新型コロナウイルス感染症の患者が日本でも確認されました。中国では2人目の死者も。水際対策は有効? 予防策は?
【まとめ】
☆久住理事長がTBS「ひるおび!」に2日連続スタジオ生出演!新型コロナウイルス感染症について解説しました。
☆日本でも感染者を初確認。中国では、のべ30億人が移動する春節が目前に。人から人への感染力は?
☆水際対策には期待できず。でも、必要以上に恐れる必要もありません。風邪やインフルなどと同じ基本の予防策を徹底して。
TBS「ひるおび!」に久住医師スタジオ生出演、新型コロナウイルス感染症を解説しました。
中国で最初に確認された新型コロナウイルス感染症が、アジア各国へ拡大するのではないかと懸念されています。これについて、感染症に詳しいナビタスクリニック理事長の久住英二医師が、TBS『ひるおび!』に2日連続でスタジオ生出演し、解説しました。以下、現在までの状況を追いながら、久住医師のコメントをまとめていきます。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
新型コロナウイルスによる最初の患者が報告されたのは、昨年12月12日、中国の武漢市。1月16日の深夜には武漢市衛生当局が2人目の死亡者が出たことを発表。69歳の男性がこのウイルスによる肺炎で15日未明に亡くなった、としています。さらに1月19日の時点では、累計患者が62人、重症8人、死者2人と発表されています(時事通信)。患者は中高年の男性に比較的多いそうです。
発生源・感染源は公式に特定されたわけではありませんが、武漢の海鮮市場(華南海鮮城)を訪れた人に患者が多く、そこでウイルスに感染したと考えられます。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
「コロナウイルス自体はよくいるウイルスで、コウモリなど様々な動物が持っています。例えば市場で生きた動物などが売られていたりすれば、そこから感染が広がった可能性はあります」(久住医師)
さらに今月に入ると、アジア各国にも広がりを見せ、動きが出始めています。1月7日には台湾で、旅行者の警戒レベルを『注意』(4段階中では最低)に設定し、現地で動物や生鮮食品などに接触しないよう、呼びかけました。13日にはタイで、中国・武漢市を訪れた中国人女性から新型コロナウイルスが検出されました。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
日本国内でも患者を初確認。中国で患者と「濃厚接触」し、感染した恐れ。
そして先日、ついに日本でも患者が確認されました。1月16日午前10時20分頃、厚労省が会見で発表したものです。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
患者は、武漢市から1月6日に帰国した神奈川県在住の中国籍の30歳代男性。1月3日に中国で発熱し、帰国した日に神奈川県内の医療機関を受診しました。その際は軽症だったものの、9日には39℃の発熱とひどい咳へと悪化したため、10日に別の医療機関で検査したところ肺炎と診断。医師が重症化の恐れがあると判断し、入院することに。
本人は順調に軽快し、15日に退院。一方、医療機関は14日に管轄保健所へ「武漢市に滞在していた男性の肺炎」として報告しており、検体を国立感染症研究所で検査したところ、15日の夜20時45分頃に新型コロナウイルス陽性が判明しました。入国時の検疫は、解熱剤を服用していて熱がなかったために通過してしまったようです。
本人の申告によると、問題の市場へは立ち寄っていないものの、中国滞在中に肺炎を患っていた父親と濃厚接触があったとのこと。ここで言う「濃厚接触」とは、咳やしぶき(つば)が届く半径2m以内の至近距離で患者と会話するなど、飛沫感染を起こしやすい状況、という意味です。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
ヒトからヒトへの感染――必要以上に恐れる心配はなさそうです。
今回の新型コロナウイルスついて、最大の関心事は人から人への感染力です。厚労省の会見でも以下(画像)のように説明されていました。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
ちょっと回りくどくて分かりづらいですが、要するに、「すでに公共の場でヒトからヒトへの感染が起きている可能性はあるけれど、まだ証拠がないので断言できません」ということです。
久住医師も、
「ヒトからヒトへの感染の確率は基本的には低いと見られていますが、ウイルスを大量に浴びてしまえば感染・発症する可能性はありそうだ、ということです」
「基本的に動物の中だけで感染のサイクルが回っていれば、大きな問題にはなりません。それが時々、ヒトに移りやすくウイルスが変異し、さらにヒトからヒトへと効率よく移りやすいものに変化することがあるのです。それがヒトの感染症ウイルスとして脅威となります。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
ですから今後この新型ウイルスが、そういった状態に変わってくるのか、そのまま収束していくのか、経過を見ていかなければ分かりません。SARSやMARSでは、周囲への感染スピードが速かったんです。患者の診療に携わった医療スタッフや同室に入院していた人などに、またたくまに感染が広がりました。今回は、少なくともそうした状況は聞かれません。
今朝発表された神奈川県の症例でも、医療スタッフや他の入院患者の感染は報告されていないので、おそらく人から人へうつる確率は極めて低いと見られます。先のMARSの時もほとんど日本への影響はなかったことからすると、必要以上に恐れる必要はないのかなと思います」
と解説しました。
春節でのべ30億人が移動する中国。パラ五輪も控える日本。水際対策の効果は?
