことない? だったらすぐ陳家私菜へカモン!
⑤頂天麻辣鶏鍋★ニ十種香草料を使用汁なし鶏肉鍋
コース中もっとも四川特有の「しびれ」を感じたのがこの「頂天麻辣鶏鍋★ニ十種香草料を使用汁なし鶏肉鍋」でした。
複雑なスパイスを活用した上に香草、粒山椒、揚げ唐辛子がふんだんに使われた一品。香草は単体でも美味しいのですが、このスパイスに絡めて食べると美味しさが二十倍です。
香草好きの僕は「やだこれ、幸せ……」。
実は香草があまり得意でないという同行のブロガー仲間も、このスパイスと絡めて食べるのであればいける! と味の深みに驚いていました。
⑥水煮牛肉★本場四川牛カルビと野菜のスパイシー煮込み
和牛と四川の香辛料を使った「水煮牛肉★本場四川牛カルビと野菜のスパイシー煮込み」が登場。
柔らかい肉質は和牛ならではで、四川の香辛料との相性もバッチリ。
ちょいと小皿に移してみました。肉の上に乗っている黄金色のものはニンニクです。これがまた香り高いニンニクでありながら、悪目立ちせずに他のスパイスや野菜にうまく馴染んでいるのが素晴らしいところ。
⑦名物★パリパリで香ばしい鉄板ゴマ棒餃子
スパイシーさだけじゃない、奥深い四川料理。この「名物★パリパリで香ばしい鉄板ゴマ棒餃子」は辛味があまり得意じゃない人でもきっと気に入る一品です。
焼き面のところにびっしりと敷き詰められたゴマを見るだけでも分かるとおり、ひとたび口に入れると具の味のほかにゴマの香りが口いっぱいに広がりますよ。
「いや~、これはたまらん!」とご満悦の表情をしているのは、ブログ「東京散歩ぽ」を運営している中川さん。正直、彼もそこまで辛さが得意じゃないそうなんですが、すべてパクパク食べておりましたよ。
この餃子、具にも味がしっかり付いているので、何も付けず、そのまんま食べても美味しい……。
でもね、卓上にある2種類のオリジナル調味料を使っても美味しいんですよ。
左は山椒を使ったシビレを増すラー油。右は唐辛子を使った辛みを増す醤。豆板醤の一歩手前のような辛さがあります。
辛さの好みに応じて、好きな方を使って食べてみてほしいのです。どっちを使っても餃子の旨みをさらに活かした美味しさになりますよ。
⑧本場上海スープ入り小龍包
やけど注意! な一品。できたてでアツアツの肉汁が皮の内側にスタンバイしている「本場上海スープ入り小龍包」です。
一口サイズで食べやすいのですが、本当にアツアツなので猫舌な方は少しだけ時間をおいてから食べると良いでしょう。
本場の黒酢を使ったタレは生姜の香りも併せて超爽やか。かじってあふれ出る肉汁だけをまずは楽しんでからでも良し、大きく口を開けて一口ですべてをがぶりといってしまうのも良し。いずれも旨みのヘヴンですよ。
⑨元祖痺れる麻辣刀削麺
陳オーナー:刀削麺はウチが元祖なんですよ!
こちらの「元祖痺れる麻辣刀削麺」は陳オーナーが胸を張る元祖の味。陳家私菜では麺に保存料を一切入れていないため、その日打った麺はその日しか提供しないのだそう。
麺を口に含むとまず驚くのは、その圧倒的なもっちもち感。そしてじっくりと噛んだあとは小麦粉特有のじんわりとした甘みが。
山椒のシビレ、唐辛子の辛さからくる「旨辛さ」は他の料理で経験済みのはずですが、優しい味わいの刀削麺と絡むことでコントラストの効いた新たな味わいに仕上がっています。
ランチで来店すれば、この刀削麺を一人前として頼むことも可能。コースで頼んで気に入ったものは、別の日に単品で頼んでみるのもいいかも!
