モバゲー規約差止め判決 —それでもなお「一切免責」と書きたい企業の事情
ソーシャルゲームプラットフォーム「mobage(モバゲー)」の利用規約に定められた、「当社は一切損害を賠償しません」の免責文言。これを消費者契約法違反であるとして、さいたま地方裁判所が差止め命令を下しました。
目次
利用規約に頻出した常套句が禁句となる時代
ウェブサービスではもはや見慣れてしまった感もある、「一切責任を負わない」旨の利用規約 の定め。著名なサービスの利用規約に定められていたこの 全部免責条項について、消費者契約法違反とはっきり認めた裁判例 が現れました。
利用規約には「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は一切損害を賠償しません」との条項があり、原告側は、事業者の不当な免責を禁じる消費者契約法に違反すると主張。実際に「課金後に利用停止になったが対応してもらえない」といった苦情が国民生活センターに寄せられていると指摘していた。
谷口豊裁判長は判決理由で、この条項が不明確で複数の解釈の余地があり、DeNA側が「自己に有利な解釈に依拠して運用している疑いを払拭できない」とし、差し止めが相当と判断した。
本訴訟を提起したのは、 埼玉の適格消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」です。この団体がDeNA社に訴訟を起こした件については本メディアでも2年前に取り上げていました。その訴訟がようやく結審したわけです(関連記事:「責任を一切負わない」言い切り型利用規約でユーザーを諦めさせようとすると、適格消費者団体からお手紙が来ます)。
本日現在判決文は公開されていないものの、同団体のウェブサイトで原告側が提出した訴状が全文公開され、訴訟の過程もレポートされています。
複雑な条文構造の「隙」を見逃さなかったクレバーな原告
訴状によれば、同団体は、モバゲー会員規約の4つの条文(第4条・第7条・第10条・第12条)が、消費者契約法8条1項1号・3号に抵触すると主張。先の報道と併せ読むと、この主張がほぼそのまま認められたかたちとなります。
この 規約を作成したDeNAが、消費者契約法を意識していなかったはずはありません。その証拠に、原告に問題視された 第12条4項とそれに続く5項を見ると、消費者契約法を意識している ことが伝わってきます。
- 「一切免責」の条文がない事項について発生した損害については、1万円を上限として責任を負う(12条4項)
- DeNAの故意・重過失による損害は、免責をせず責任を負う(12条5項)
しかし 原告は12条4項に存在する法的な「隙」を見逃しませんでした。そして訴状において、以下のように鋭く指摘・主張しました。
(4)本件利用規約12条4項
同項「本規約において当社の責任について規定していない場合」は、「当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は 1万円を上限として賠償します。」旨が規定されている。
同項は、善解すれば、被告に軽過失がある場合において生じた損害については1万円を上限として賠償する旨の規定と読める。
しかしながら、同項は、「本規約において当社の責任について規定していない場合」との条件を付しており、そうすると、本件利用規約内で責任を規定している条項、すなわち「一切責任を負わない」と規定している上記条項(同4条3項、7条3項、10条1項)1万円の賠償対象とならないと解釈できる。
したがって、同項はその前段部分「本規約において当社の責任について規定していない場合」について、消費者契約法8条1項1号、3号に抵触する。
なお、この複雑な条文構造によって生まれた「隙」の詳細については、STORIA法律事務所 杉浦健二先生が「モバゲー利用規約に対して差止訴訟。もはや消費者契約法に違反する利用規約を定める時代ではない」と題する記事で詳しく解説してくださっています。
利用規約を定める企業がそれでも全部免責条項を残そうとする理由
さて、本訴訟の勝敗のポイントとなった免責条項におけるこの「本規約において当社の責任について規定していない場合」の文言は、なぜ存在したのか。判決が出たタイミングで改めて考えてみたいと思います。
- 規定の書き方・定め方をミスした
- 消費者契約法抵触リスクを承知の上であえてこの文言を定めた
当初は、1のような単なるミスだったのではないかという見立てが多数派だったように思いますし、私もそのように見ていました。しかし、それであればミスを認め途中で折れて和解するのが自然です。ところがDeNA社は、2016年12月の裁判外の申入れから訴訟を提起される2018年7月まで、1年半以上の交渉期間で和解せず、さらに本訴訟においても裁判上の和解の道を選ばず、判決まで持ち込んだわけです。
DeNAほどの会社がここまでこだわるのは、上記2のようにリスクを承知で「一切免責」の文言を何とか残したかったとみるのが自然です。
この点、ユーザーを数千・数万人単位で抱えるWebサービスの運営に携わった経験者なら、強く共感できるかもしれません。フリーミアムベースの個人向けWebサービスにおいて、規約に違反し・第三者に迷惑をかけ・運営に過度な要求をしてくるモンスターユーザーに対し、会社として唯一実効性のある対抗手段・ペナルティ策が「そのユーザーのアカウントを停止する」手段しかない 点が、この文言にこだわったポイントなのではと考えます。
そうした目線で「一切の責任を負わない」文言が挿入されていたmobage会員規約4条・7条を見ると、ユーザーが自分のアカウントを使えなくなった場合の措置・対応について述べた条文になっています。これらは、アカウントが使えなくなったユーザーからのクレーム対応において、「これまで利用していたアカウントの財産的価値を補償せよ」と要求してくるユーザーをいさめる際、しばしば活躍する規約条項でもあるのです。
形のないサービスをしかもフリーミアムベースで提供するWebサービスの運営者として、規約に基づくユーザーアカウントの生殺与奪権だけは守り抜きたい と考えたからこそ、判決まで戦ったのではないでしょうか。
「一切責任を負わない」型免責規定の本格的終焉
近年、「一切責任を負わない」型免責規定が話題になった事例に、コインチェック事件があります。この事件と利用規約変更の顛末は本メディアでも追いかけていましたが、訴訟前に最終的に「一切の」の文言を削除して同法に対応しました(関連記事:コインチェック利用規約の改訂と利用規約における全部免責条項の未来)。
こうした時代の要請を反映し、私も共著者として参加する『【改訂新版】良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』(技術評論社, 2019年)に収録したひな形でも、「一切責任を負わない」型免責規定をすべて削除する変更を講じた経緯があります。
DeNA社がこの条文を大切に維持してきたように、ユーザー対応を容易にするツールとしての利用規約の重要性は看過できません。しかしながら、今回のような注目事件で懸念が現実のものとなったことにより、従来のレピュテーションリスクの側面に加えて法的リスクの側面からも、「一切責任を負わない」型免責規定を削除する方向での見直しが求められていく ことになるでしょう。
画像:mobage Webサイト, Macrovector / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)