海外から感染症が持ち込まれる事態になると、いつも慌てて問題になるのが「水際対策」についてです。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
空港や全国の検疫所内に注意喚起のポスターが貼られたのは、日本国内で初確認された患者男性が帰国した翌日、1月7日のことでした。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
また、国際空港では入国時に通過する人々をサーモグラフィーで映し出し、発熱のチェックを行っています。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
これについて久住医師は、「まず空港では防ぎようがない。今回のように医療機関が保健所に連絡して調べることしかできない」とバッサリ。
「皆さんポスターなんてほとんど見ないで素通りされていると思うんです。情報は相手に確実に伝わって、相手の行動を変えるところまでいかないと意味がないですよね。『ポスター貼りました』というのは、『私はやることやりました』というアリバイ作りにすぎないと思っています。こういう情報の出し方は、私は不十分だと思っています」
そもそも、体表温度だけで感染者を検知しきれるはずがありません。実際、今回は患者が解熱剤を飲んでいたためにチェックを通過していますし、潜伏期間であればまだ発熱はありません。
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
さらなる懸念は、来週1月24日から30日に中国が春節休暇を迎えること。のべ30億人が大移動すると見られます。日本は春節の旅行先ランキングでも1位、都市別でも2位大阪、3位東京となっていて、多くの中国人が訪日すると予想されています。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
また今年8月に開催される東京パラ五輪では、人口1400万人の東京都に、観客とスタッフ合わせて1000万人以上が押し寄せると試算されています。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
しかも、久住医師は以下のような見解を示しています。
「今、武漢関係者だけを調べていて今回初めての感染者報告となりましたが、実際には武漢経由でないルートで中国から日本に、すでにもっと入ってきている可能性もあります。最初に中国で確認されたのが12月12日で、それから1カ月以上経過しています。今の世の中で、中国から日本にウイルスが運ばれてくるのに1カ月かかるはずはないので、実はもっと感染は中国内に広がっていて、ほとんどの方は軽症で終わっている、ということもあり得るのです」(久住医師)
実際、英国の研究者たちは、17日発表の論文で、武漢市では1月12日時点で合計1,723人の患者が感染していると見ているとしています。これからも状況の動きを見守る必要がありそうです。
水際対策では侵入を防ぎきれないなら、どうやって身を守ればいい?
「水際対策」に期待できない以上、ウイルス(感染者)が国内に持ち込まれることを前提とした対策を講じていく必要があります。
久住医師も、
「コロナウイルスは、普通の風邪の原因の10%程度を占めるウイルスでもあり、今回も毒性や感染力が強くないので、パニックになる必要は全然ありません。特別な対策は不要です。そもそも、武漢が本当にオリジン(発生源)かどうかも分かっていない。だから武漢を特別視するのではなく、具合の悪い人が外出を控える、通常の風邪の予防策を徹底するといったことをみんながやっていくことが大事です」
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
とコメントし、予防の基本を4つ挙げています(画像)。見ての通り、通常の風邪や飛沫感染を起こす感染症への対策の基本ばかりです。
(TBS「ひるおび!」2020年1月17日)
厚労省も予防法については同じく、「咳エチケットや手洗いなど、通常の感染対策が重要」としています。
久住医師はさらに、
「これらに加えて、睡眠を十分とる、お酒を飲みすぎない、など、風邪をひきやすくなるような行為をなるべく避けて、日ごろから健康に過ごすことです。新型ウイルス感染症だけでなく、どんな風邪もかからない、広げないようにすること」
「未知のものに対して恐怖心を抱くのは人間の本能ですが、実際にはこの新型ウイルスよりも、例えばはしか(麻疹)の方がずっと感染力は強いんです。そのはしかの予防接種をせずに放っておいて、こちらのウイルスを心配する、というのは非常にバランスが悪いですよね」
(TBS「ひるおび!」2020年1月16日)
「インフルエンザにならないと休めない、みたいな風潮がありますが、そうではなく具合が悪かったら積極的に仕事を休んでください」
とメッセージを送りました。真の感染症対策は、水際ではなくて、人々のライフスタイルや働き方への意識の中にありそうですね。
久住英二(くすみ・えいじ)