⑩スペシャル★自家製濃厚杏仁豆腐
杏仁豆腐といったら、白濁した杏仁の香りがする寒天に、パイナップルなどのフルーツが一緒に入っているアレを思い出すかもしれません。
ノンノンノン。
陳家私菜の「スペシャル★自家製濃厚杏仁豆腐」はもっとババロアのような、パンナコッタのような、そんなトロリ・スルリとした柔らかさの杏仁豆腐です。スプーンですくうと、はみ出た部分が時間をかけてゆっくりと落ちるくらいの、絶妙な柔らかさを持っています。
普通の杏仁豆腐にあるような酸味ではなく、濃厚な甘みを十分に感じられるこれは、一度知ってしまうと戻りたくないぃぃぃぃ!
山椒や唐辛子でホットになった口の中を、一気に柔らかく、優しくしてくれる杏仁豆腐ですよ。
ここまでのスクロール、誠にありがとうございました。いかがだったでしょうか。
おさらい的に、コースのセットリストをまとめておきます。こんな贅沢なラインナップでした。
- 元祖★本場四川やみつき皇帝よだれ鶏
- 名物★元祖頂天石焼麻婆豆腐
- 麻辣大蝦★殻付新鮮大エビ二十種類のスパイス香ばし揚げ
- 麻辣尤魚帆★花椒とイカの岩塩香り炒め
- 頂天麻辣鶏鍋★ニ十種香草料を使用汁なし鶏肉鍋
- 水煮牛肉★本場四川牛カルビと野菜のスパイシー煮込み
- 名物★パリパリで香ばしい鉄板ゴマ棒餃子
- 本場上海スープ入り小龍包
- 元祖痺れる麻辣刀削麺
- スペシャル★自家製濃厚杏仁豆腐
繰り返します。このボリューム、素材の良さに飲み放題が付いて4,780円です。
超絶コスパの秘密は日本への感謝
怒濤のコース料理を味わい尽くし、最後にシメの一杯を。
まろやかな紹興酒まで存分に堪能できるのが陳家私菜。角が一切立たない紹興酒なんて、たまたま入った街の中華料理屋さんでポンと飲めるものじゃありません。片口に入っていて銘柄がわかりませんでしたけど、これ、ぜったい旨いやつだ……。
いや、これ、原価どうなってるの? って疑いたくなってしまいます。
陳オーナー:僕は25年前に来日して四川料理をやってきて、日本の人にたくさん助けられました。その恩返しをしたくて、そして儲けよりも、安い値段で本物の四川料理を味わえる楽しさを皆さんに体験して頂きたくて、陳家私菜をやっています。安くても出来合の食材は使わない。上等な食材・四川の香辛料を使ってそれぞれの店舗できちんと調理してお届けすることを大切にしています。
この言葉が決してキレイゴトじゃないのは、何より自分の舌がよーく分かっています。
本場仕込みのめくるめく辛さ&シビレを味わいたくなったら
四川料理特有の辛さとシビレを体験できる陳家私菜 渋谷店へぜひ。
味のオーケストラ、味のスクラムトライ……。そんな、皆が一つの素晴らしいものになって飛び込んでくる「口福」を味わえますよ。
お店情報
陳家私菜 渋谷店
住所:東京都渋谷区神南1‐16‐3 ブルヴァールビル B1
電話番号:050-5834-4865
営業時間:月~土、祝前日: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)、17:30~23:30 (料理L.O. 22:45 ドリンクL.O. 22:45)
日、祝日: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)、17:30~21:30 (料理L.O. 21:00 ドリンクL.O. 21:00)
定休日:なし
書いた人:奥野大児
馴染んだ店で裏メニューを頂けるのが至高と思っている呑兵衛ライターでブロガー。店主と仲良くなるのが得意らしい。グルメ、旅、歴史、IT、スマホなどなど多ジャンルで書きます。
- Twitter:@odaiji
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